泣いた後、彼は私の頬を撫でてくれる。
「本当は貴女を叱るべきなんだろうけど、どうしてもそういう気にならない」
そう言う彼には本当に申し訳ないと思う。
彼が本心から私を愛してくれている、心を読むまでも無く解る。
なのに、私は今日も彼を部屋から出す事が出来なかった。
元々私の部屋の周りには浴室やトイレなどを配置してあった所為もあって、そこを壁を細工して繋げてからは尚更だった。
サードアイは、常に彼の方を覗う。
彼の心を窺う。私を愛してるか、私を疎んでいないか、自分を監禁している私を……軽蔑していないか。
私の心は常に怯えている。外側にも、内側にも怯えている。
他の女に○○を奪われないか怯えている。○○が私以外の女性に心奪われないか怯えている。
私に忠実なペットであるお空やお燐ですら、猜疑の対象になってしまった。
2人ともとても可愛いし、○○によく懐いていたから……それ位でも、私の心は容易くかき乱されてしまう。
それを一度こいしに指摘されてから、私は自分の気持ちを抑えられなくなった。
私は彼を自室に閉じ込めてしまった。それが、何の解決にもならない事を知っているのに。
○○は宝石じゃない。彼は自分の意志を持った人間だ。
宝石は黙って金庫にしまわれるだろう。だが、人間が閉じ込められて良い気分である訳が無い。
最善なのは自分のした事を素直に謝罪し、彼を介抱すればいい。
だが、猜疑と怯えが私の心を縛る。一度閉じ込めたものを解放すれば、もう彼は戻って来ないかもしれないと。
幾ら心を覗いても彼には負の想念は無い。だけど、解放した途端にそれが発生したら。私に……愛想を尽かしてしまったら。
そうなると、もう私は部屋のドアの前に座り込むしかない。
時折心配そうに私の方を見る彼の視線から目を逸らしながら。
ふと、ウツラウツラしてきた。ああ、最近は睡眠もまともにとれて無かったから。
せめて、施錠を確認、して……から。
誰かが私を抱き上げる。○○かしら。
このまま彼が私の寝ている間に私の部屋から去ってしまったらどうしよう。
夢の中で不安と孤独感に包まれ藻掻いていると、柔らかい感触の上に降ろされる。
私の布団に降ろしてくれたのかな。掛け布団が掛けられる。
直ぐ傍に彼の温もりを感じる。唇に温かい感触が少しだけ触れた後、私は抱き締められた。
私は眠りの中で泣きながら藻掻き続けた。何とか、○○を抱き返したくて泣き叫んでいた。
ごめんなさい、ごめんなさい。
自分の歪んでしまった気持ちを一方的に押しつけてしまって。
その気持ちを変えることも出来ない臆病で愚かな自分を○○に許されてしまって。
何よりも、そんな有様でも○○に愛されている事を悦んでしまう自分の浅ましさが、とても悲しくて私は何時までも心の中で泣き続けた。
夢の中のサードアイは、私の気持ちも○○の気持ちも推し量れず、ただ、目蓋を閉じたまま沈黙していた―――。
最終更新:2013年06月23日 10:48