霊夢/15スレ/974
かつて、博麗神社では冬籠もりの間、巫女が年頃になると付き人を1人付けたという。
幻想の郷に紛れ込み、行く先の無い外来人を、春が開けた時に外界へと戻す事を条件に付き人としたという。
名目上は巫女の世話役として。
だが、実際には世話役というよりも、郷内部のあらゆる勢力の活動が停止する冬の間に子作りをする為に。
一冬の間に巫女は女になり、その腹に次代の候補たる次の子供を宿す事になる。
そして役目が済んだ男は管理者かその意を受けた者によって殺され、地下水脈に通じる井戸へと流されたという。
生きて返して巫女に未練が残されない様に。博麗の巫女は、あらゆる存在から浮いていなければならないから。
男という存在に括られ、その属性が消えてしまわぬ様に、殺して因果を断ち切る為に。
朱で彩られた博麗神社の大鳥居。
そこに腰掛けた紫のドレスを着た淑女が、眼下の神社を眺めている。
神社で生活しているのは、主である霊夢と最近同居を始めた外来人の青年だ。
霊夢は○○に相当入れ込んでいるのだろう。
細々と世話を焼き、○○が恐縮する程手を尽くしている。
半月前からは、寝床から甘い嬌声が上がり始めた所からして、既に女すら捧げているようだ。
普段の彼女の本質的な無関心振りを見れば、外観だけそのままで何かが中身に乗り移ったのではないかと錯覚するに違いない。
ヂクリ、と紫の身体に痛みが走る。
その、仲睦まじい様子が、巫女の男に対する執着が。
彼女に過去の失敗を思い出させるのだった。
付き人の因習は、既に神社から絶えている。
かつて行っていた習慣が絶えるのには理由がある。
それは、八雲紫が感じる痛みに起因していた。
数代前の、昔の巫女の話である。
紫は彼女の本性を見誤っていた。
比較的順調に郷の運営が出来ていた為、油断していたのだろうか。
巫女と付き人の青年が、本心から愛し合っている事を軽視してしまった。
巫女の青年に対する愛情が、あまりにも強すぎる事を大して気にしなかった。
不吉な兆候は幾つか起きていたのに、彼女は何時も通りに事を済ませてしまった。
付き人であり、巫女の思い人である□□と呼ばれた青年を殺してしまったのだ。
溜息をつき、紫は自身のドレスの内側を覗きこんだ。
白い、黄金律の如きバランスを誇るその身体に、一条の紅い傷跡がついている。
あの後、事の真相に気付いてしまった巫女との戦いでつけられた傷だ。
血涙を流し、怨嗟に満ちた叫びをあげながら全力で襲いかかってきた巫女。
結果として紫により博麗の巫女として不適合とされ処断されて男の後を追う事になった巫女。
瀕死の彼女が紫と刺し違える事を覚悟して放った一撃。
普通の攻撃であれば瞬時に修復出来る筈なのに、長い長い回復の時をかけてもまだ傷跡まで癒すに至らない。
あの一撃が致命的な場所に当たれば、紫の存在そのものが消滅すらしていたかもしれない。
それ程に重い一撃だったのだ。
死んだ後も憎悪に満ちた目を見開いたままの鬼女の如き形相と。
倒れ伏し全身を朱に染めていく巫女の姿を未だ紫は忘れる事が出来ずにいる。
「□□を死なせたこんな世界なんて、幻想の郷など滅び去ればいい!! 紫、お前の幻想郷とその理想に災いあれ!!!」
死の直前に彼女が残した呪いの絶叫を、未だ紫は忘れられない。
女の情念は世界すらも焼き尽くせる。
それを知っているからこそ、霊夢と○○の仲睦まじさを見る紫の心中は深く澱むのだ。
彼女の嬉しそうな恋に満ちた面持ち、独占欲に満ちた女の表情が、あの巫女が幸せだった頃と重なるのだ。
紫は物憂げに神社を見下ろす。丁度、腕を組んだ霊夢と○○が神社の中へと入っていく所だった。
妖怪の賢者の憂鬱は、今も尚解ける事はない。
感想
最終更新:2019年02月02日 15:28