ざくざく、ざくざく。
暗い竹林に土を掘る音が響く。ざくっ、ともう一つ音がすると、途端に音は途絶えた。
「ひゃー、結構深くまでいったねー。鈴仙がどんな反応するか楽しみだなあ!」
くるりと振り返って二匹の白兎に笑いかけると、兎は目を細めた。
ちぇー、別に飛び跳ねろとは言わないけどさ、もう少しいい反応しないのかなぁと思う。
「まぁいいよ、あとは枯れ葉とかを被せて、っと」
てゐは慣れた手つきで落とし穴を完成させると、にししっと笑い永遠亭へと向かった。
「薬は売れたかしら?てゐ」
「えぇもうばっちりと!」
私はにこにことお師匠様に笑いかける。おっと私ゃちゃあんと売ったあとに掘ったからね?何も言わせやしないさ。
お金を渡し、自室に籠もる。
ここにいると、鈴仙が落ちたときの悲鳴がよく聞こえるのだ。
もう少しかな?あの月兎サマが薬売りを終えて帰ってくるのは。
今日私が薬を売りに行った理由は、退屈だったから。それだけだ。
暇を持て余すっていうのもなかなか平和なものだけれど、毎日毎日続けば飽きるし、月兎の真似はまっぴら御免(行事は別)だ。
あー、早く落ちないかなあ。
暫く時間が経つと、何かが穴に落ちる音と、悲鳴が聞こえた。
お、鈴仙かな?にしてはひっくい声だなぁ。
私は嬉々として永遠亭を飛び出し、落とし穴へと向かう。
辿りつくと、私は穴へ向かってこう叫んだ。
「大丈夫かー!?」
こう言うと鈴仙は「大丈夫なわけあるか!」と返してくる。しかし今日はそうじゃなかった。
「た、助けてくれー…」
阿呆みたいな声が聞こえた。男だ。予期せぬ事態に私はこう言ってしまった。
「えっ、あんた誰?」
男を引っ張り出し、怪我をしている上に土まみれ(深く掘り過ぎた)だったから、急いで永遠亭へ運んだ。
お師匠様に事情を話し、男の看病をする。
「あー、びっくりした…」
「ごめん…」
一応謝る。悪いのは私だ。でも、私が悪いけど引っかかる事がある。それは、どうしてこの人間がこんなところにいたか、だ。
普通の人間ならこんなところには居ない。というか来ない。帯びれ背びれのついた噂が飛び交っているからだ。
「どうしてあんなとこにいたの?」
私は率直に聞く。するとさっさと答えが返ってきた。
「…興味本意だよ。」
ぷいっ、と男はそっぽを向いた。んなわけあるかぁあ!と心の中で叫ぶが所詮こいつとはここでお別れ。
「んー、自宅で治療した方がいいわね。誰か手伝いを…そうだ、てゐあなたがやりなさい。決定」
…だったはずだが、この言葉で全てが崩れ去ったらしい。
かくしてこの男の看病をするために竹林と里を往復しないといけないことになったのだった。
ついでに怒られた。
初日。
「よいっ、と。…そう言えば人間、名前は何て言うの?」
家に着き荷物を置き尋ねた。相手は○○、と答えた。
○○は長屋のようなところへ住んでいた。壁なんて私が叩けば壊れてしまいそう。
こんなとこでやるのかぁ、妙に竹林から遠いし。
「○○、痛くない?」
「…痛くない、…。そう言えばあなたの名前は。」
「え、あ言ってなかった?てゐ、っていうんだ。短い付き合いだけどよろしく」
自分で白々しい、と思った。
よろしくしたくない。
続く
最終更新:2013年06月23日 11:08