私の部屋は、この幻想郷で撮った写真で溢れている。
私は風景は撮らない。あくまで被写体は人間、または妖怪専門だ。
写真には様々な男女が写っている。
紅魔館の住人達とその思い人達。
霊界の住人達とその思い人達。
永遠の名を冠した邸宅の住人達とその思い人達。
山の神社の住人、神々、妖怪達とその思い人達。
地底に住まう者達とその思い人達。
寺の住人達とその思い人達。
仙界に住まう者達とその思い人達。

悲哀交々の表情が映っている。
喜怒哀楽だけではない。盲愛、偏愛、執着、女の情念。
男達の悲嘆に満ちた顔や絶望、諦観に占められた顔、全てを受け入れた時の悟りを得たような面持ち。

まさに被写体として理想の極みだ。
情念が正であれ負であれ、フィルムから滲み出る程に強い。
この部屋自体に特殊な術式を仕込んで無ければ、霊障すら置きかねない程に。

私がこの郷を出なかったのは、彼ら、彼女らの写真が撮りたいからだ。
今日日、これ程の強烈な個性と感情を発する被写体がどれだけ存在するだろうか?
何度も命の危険に晒され、パートナーに助けられてきた。
それでも、私はこの郷に渦巻く恋愛という名の業を撮り続けるつもりだ。
私も、この幻想郷に魅入られたのかもしれない。

「○○、こっち見て」

振り向いた途端、フラッシュとシャッター音が響く。
そこには長年のパートナーである文が、どこか楽しげにカメラを構えていた。

「写真見ている時の○○の顔、凄く活き活きしているよ」

ああ、そうだな。
そんな私の顔を見ている彼女も、物凄く活き活きとしていて。

私も彼女もどこか病んでいて、それだからこそ惹かれ合ったのだと確信するのだ。

勿論、私に狂おしい程に執心し、愛してくれる文は、私にとって最高の被写体である事に間違いはない。


私は、この郷に来られた事を外来人の誰よりも嬉しく思っている。これからも、これから先も。

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最終更新:2013年07月02日 08:44