私は医者だ。人の病や怪我を治すのが仕事。
忘れられた気功を操る医術で人々を治すのが仕事だった。
だが、その医術も祖父から受け継いだ直後廃れてしまった。
世間はみな、医師になりたての若造が使う得体の知れぬ医術になぞ信用しなかった。
医術も私も忘れられる対象になったからだろうか。私は幻想の郷に紛れ込んだ。
「永琳さん、身体の方はもう大丈夫ですよ……お願いだから自傷など止めてください。蓬莱人だからって気軽に傷を拵えるのは……」
「解ってるわ……で、○○、私の心はどう?」
上半身が裸の美女、私が世話になっている屋敷の医師である永琳が蠱惑的な笑みを浮かべる。
私は静かに溜息を吐くと、白磁の様な腹部に触れて自分の気を張り巡らせる。
「んっ……うぅん」
甘みを帯びた艶のある声が聞こえたが、集中で気を散らす事無く医療を続ける。
私は彼女の身体をよく知っている。毎日の様に触診し、毎晩の様に肌を合わせている。
彼女の身体が不死であり遙かなる時を生きてきた事も、彼女の身体が女性として如何に魅力的であり男を悦ばせるものである事も。
「……何時も通りです。完治は……見込めません」
彼女の気は、想いは、私だけに向けられていた。
実際、私がこうして気を使い触診すれば、彼女の気が私の中に逆流してくる。
または、彼女の気と這入り込んだ私の気と混じり合おうとしてくる。
余りにも強すぎる気が、私との融合を望んでいるかの様に。
「ねえ、○○。今日はもう……休診にしましょう?」
彼女が耳元で優しく、溶けそうな声音で囁いた。
私は諦観と期待に満ちた面持ちで頷く。
これ以上診療を続けても仕方がないと、衣擦れが大きくなり永琳の吐息が大きくなった診察室で私は思う。
彼女の、強すぎる、偏り過ぎる、病んでしまった恋心は決して完治しないのだから。
最終更新:2013年06月21日 13:32