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幻想郷に迷い込んだその日、俺は妖怪に襲われた。
そんな俺の窮地を救ったのは博麗の巫女、霊夢だった。
泣き叫び命乞いをしながらも恐怖で足が動かない、そんな状況で助けに来た彼女は、それはもう女神の様だった。
さも片手間で済ますように、軽く妖怪を撃退すると彼女は驚きながら俺を見つめた。
曰く、ここまで泣き叫ぶ大人を見るのは初めてだったとか、まるで童子のようであったと。
そんな彼女は俺を胸に抱くと、優しく「もう大丈夫だから」とあやす様に言った。
俺はそれだけで、もうだめだった。
簡単に言えば惚れた。
行く当てもない俺を彼女は神社へと連れていくと外へ送り返すまでの間、部屋を貸してくれる事になった。
しばらくの間、俺は彼女の顔をまともに見れなかった。
それは当然だろう。
ある意味最悪な出会いだった。
大の大人が、みっともない醜態を晒しながら、幼さの残る彼女に泣きながらしがみつくなど最悪だ。
まるで迷子になった子供が、漸く母に出会えて泣きつく様な真似を晒したのだ。
大の大人が、だ。
そんな最低最悪の出会いだったが、神社での暮らしはまあまあ、概ね良好…と言ったらいいのか。
否、現実逃避はよろしくない。
正直、冷静になればなるほど、彼女は、俺を弟か何かと間違えているのではないかと思う。
雑用を頼まれて…というか殆どが境内の掃除なのだが、をやっていると時たま来客が訪れる。
大抵が白黒な魔女だったり、妖怪だったり、妖怪だったり、妖怪だったりする。
…ここ神社だよなぁ?
首をひねって疑問に耽るが答えは出ない。出してはいけない気がする。
で、本題は参拝客は皆無だが来客の多いこの神社で掃除なんぞやってれば人目につく。
それで初見な妖怪は興味津々に俺に絡んでくるわけだ。
すると間髪いれずに飛んでくるは、巫女の札。
あれよあれよと弾幕勝負へと発展する訳だ。
が、境内では妖怪は人を襲わないって暗黙なルールがあると言ってやしませんでしたか? 霊夢さんよ。
はっきり言えば過保護、そんなに俺は頼りないですか?
決定的だったのが白黒との口論だった。
「なぁ霊夢、ちょっと過剰すぎじゃないか?」
「そんな事無いわっ! ○○は私が守ってあげないとダメなのよ! 凄く弱いのよ!?」
「○○だって困ってただろ? 会話ができないって」
「はんっ、妖怪達と○○がいちいち何を話すって? 必要ないでしょ」
「あー、だめだこりゃ」
こうである。
もちろん俺は口出し無用である。
貴方は何も言わなくて良いのよ的なザマスチックなマザーを想像すれば早い。
たったひとりのヘタレを自称っ、見た目は大人っ、立場は子供っ。その名は被保護者○○っ。
…むなしい。
しばらくたったある日、霊夢が里へ買い物へ行ってる時に小さな子供が降って沸いた。
「沸いたは酷いな~」
聞くと鬼という、幼児に見えてかなりの歳月を生きてきた妖怪。
「普段は霊夢の監視が厳しいからねぇ、一度ちゃんとしっかり見てみたったかったんだよ」
俺の何を見たいというのか、こう見えても俺は貧弱だぜ? 指先ひとつでダウンだぜ。
「異常なほどの贔屓を受ける人間、あんた霊夢になにしたのさ?」
ニコニコと笑ってる様で、なんかオーラが怒ってる気がする、そんな気配、マジ怖いです先生。
数多の妖怪から好かれる霊夢の特筆するべきは、平等さ、その均衡を崩した俺に腹を立てている妖怪が多いらしい。
俺が聞きたい、ぜひ聞きたい、むしろ霊夢にホの字な俺はせめて子ども扱いはやめてほしい。
すると萃香と名乗った小鬼は、いっそ攫ってしまえばいいのかと自問しだした。
こりゃイカン、危険がピンチ、ブレイクブレイク、ここ神社、ルールは守ろう大切だから。
「虫の知らせってあるわよね、腹中の虫とはよく言ったわ…」
霊夢の声がして振り向けば、ゾクリとするような無表情がそこに在った。
途端、萃香が撥ねる様に距離を取ると、獣の様な構えを取り、冷や汗を垂らす。
「マズイなぁ、完全にご立腹だ、今日は退散させて貰うよ」
そういって萃香は、霧散するように薄くなって消えた。
妖怪ってすげぇな。
油断ならないわ…結界が必要ね…とか霊夢が呟いていたけど、非常に目が怖いです。
そんな霊夢も綺麗だなぁとか、俺の脳は完全にスクラップです。
そうなのです、惚れって怖いですね。こんな状態の彼女なのに、俺はなんでも、はいはい言うこと聞いちゃうYESマン。
ついでに言うなら、過保護だけど俺の事、一途に見てくれてるって事だよね。
それが恋愛感情ではなく、母性本能なのか保護欲なのかって所だろうけど、それでも嬉しくて仕方ない。
そんな霊夢さんは、日を追うごとにエスカレートしていきました。
あいつがいる限り、結界があっても不安だわ…と言って最近は俺のそばを離れません。
語弊がありました、俺が鶏の雛の様に霊夢の後ろに付いて回るだけです。
一定の距離が離れると霊夢さんが「○○、ちゃんと傍にいなさい」ってメッってするんですよ。
いやー、俺死んだ、右わき腹の浪漫回路が止まらない。まじ俺子供でもいいや。
ごめんなさい、俺、一応大人なんだ。
心配だからって、霊夢さん最近は布団が一緒です。
性的な意味ではなくて、添い寝です。俺の頭抱えてポンポンとあやすように添い寝です。
でも俺おとなぁあああ。
精神がまじでピンチ、主に下半身が。
さらに日がすぎて、ついに霊夢さん、壊れました。
…風呂です、風呂一緒です。簡便してマジ無理、俺が死ぬ、というか誰か殺せ。
前略
お父様、お母様。
○○はついにやっちまったぜ。
むしろ数日とはいえよく我慢してた。
はい、一線越えちゃいました。
俺の沸点が超えて押し倒してしまったのです。
ごめん霊夢っ俺っ。って言いながら欲望をたぎらせて押し倒した時…霊夢は優しく微笑みながら「いいわよ…」って。
穴があったら埋め立てたい。
事が終わってから霊夢ははにかみながら「これからは恋人ね」とか言ってくれました。
人生に春が来ました。
お父様、お母様、もう二度と会えないでしょうが俺は青春を謳歌してます、アディオスアミーゴ!
というわけで今日も誰も入って来れない境内でイチャイチャパラダイスです。
とは言え食うものなきゃ飢え死にしますので、今日は霊夢の買出し日です。
15分で戻るからって泣きそうな顔で飛んで行きました。
愛されてるね俺。
ん? あんた誰…
「博麗の勤めを果たさぬ巫女は無価値という」
「○○を返しなさい」
「もはや幻想郷の結界も維持が困難になってきています」
「二度は言わないわよ、……八雲紫」
「これは貴方の暴走、博麗大結界の力を私物化しての愛の巣のつもりかしら?」
「…そう、じゃあ殺してあげるわ」
「…お願いだから元に戻って…霊夢」
阿求著
幻想郷縁起最終項目
~幻想郷の終わり~
博麗大結界の崩壊により幻想郷は終わりを告げる。
最後の博麗の巫女である博麗霊夢は、スペルカードルール創設など様々な業績を上げながらも、自らの手でそれを破棄。
大結界の維持と管理をしていた幻想郷の賢者、八雲紫の失踪。
それに伴い、大結界の崩壊が始まり、様々な大妖怪達や、神々が奔走するも食い止める事はできなかった。
この地の奇跡が儚くも外の世界の常識に塗りつぶされていく中、次々と異変が乱立するが、それにどんな意味があったのかは様々な推測(*4)と想像を呼ぶ。
(中略)
稲田家は外の世界の山奥の僻地に立つ屋敷となり、最後の筆記者となる九代目阿礼乙女、稲田阿求はただ一人の少女となった。
もはや幻想郷は存在しないのか、それとも、まだ何処かに息づいているのかは、著者には知るすべは無い。
「ねぇ○○、今日も幻想郷は平和ね」
「誰もいないけどな」
感想
最終更新:2019年02月09日 18:00