数日前、人里へと運良くたどりついた外来人の青年いた。
彼は経済的理由で自ら命を断とうとし、幻想郷にたどり着いたのだ。
しかし、外の世界から逃れたため、命を断つ理由がなくなり
ためらうことなく幻想郷へと定住することを決心したのだ。
そして、今彼は人里の地理を覚えるため散策をしていた。
ちょうど、人里から迷いの竹林へと続く道へと差し掛かったときだった。
??「ああああああぁぁぁ!!!あああああぁぁぁぁぁぁ!!!!」
竹林のほうから奇声が聞こえた。
見ると、まだ十代と思われるの若者が竹林をかきわけ、こちらに走ってくるではないか!
青年は若者が発する奇声と、突然の出来事への驚きから体がすくんでしまい、
体が動くようになったのは男に上着を掴まれた後だった。
若者「ああああああぁぁぁ!!!!」
青年「なんだよ!やめろって!!」
若者は奇声をあげながら、青年を上下に揺らし、竹林の方を何度も振り返っている。
その顔に激昂した表情はなく、恐怖がはりついたような表情だった。
青年「なんなんだよ!いったいどうしたんだよ!?」
若者「ああああぁぁぁ!!ああああああ!?」
若者は叫ぶばかりで会話ができない。
そうして揉みあっていると、
迷いの竹林の上方から赤青の奇抜な服を着た女性が猛スピードで飛んでくるのが見えた。
青年は迷いの竹林の奥にあるという永遠亭の話を思い出していた。
其処に住まうという薬師、八意永琳の名前も……
永琳「○○くん!?何やってるの!○○くん、病室に戻りましょう!大丈夫!?さぁ、病室に戻るのよ」
そういいながら、八意永琳は○○と呼ばれた若者を背中から羽交い絞めにし、
青年から引き離すように上空に浮かぶと、
青年の方に振り返り、一度だけ礼すると、何も言わずに飛び去ってしまった。
『ああ、そいつは竹取りをしていた〇〇だな』
青年は急いで自身が居候させてもらっている人里の守護者の所へと戻り、
事の次第を話すと、慧音はそう答えた。
『迷いの竹林の竹を売って生活していたのだが、夜遅くまで竹を取っていた時に
性質の悪い妖怪に脅かされたらしくてな。里に帰ってきたときには心が壊れていたよ……。
それ以来ずっと永遠亭に入院している。たまに今日のように脱走するんだ……』
慧音は嫌な思い出のように話した後、目を合わせないように顔をそらしてしまった。
青年はただ、
(はぇー、幻想郷は怖いなぁ、戸締りしとこ)
と他人事にしか思わなかった。
彼に妖怪の魔の手が迫る三日前のことであった。
迷いの竹林の奥、永遠亭
永琳によって連れ戻された○○は、病室の四方から伸びた鎖によって大の字の拘束され、
先ほどまでと違い、ちゃんとした言葉で永琳に抗議していた。
○○「やめろ!はなせ!!」
永琳「○○くん、あなたは病気なのよ」
○○「てめぇがあの八雲紫に頼んで、変な結界張らせてるのが原因だろ!!」
そう、この若者○○は決して病人ではない。
八意永琳が八雲紫と取引をし、
永遠亭の敷地の外に出ると「正気と狂気の境界」が入れ替わるように仕組んだのだ。
永琳「口の聞き方が悪いわね……。○○、お薬の時間よ?」
永琳はニッコリと笑みを浮かべ、○○へ注射器を向けた。
○○「ふざけんな!やめろ馬鹿!……あっ」
医者が病気になったとき、医者を治療する者はいない。
最終更新:2012年11月20日 15:34