地霊殿にある男がやってきた。
正確に言えばやってきたのではなく、お燐が死体だと勘違いして連れてきたのだが。
「あやや、お兄さん死んでなかったのかい?」
お燐はどうしようものかと考えていたが、すぐに
「まあ、さとり様に聞いてから考えるか」
と、考えることを放棄した。
そして、ここにやってきたのがまあ事のあらましだ。
「さて人間、あなたはどうしたいのかしら?」
私はそいつの心の中を覗こうとした。
「え? あれ? どういうこと?」
なぜか男の心を読むことができなかった。
「人間言うな。俺は確かに人間だが、○○という立派な名前がある」
○○というらしい男はこんな状況だというにも関わらず、そんな文句をつけてきた。
「人げ……○○さん、あなたはどうしたいの?」
「どうしたいもこうしたいも、まずここはどこだよ。なんで俺はここにいるんだ?」
○○はそんな不遜な態度をとっていたが、不思議と嫌な感じはしなかった。とりあえず○○に現状を伝えた。
「ふーん、それで俺はこんなところにいるのか。まあ、いいけどな」
「いい、とは?」
「俺は元々逃げていたのさ。この世のしがらみからな。それで地の果てならぬ、地の底に来たってんならもう行くところもない」
○○はどこか寂しそうな、それでいて安堵した顔をした。さとりは次第に彼に興味を持ち始めた。
「あなた、ここで働きなさい」
「え」
○○が素っ頓狂な声を出した。無理もあるまい。少し前の私でも驚いたことだろう。本当に今、ふと思い立ったのだ。
「ここで執事をするの。とはいえほとんどの仕事はペットにやってもらっているし、あなたの仕事は食事作りと掃除くらいね」
「はは、俺はペット扱いか」
「どう思おうと構いません。やるのですか、やらないのですか」
「ふっ、ここで真っ新な気持ちで生きていくのもいいな。やる。やるよ」
こうして、○○が地霊殿で暮らし始めた。
最終更新:2013年06月21日 13:13