アシスタント・ディレクター○○はテレビ局の編集室で頭を抱えていた。
この夏に流す心霊現象特集を撮影してきた各撮影班の映像をプロデューサーに命じられ確認してたのだが……。

「やばいな、これはやばいよ。こんなの流した日には大惨事だ……」

彼は、数年前に逗留したとある屋敷の影響か、非常に霊感が強い。
自分の願い(テレビ関係者)になる為、『然るべき時』までこちらに戻ってきて社会復帰してた訳だが……。

「こりゃあ、辺り構わず祟りをばらまく最も質が悪いタイプだ。あの子が見たら即行で切るだろうな」

映像に映っているのはどこぞの日本家屋、人形を抱えて喋る婆さん。

そして……後ろにぼんやり映っている少女の霊。

逗留時に色々なものを見てきたが、あれだけ見境のないのは珍しいだろう。

「取り敢えず、最悪のケースは防がないと……」

素早く映像のデータを取り消し、DVDもシュレッダーで破壊しておく。
念のために撮影班のメンバー、撮影先の旧家にも電話をかけてみた。
メンバーとは誰も連絡が付かず、旧家の方ではお手伝いさんが出て先日老婆が急死した事を告げた。
恐らくは、全員呪い殺されたのだろう。となれば、最後に残ったのは……。

「俺って事かいお嬢さん?」

先程まで○○以外誰も居なかった編集室に、1人の和服姿の少女が無言で佇んでいた。
抜けるように白い肌と、艶やかな長い黒髪……典型的な日本美人だ。
見開かれた人間を殺すことが出来る禍々しい凶眼を除けば、だが。

「止めておきな。これ以上誰かを呪うような真似も。
 そして何より俺を呪い殺そうだなんて考えるなよ……大人しく、成仏してくれ」

勿論、話など通じる訳がない。
見境無く呪いと死を振りまくのが悪霊だ。
そして少女は間違いなく悪霊だった。
室内の空気が一気に重くなる。呪詛の密度が高まってきたのだろう。
このまま数分経てば、○○は怪死を遂げるだろう。
倒れてきた棚の下敷きになるか、心臓発作か、機材に頭をぶつけるか、何れにしても不可解な死に方で。

「……ああ、来ちゃったか。お嬢さん、ゲームオーバーだ。恨むなよ」

死が迫る中、○○はすっかり落ち着いていた。
それどころか、彼女を哀れむ言葉すらかけている。
しかし少女は怨霊である、ただひたすらに呪う存在である。
故に○○の言葉を訝しむ事もなく……故に反応が遅れた。

「あらあら、誰の許しを得て彼に死を与えようとしているのかしら?」

後ろに現れた何かを感じ取り、少女が振り返った時には既に遅かった。
数百を超す霊弾を瞬時に浴びた怨霊の少女は、悲鳴すら上げる間もなくこの世から強制的に成仏させられた。

「すみませんね」
「良いのよ○○、まだ、その時じゃないんだから。だからね」

パン、と扇が開かれると同時に部屋の空気が一変する。
先程まで部屋を包んでた澱んだ死の気配は打ち払われ、室内には無数の蝶が飛び交っていた。
その中で、○○とかつての逗留先の主は話していた。

「勝手に死んでは駄目よ……あなたは、私が死に招くんだから」
「解ってますよゆゆ様」

澱み、澄んだ目でうっとりという当主の言葉に、どこか達観した口調で応える○○。
彼は解っているのだ。自分に死を与えられるのは、自分が愛する、自分を一途に愛する彼女しかいないと。

確かにあの悪霊は見たら最後の存在だった。
しかし、それ以前に○○は魅たら最後の存在に魅入られたのだ。
全くをもって、間が悪かったとしかいい様がない。

「そんな私達の間に入ろうだなんて……とんだ間女だこと」

悪霊も蹴られて成仏する訳である。










和服姿の少女 【自分を視覚した人間に死を与える程度の能力】
犠牲者が○○で無かったらかなりの脅威を世間に振りまいただろう悪霊

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最終更新:2013年04月08日 16:31