でもまぁ、よろしくしなきゃならない。幾ら自分が駄々をこねても、相手が相手。
嫌だと言えば実験台、更には相手にえらい不快感を与える。
それは不味い。こちらにも生活というものがあって、生活費を得る為には里へ出て来なければならないのだ。

「それは分かってるけどー!」

思わず叫ぶ。
重い荷物を抱え(実際引き摺っている)○○の家へ向かう。
かれこれ通って二週間、いい加減もう嫌だ。でもあの男、なかなか完治してくれないのだ。
全くもう、そろそろ私にお給料が出てもいい位働いてるよね、これ。
はぁ、と小さくため息をついて私は○○の家へ向かった。

「こんにちはー因幡てゐですー」
がらがら、と引き戸を開け私は荷物をどかっ、と置く。
…いつもより妙に静かだ。寝ているかどうかしているのだろう。
「もしもーし、どこだよ?」
てちてちと歩き、2つ目の部屋へ入った時にそれは居た。
ロープを持ち、その先は輪になっている。天井にはそれをくくりつけ、そうー…首吊りができるくらいの場所になっていた。
椅子の上に乗ってロープを持つ○○。その顔はどこか笑みを孕んでいて。
「っ、ま、待って○○!!」
私は慌てて○○の腕を掴んだ。
「こんにちは、どうしましたてゐさん」
「どうしたもこうしたもある!?何をしようとしていた!」
永遠亭に来てから、命を扱うことにすごく気を使うようになった。
それだけにほうってはおけない事態だ。
「どうっ、て。こうですけど」
輪に首を入れ、吊す仕草をする○○。
「っだあー!!?駄目駄目!!没収!」
ばっ、とロープを奪い取り私は肩で息をする。
危ない…!というかこいつ自殺志願者か!
「……」
あーあ、とでも言いたげな○○。
「…悩みでもあるのかい」
私は○○を見、そう言う。
にこりと笑って、唐突にその悩みを話し始めた。

ー僕ってほら。外来人じゃないですか。
外の世界でまぁ、色々騙されまして。
気づけば存在すらなく、こうしてここに来たのです。
でも、こちらの里とて集団生活です。外の人間など受け入れてくれません。
それが分かってからというもの怖いのです。
優しくされれば、疑いが首をもたげ、虐げられれば絶望が支配する。
故に、もう、楽になれたらいいな、って。
最近はてゐさんくらいしか話す人が居ませんから…ありがとうございますー

…酷く自分勝手である、と妖怪の私は思った。
けど、同情の念が少しある。
それは「騙された」というやつだ。
私の場合は救いがあった。けど○○には無い。
唯一の救いとなってる私ですら、○○を見放そうとしている。
同情なんて柄にもない。
けど、何故かほうっておけないと感じた。これほど邪魔な感情は無いと思う。
「…大変だなあ」
「そうでしょう?」
「…よし、私がお前の救いになろう」
口から出た言葉は私の意思と全く逆のことだった。
久々に感じる優越感とか、そういうのもあるだろうけどやっぱり、こいつをほうってはいけない。
…自分と重ねるのは止めてあけばいいのになぁ、と私は苦笑した。
明るい月は、きっと分かってくれないだろう。

それから治療やらなんやらをして、○○の御飯を作り永遠亭へと戻った。
負担を自分で増やすとは、長年生きててもやはり分からないことだらけだ。
「おかえりーてゐ。どうだった?」
鈴仙が晴れやかにこっちへ来る。
取りあえず指をへし折り、自室へ籠もる。

「明日はどうしよう、かなあ」

妙に嬉しい感じと疲労感を感じながら、私は眠りに就いた。

また明日、哀れな人間にシアワセを運ぶ為。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2013年06月23日 11:22