霊夢/15スレ/982
境内に腰掛けてぼんやりと茶を啜っている霊夢を横目に、私は台帳を捲っていく。
その管理者特製の台帳は現在、幻想郷に存在する外来人達の名前が管理されている。
私は目の前で緊張している2人の外来人の名前を探し当て、名前を読み上げて相違無いか確認する。
彼らの名前は黒字で書かれている。他の名前も同じか、消えかけていたり、紅い文字になっていたり、名字が見覚えのあるものになっていたりしていた。
「では、2人ともこの郷から外界へ戻る事となる。戻れば郷に再来する事は恐らく叶わないがよろしいか?」
「はいっ、早く、戻してくださいよっ」
「…………はい」
せき立てる若者と、何処か迷いを秘めたもう一人の少年が取り敢えず同意したので、彼らの名前の下に「帰還」と記す。
二人に儀式を行うので少し待つように言い、霊夢に声をかける。
彼女は面倒臭そうに返事をすると、二人に付いてくるように言い裏庭の方へと歩いていった。
いつものように、結界の厚さを調整し穴をあけて彼らを帰すのだろう。
「○○……」
「解っているよ。儀式が終わったら声をかけてくれ」
彼女の声がかかる前に私は祭壇脇にある小部屋の戸を開けていた。
中に入ると自動的に術式によって戸に施錠がされる。中にはびっしりと呪符が張られていた。
徹底的に内側へと押し込める、中に入ったものを決して逃がさぬ結界だ。
霊夢は夫である私に、宮司としての教育を施してくれている。
様々な祭儀や儀式も教えて貰っているが、帰還、または結界の調整だけは絶対に立ち会わせてくれない。
彼女は恐れているのだ、私が外界に戻ってしまう事に。
私が傍に居る事、私が共に暮らしている事、私と愛し合っている事。
もはや、霊夢にとって決して欠かせられない事になっていた。
だからこそ、こうして外界に通じる穴が発生する可能性がある時は、私は此処に居なければならない。
霊夢を愛してるから、私は外界に戻るつもりはない。
だが、彼女の心にある恐れがこの部屋を作った。
それはどうしようもない女の愚かさであり、霊夢の深すぎて行き過ぎた愛情と執着だった。
この部屋は私を手中に収めて置きたい、決して逃がしたくない彼女の心の現れと言える。
人によっては恐ろしくなったり百年の恋が醒めたりするだろう。
だが、私にとっては些細な事だ。
彼女に、博麗の巫女たる彼女に執着され、固執され、盲愛される。
これ程得難い愛があると言うのだろうか。無重力で、無関心故に博麗の巫女となれた彼女に愛されるという奇跡を!
だから私にとってこの様な扱いは寧ろ嬉しく感じる。彼女の愛をしみじみと感じるのだ。
ギシリと戸が開き霊夢が顔を出したので、その手を引っ張って部屋の中に引き込む。
「ちょ、ちょっと……んむぅ」
彼女の事を考えていたら溜まらなく愛おしくなったので、唇を塞ぎ優しく組み敷く。
取り敢えず落ち着くまでこの部屋で戯れさせて貰おう。
何せ、ここは彼女が作った愛の部屋なのだから。
感想
最終更新:2019年02月09日 18:55