リグルの眷属からの監視もとい護衛が四六時中○○の辺りをうろついている物だから。
虫と言う物がはっきり言って苦手だった○○も、半ば諦め混じりの慣れが支配していた。
ただ、彼らリグルの眷属の情報網のお陰で……食える植物の確保には難儀しなかったし。
幻想郷では中々味わえない肉食も、比較的容易だった。
ただし、虫たちの狩は壮絶の一言だった。
いくら鋭い牙を持つ虫であろうとも、一匹一匹は非常に小さく。はっきりいて致命傷には程遠い。
それを手数で、獣の全身に大量の数が群がる事で補うのが常だった。
「○○、一匹狩れたよ!」
嬉しそうに狩った獣を指差すリグルだが……絶命した獣には最早皮膚など無く。
虫に食い荒らされた場所には皮膚の代わりに……赤黒い肉の塊があるだけだった。
以前。虫たちに獣の脳を食い荒らして、肉を無傷で狩る方法を見せてくれたが。
それもそれで、絶命するまでの狂いっぷりは肉を食われる場合の比ではなかった。
暴れて、叫んで、口や鼻から何か気持ちの悪い液体をドロドロと垂れ流して。
生理的に受け付けがたい物だった。
なので、脳ではなく全身を食い漁る方で良いとリグルに懇願した。
「ありがとう、リグル。……じゃあ捌くか」
狩った後の獣の処理は○○とリグルの役目だった。
まず、肉の表面を。虫に食い荒らされて、傷物になっている部分を薄く削いで行く。
削いだ肉は、眷属に与えている。働いてくれた対価として、分け与えていた。
一通り削いだ後、次は獣の頭を豪快に切り落とした。こいつも眷族に与える。
「そら、食っちまいな」
ごろんと獣の頭が転がっていく。中々気味の悪い光景だが……大量の虫が一斉に飛び掛る様に比べれば。
獣の頭がゴロゴロと転がっていく様子の方が、まだ見れる光景だった。
「ふぅ……じゃあ小屋に戻ろう」
本格的な肉の処理は、最近リグルと済む為に作った家の脇に併設した小屋で行っている。
虫の類が○○の周りをうろつくようになり。○○は里で孤立感を深くしていた。
ただし、あからさまな村八分は受けなかった。リグルに好かれていると言うのは周知の事実だからだ。
リグルの不興を買ってしまえば……彼女は眷属を総動員して里の作物を食い荒らすだろう。
それが怖くて……表面上は、他の物と同じように。皆○○と接してくれた。
そこにある本音は見え見えだったが。
「あ、駄目じゃないか。○○にたかっちゃ駄目って、いつも言ってるだろう」
獣を担ぐ為に屈んだ際、リグルが何かを見つけて叱責するような声を上げた。
「○○、動かないで。今取るから」
そう言って、リグルは○○の背中から何かを取り除いた。
「もう……君が肉より血の方が好きってのは知ってるけど。だからって、○○にかかった返り血まで狙わないでよね」
リグルの手には、一匹のクモがその足をジタバタとさせながらもがいていた。
以前ならば。虫にせよ何にせよ、何か得体の知れないものが背中を這いずり回っていたら。
すぐに気付いて、素っ頓狂な声を上げて転がっていただろうが。
肉の解体で血しぶきを、それ以前にリグルとの住まいでは常時どこかから無視が這いずり回る音がする物だから。
そういう感覚に、すっかり鈍感となってしまった。
「蜘蛛ってさ、正確には虫じゃないって言うけど」
「うん、まぁそうなんだけど。地底の蜘蛛は、病を操るから」
「まぁ地底に近かったりそこで住んでる蜘蛛はその病を操る蜘蛛に従ってるかもしれないけど」
「地上に住んでいる蜘蛛は、全部じゃないけど割りと従えてるよ」
そう、虫の範疇に留まらない。多種族を従える王になるんだよ!そう言って高笑いを浮かべていた
「あ、大丈夫だからね。蜘蛛って意外と綺麗だから、お風呂で思いっきりこすらなくても大丈夫だからね」
リグルは、○○が虫に這われたりするのを苦手だと言うのは知っていた。
それを思い出して。○○に嫌われないように、咄嗟に弁解の言葉を並べるが。
あまり何とも思わなかった。
こんな凄惨で、常識はずれの渦中にいたら、それぐらいの話。些末としか思えなかったが。
そんな反応を見せればリグルが傷つくのは分かっているから。
「大丈夫だよ、リグル。もう慣れたから」
そんな受け答えをするのが常だった。
最終更新:2012年11月21日 12:28