私は白狼天狗だ。妖怪の山の周りを哨戒し、迫り来る侵入者を排除するのが役目を持つ門番。人間とは関わりを持たず、むしろ蔑み、見下している。寿命が短く、脆い人間は下等生物だ。そう教えられてきた。
私はそんなしきたりに疑問を持っていた。山に神社ができた時にやってきた巫女や魔女は人間だというのに桁違いの力で警備を突破し、神を下した。さらに調べてみると、人間から仙人や魔人、魔女になった人間が強力な妖怪を従えたり、倒したとの情報もある。人間は計り知れない力を持った種族だ。力の使い方を学べば、強力な人種となる。侮れない。下手をすれば妖怪の山の脅威となるかもしれない。だから、私は人間を観察している。一体どのようなことが起こればあそこまで強くなれる事ができるのか。その強さの秘密を探っていた。その強さを自分のものにして、見返してやるために。
「全く・・・今日はついていないわ。せっかくの非番なのに哨戒のシフトにいれられるなんて」
一人呟きながら山の中を歩く。
本来なら哨戒天狗は滝の裏にある待機所にいて、侵入者を察知した時に出動するのだが、私は常に山を歩き回っている。他の天狗からは無駄なことだと言われているが、ただ将棋をしているより、動き回っている方が私の性に合う。
それに、一人でいる方があいつらの声を聞かずに済むし。
「・・・?」
そんなことを考えながら歩いていると、何か音が聞こえてきた。何かが叫んでいるような、そんなお声。それと同時に、雷のような音も聞こえてくる。
(侵入者? それにしては、騒動が大きい。それにあの雷の音・・・)
妖怪の山には様々な妖怪が住んでいるが、お互いに干渉しあわないというのが暗黙の了解として定められている。ともすれば博麗の巫女が定めたというスペルカードによる弾幕勝負だろうか。だとしても、雷を使う人が妖怪の山で戦う必要はないはず。
(だとしたらいったい誰が?)
慣れない動作でぎこちなく剣を抜く。他の白狼とは違い戦闘訓練を受けていないため、どうしても動きがおかしくなる。ついでに言えば、剣を握り、戦闘をするのも初めてだ。本来なら哨戒をするのが任務だが、私は医療の場が多かった。その理由は私の毛並みにある。私の毛並みは、雪のような白ではなく、血に染まった赤。それに加えて力と身体能力が人間並みに弱い。仲間の間で大分虐められていたが、ある能力のおかげで今まで生き残れることができた。今回はどうなるかな・・・
心臓の鼓動が耳元で鳴り響くのを聞きながら、音源へと向かう。近くになるにつれて振動や悲鳴が聞こえてくる。そして、その場所についた時、私は信じられないものを見た。
「・・・・え?」
そこにあったのは、かつて生物だったと思われる巨大な肉塊と夥しいほどの血液だった。どうやら大きなタイプの妖怪が戦っていたようで、周りは爆弾が爆発したかのように地面や木々が抉られ、空地のような広さになっていた。思わず尻尾が恐怖によって逆立ち、縮こまる。
(これが前線・・・思った以上に怖い・・・!! )
鼓動が早まるのを感じながら、少しずつ残骸に近付いていく。
精神的な存在である妖怪は肉体的なダメージでは死ぬことはなく、瀕死の状態になる。とはいえ、傷が癒えるまで動くことはないが、どちらにせよ危険であることには変わりがない。イタチの最後っ屁というのもある。それで大怪我追った白狼がどれだけいたか・・・
どうやら完全に瀕死の状態であるらしく、ピクリとも動かずに沈黙を保っている。剣で突いても、何の反応も返さなかった。
「ん?」
辺りに漂う血の匂いと腐敗臭に顔をしかめながら通り抜けると、すぐ近くの木に誰かがいる。一体誰? もしかして妖怪同士の戦いを見て気絶した人間? それとも人型の妖怪?
警戒をしながら木の裏へ回ると、そこには一人の男が倒れるようにして眠っていた。一瞬、山賊かと思ったが奇妙な格好が目に付いた。
「もしかして・・・外来人という人かしら・・・」
これが私と彼の初めての出会いだった・・・
最終更新:2013年06月23日 11:02