香林堂は今日も平和が続いていた。
店主である森近霖之助が住み込みで雇った外来人の青年〇〇が一癖も二癖もある客を気持ち良い接客をするからだ。
だが、最近の霖之助の表情は冴えない。
客には笑顔で挨拶をするが、顔は引き攣り冷や汗がダラダと出る。
それは何故か?
〇〇が接客をしている幻想郷の重鎮達が、〇〇目当てでおっかないからだ。
人妖、神と問わずに気さくに接する〇〇を彼女達は伴侶として迎え入れたくほぼ毎日、顔を出していた。
主な客は博麗の巫女、白黒の魔法使い、紅魔館のメイド長、妖怪の山にある神社の現人神と二柱の神、管理者である八雲の主従に、白玉楼の主従、永遠亭の薬師と姫の主従、人里の守護者。
さらには最近から人里にある寺の毘沙門天代理が無くした宝塔を〇〇が拾い店に並べようと、すんでの所で寺の住職が現れ事情を説明され、〇〇は霖之助に了解を取り快く返したことにより客が増えた。
おまけに〇〇が、ある意味【思わせ振り】の態度をするから霖之助には厄介だった。
〇〇は、よく外界の歌を口ずさむが、その歌の歌詞をかなり前向きに捉える彼女達をさらに焚き付ける。
余計な事はしたくない霖之助だが、一度だけ親切心で「僕は静かな方が好きだから歌うのは、ちょっとね…。」と忠告し、〇〇が歌わなくなると霖之助が人里へ食料を買い出しに行く途中で、弾幕勝負の流れ弾が「たまたま偶然」擦める事が多々あった。
以来、〇〇が歌を口ずさむのを止めなくなった。
そして、霖之助が伝票整理をしている最中に今日も〇〇は店先を箒で掃除をしながら歌を口ずさんでいるのが聞こえて来た。
〇〇「おねえさん…。」
【あぁアナタが欲しいよ、こっち向いて。さぁ踊ろうよ、心は病気がちさ。
この世界、時には素敵さ。
生まれて来た証しよ、ご機嫌よう。
「愛とはアナタため」だとか言ったら疑われるけど、がんばっちゃうもんね。】
〇〇「えっと、塵取り塵取りは?…あったあった。」
【今日も明日も、お元気でLOVE LOVE しよう。】
〇〇「これで良し。霖之助さん、店先の掃除終わりました。」
霖之助「あ…あぁ、ご苦労様〇〇君。」
やはり顔色が冴えない霖之助。それもその筈、〇〇の歌を何かしら能力や直接見ていた重鎮の客達が力を解放し店へ近づいて来る御蔭で森の木々が騒ぎ獣は逃げ、霖之助本人も気圧されからだ。
今の所、拮抗状態が続いているが何処かしらが弾幕勝負で灰燼になるのである。
霖之助(嗚呼…いっその事、〇〇君を誰かに差し出して楽になるけど多方面から恨まれるだろうし…。やはり本人達で解決してもらおう。)「…………店への被害は勘弁願いたいがね。」
〇〇「?何か言いましたか霖之助さん?…あ、いらっしゃいませ。」
入って来た客を見て「今日も平和が続きますように。」そう切実に願う霖之助だった。
最終更新:2013年06月23日 10:58