( ゚д゚ )<ひとつに……なりましょう……
未だに残暑が辺りを支配し、秋を退けている妖怪の山。
その麓に近い渓流にて河童のエンジニア、河城にとりが感じ取った気配に向けて様々な材料を裁断するのに用いるアクアカッターを向けると、スキマ妖怪から仕事を請け負い外界へと向かった筈の恋人○○の姿があった。
しかし、彼の姿はにとりの覚えているものとは異なり、目や口から奇妙な光を放っている。
──コレは○○じゃあ、ない……!
頭では理解していても、愛する男の姿をしたソレへの攻撃を一瞬躊躇ってしまったにとり。
しかしながら、それでも十二分に間合いは保たれており、厚さ10cmもの鋼材でさえ裁断可能なアクアカッターで以って、偽者の首を打ち落とす事は容易である。
……筈だったのだが。
「ひゅいっ!?」
「にぃ……と、り」
ソレはおぞましさを感じさせる挙動、そして冒涜的な残像を伴ってにとりの至近に瞬く間に移動した──何か、波長でも狂ってしまった光学迷彩のようだと頭の片隅で考えた。
にとりが意を決して撃ち放ったアクアカッターの圧縮水流は明後日の方向へと打ち出され、距離によって威力が減衰した水流が通りがかった厄神を打ち落とす。
能力を使って大量の水を一瞬で再装填したアクアカッターを突きつけようとしたが、もはや手遅れだった。
○○の偽者はにとりへと光を放つ眼窩を近付け──光に含まれた、凄まじい情報の放流に河城にとりという妖怪の意識と正気は吹き散らされてしまった。
河城にとりの恋人である○○に横恋慕したMarker……もとい、鈴仙・優曇華院・イナバが自身で扱え切れないほどの出力で以って河城にとりを狂気に落とし込んだ事件である。
狂気に囚われた河城はありとあらゆる生物が自身と○○を害する凶暴なナニかに見えるようになってしまい、外の世界で溶接の際に用いられる面を被り、様々な工具を駆使して幻想郷の人妖を解体した。
最初の犠牲者は元凶ともいえる鈴仙・優曇華院・イナバ、そして妖怪の山に住まう幾柱かの神々と妖怪も犠牲となっている。
翌日には妖怪の山で山狩りが行われたが、裏をかくようにして人里へと赴いた河城は光学迷彩を使用して人里の人間十数名を解体。 生き延びた人間によると、恋人を探している様子だったらしい。
事態を重く見た妖怪の賢者によって○○が呼び戻され、博麗の巫女と共同で河城の説得に当たるように命じられたが、○○はこれを拒否して単独で河城の元に赴く。
そして、危険を顧みずに彼女の説得に向かった○○と河城自身を最後の被害者に計上して、この異変は終結する。
○○を追って異変解決に赴いた博麗の巫女は、その事件の最後を目撃した唯一の人物であり、多額の賄……ではなく、清く正しい賽銭と想い人の写真を対価に閉ざしていた口を開いてくれた。
「なんか変な面を外して、あの外来人の死体を抱えながらあーあー呻いてたわね。 それから急に笑い出して、みょんなガタガタする道具を爆発させて死体諸共木っ端微塵だったわ」
元凶も実行犯も死亡というなんとも後味の悪い結末となったこの異変は、河童と言う種族の危険性を如何なく幻想郷に知らしめる結果をもたらし、妖怪の山の上層部では河童の技術開発を制限するべきであると言う意見も──。
異変の事を載せた号外が風に舞い、無縁塚にしゃがみ込んでいる妖怪の傍をスケープゴートのように転がっていく。
「……○○、○○ぅ」
その妖怪──河城にとりは腐臭を放ち始めた死体に頬ずりをしながら、陶然とした表情を浮かべていた。
光のない目や唾液が流れるに任せた口元からして、およそ正気とは言えない状態である。
傍らには、博麗の巫女が言うところのみょんなガタガタする道具……外の世界、それも恐らくは未来から流れてきたと思しき河城にとり秘蔵の機械『コンタクトビーム』が転がっていた。
特殊な操作法で以って、衝撃を地面に叩きつける事で周囲の時間を遅延する……原理は全く以って不明だったが、その機能を使って巫女の目をくらまし、にとりは○○の死体と共に逃げたのである。
そして、一部の奇矯な者以外は近付かない無縁塚に降り立ったにとりは、抱きかかえた死体を愛撫し続けていた。
「あはっ……ようやくわかった。 ひとつになるって……いってたよね……」
死体を余す事無く撫で回したにとりは、おもむろに死体へと齧り付く。
「そうだよねぇ……盟友と私は、人間と妖怪……なんだから……」
骨も髪も。
悪食で知られる宵闇の妖怪ですら残す食べ辛い部位を残す事無く、にとりは○○の身体を貪る。
割れた骨が刺さる、歯が折れた、顎に力が入らない。
けれども、愛しい人はとても美味しいくて、○○とわたしは幸せなのだ。
「ひとつに、なろうよ……○○ぅ……」
そして、無縁塚で妖怪と人間はひとつになった。
最初ネタで書いてたのに、陰惨な内容……The Udonge Markerの影響に違いない。
最終更新:2012年11月21日 12:37