“ドクン…ドクン…”




血が、騒ぐ。

だが、これからなろうとするものが心に依るならば、意志でねじ伏せる事も出来るはずだ。



「………妖夢。」



目を閉じればあの笑顔と、からからと鳴る高い声が聞こえる。
鼻を擽るのは、あの香の残り香。
恐らくは無意識にまで染み付いているであろう血の匂いを掻き分けて、それは確かにあいつの形を脳裏に映す。



“ひゅんっ…”



揺らめいていた蝋燭の火を、抜刀で斬った。
部屋の暗闇の中で、それでも尚消えないその炎は。


酷く、俺の中のあいつの面影と重なって見えた。








初の心にさざめく夜は-ep.5-








「これで、全部です。」

「ああ。」




複数あった傷の、最後の糸が抜けた。

カマイタチによる傷は思いの外大きく、○○の上半身を、傷跡が以前にも増して刺青の如く飾り付けていた。
妖夢はそれに悲しみと不安の念を抱いていたが、同時に真逆の感情も彼女の胸には去来している。


“もう、綺麗な部分の方が少ないや。
……でも、この中に私の跡が…。”


独占欲と、恍惚。

彼に惹かれて行く程に、それは日増しに強さを増していた。


彼が義姉の話をする度、胸が酷く痛んだ。
彼が笑う度、春の様に胸が暖かくなった。

彼が傷を追う度。
深い悲しみと、得体の知れぬ欲望が胸を襲った。

妖夢にとってそれは未体験の感情であり、制御しきれない激情に恐怖を抱いていた。



「…大丈夫か?」

「……?え、ええ…。」



肩を揺すられ、妖夢は漸く我に返る。
だがそんな気遣いですら、彼女の中に深い欲望を抱かせていた。

肩では無く、髪に触れて欲しい。
それよりも、髪では無く、頬を撫ぜて欲しい。
叶うなら、あの日自身の感情に恐怖した時と同じ様に、抱き締めて欲しい。

いっそ、唇も純潔も、全て_____



「…い…おい!?」

「あ……え、ええ、何か…?」


再び感情の底から呼び起こされた時、彼は酷く呆れた目をしていた。
そしてそれは、仕方ないと割り切っているかの様な、何処か生易しく、心配も含んだ目でもある。

妖夢は、彼のこの表情が嫌いだった。

まるで妹分にでも向けるかの様な、子供を見守る様な視線。
それを見る度、自分は一人の女として見られていないのではないか
と、とても遣る瀬無い気持ちを抱いていた。



「で、何ですか?上手く聞こえなかったんですけど。」

「何でてめえがぶーたれてんだよ、意味解んねえな。
だからどっか暇な日はあるかって訊いてんだよまな板ぁ。」

「………へ?」

「ちっと野暮用が出来てな、そこにお前を連れて行っても良いかと思ったのさ。
どうだ?明後日あたり。」


“明後日………明後日は確か…あ!!”


「行きます!!」

「がっ!?…痛ぅ、鼻に当たったぞコラ。」

「す、すいません!明後日は丁度非番ですから…その、是非ご一緒させて下さい。」



彼の言う野暮用が主とは言え、妖夢にとっては逢瀬とも言える誘いに胸が踊った。
尤も、この時何処に行くのかを尋ねる事を彼女は失念してしまっていたが。



そして明後日。
妖夢が指定の場所に来てみると、そこは一見すると何も無い原っぱであった。

まだ○○は到着しておらず、妖夢は独り、ぽつねんとそこに立ち尽くすのみである。
一体こんな所に何があるのかも解らず、ただ待ち惚けていた所、漸く当の本人が姿を現した。


「遅いですよぉ、一体何処で油売ってたんですか?」

「いや、わりーわりー。ちっと土産を買っててな。
さてと、んじゃ行くかね。」


そうして彼が指差した方には、ただの苔生した大岩があるだけ。
彼はその岩の表面に手を掛け、するとその一部が扉の様に動いた。

岩に見せ掛けた、隠し扉である。
そこにはぽっかりとした暗闇があり、ひゅうひゅうと風切り音が聴こえる。
その様子から察するに、相当に深い穴であるようだ。


「…あの、ここですか?」

「正確にはその奥だな。
間欠泉騒ぎの前から、地上の一部の連中はそこと交流があったりしてよ。
これはその隠し通路の一部なのさ。」

「じゃあ、今日行く所って…。」

「ああ、地底だ。」


そこまで言い終えると、彼は何やら怪しげな札を自身の服に貼り付けた。
見た所、穴には特に梯子がある様子でも無い。

それを見た時、妖夢の背筋には一つ嫌な汗が浮かんだ。


「あの、その札って…。」

「これか?ただの人間でも一定時間飛べる符だな。お前にゃ関係ねえだろ?
…まあさっさと行きてえから、発動すんのは途中だがよ。」

「え、えーと…いや、飛ぶのと落ちるのはまた別じゃ…。」

「いいから行くぞ。そらよぉ!!」

「ちょ…きゃあああああああ!?」



妖夢の嫌な予感は当たっていた。

小脇に彼女を抱えると、彼は躊躇いも無く一気に穴へと飛び込んだ。
時間短縮と言う名目の下、途中まで符も発動させず、身動きの取れない彼女は飛べるはずも無く。

地底が見えるまでの間、妖夢は転落の恐怖をひたすらに味わう羽目になったのである。








「こ、怖かった…怖かったよぅ……。」

「普段自力で飛んでる奴が何ほざいてんだよ。ちゃんと途中で発動させたろーが。」


整えて来た髪は落下時の風ですっかり乱れてしまい、恐怖と冷気で鼻水すら漏れてしまっている始末。
この男相手に、少しでも甘い一時を期待していた自分を彼女は呪っていた。

“うう、ひどい……あれ…?”

ふと彼を見上げた時、妖夢には何処か嬉しそうな彼の顔が見えた。
ここには一体、彼にとっての何があるのだろうか。


「○○さん、一体何をしにここに?」

「…師匠と修行してた頃、五年ぐらいここに住んでてよ。その頃からの馴染みに用があんのさ。
まあ、言っても会うのは半年振りぐれえだがな。」


二人が洞窟を進むと、やがて旧都の街並みが見えて来る。
繁華街を横目に裏通りへと抜けると、とある長屋街が目の前に広がっていた。

住居もあれば、小さな商店もある。
その列を進んで行くと、何やらカンカンと金属の音が聴こえて来た。


「さて、ここだ。おいジジイ、邪魔すう゛あああああああ!!!!!!」


その瞬間、○○が妖夢の横を吹っ飛んで行った。

入口の方からは拳型の機械が飛び出しており、戸を開けた瞬間にそれが彼を殴り飛ばした模様。
○○の方はと言えば、綺麗に目の前のゴミ捨て場に吹っ飛ばされており、見事に足だけがゴミ溜めの中から突き出していた。


「…ジ~ジ~イイイイイイィィィ!!!!!!
てめえ客吹っ飛ばすたぁとうとう耄碌しやがったかコラァ!」

「ふぉっふぉっ、そろそろ狂犬が襲って来る頃かと思っての。防犯対策をしとっただけじゃわい。」


“えっ、このおじいさんって…”


現れた老人は、河童であった。







「で、何の用じゃ?刀なら半年前に調整してやったばかりじゃろうて。」

実に人の悪い笑みを浮かべつつ、老人は先程の事は無かったかの様にまったりと茶を啜る。
一方○○の方はと言えば、今にも噛み殺さんばかりの勢いで老人を睨み付けていた。
頭に魚の骨を貼り付けて。


「……ジジイ、俺の鉄甲作った時、お前何て言ってた?」

「んー?確か“カマイタチに試し斬りさせても砕けなかった自信作”と言ったはずじゃが。」

「ほー…で、そのカマイタチ、何処のどいつよ?」

「ほれ、あいつじゃよ。二つ角の所の薬屋の…」

「あーあそこの。確か最近は杖無しじゃまともに歩けねえ……って、ヨボヨボのじーさんじゃねえかコラァ!!
…ったく、いーからさっさと新しい鉄甲作れよ。」

「ほっほっ、まぁお前が生きとるだけマシじゃろて。砕けても持主は守った、流石はワシの作品じゃの。」




妖夢はこの光景を見て、暫し呆気に取られていた。

あれだけ残忍に妖怪を斬り殺して来た彼が、その妖怪である老人と親しげに話している。
彼の戦いを目の当たりにして来たからこそ、目の前の光景は俄かには信じ難いものであった。



「だれー?あ、○○!!」

「んだよクソガキか、元気してたかよ?」

「うん!」



とてとてと奥から飛び出して来た子供には、獣の耳と尻尾が生えていた。
それは妖獣の証であり、子供はとても嬉しそうに○○に飛び付いていた。

○○は目を細め、いとおしそうに子供の頭を撫でている。
妖夢が今まで見た事の無いその表情は、彼女の目にはとても鮮烈な物として映っていた。




「….その半霊、お嬢ちゃん、妖忌のお孫さんじゃな?」

「……!?は、はい……。」

「意外かえ?あいつがワシらとこんな仲なのは。」

「……ええ、普段の彼からはとても…。」

「……妖忌があいつの武器をこさえて欲しいとやって来てからの付き合いじゃ。
あいつは修行時代はこの長屋に住んでおってな、ここは育ちの悪い大人が多いもんじゃから、すっかりガラの悪い小僧になってしもうてのう。

全く地上は酷なもんじゃて、あんな若造に重い役目を背負わせる。
ここにいた頃は、あいつも皆の子供みたいなもんだったんじゃが…。」

「…ここは、平和ですね。彼のあんな顔は初めて見ました。」

「脛に傷持つ連中しかおらんからの。争って得るもんなんぞ何も無い。
地上の連中も、盲目なもんじゃ。
例え地底に堕ちようが生きてさえいれば、何か得る物もあったろうに…禁を犯してまで“これまで”に囚われ、そして○○のような者が生まれてしもうた。」




『無理矢理にでも楽しまなければ、あんな狂気の沙汰は出来ない。』


いつか彼の言っていた言葉が、妖夢の胸を締め付ける。

彼は、妖怪達に囲まれて育って来たのだ。
だがそれは地底での話に過ぎず、地上では同じ様には行かない。

現に、彼は地上の妖怪に襲われた事で最初の殺しを果たしている。
そして人里には、守ると決めた義理の姉である、慧音がいるのだ。

その葛藤の狭間で、彼がどんな気持ちで地上の妖怪を殺して来たのかは。
最早、妖夢の想像出来る範囲では無かった。



「ワシは若い頃から兵器ばかり作っておってな、やり過ぎて河童の里を叩き出された身じゃ。
地底に流れた頃はそれは喧嘩に明け暮れたもんじゃが…まあ、それでもここの暮らしも悪くは無いもんじゃよ。
…あの子供を見てみい、楽しそうにしておるじゃろう?ワシの孫みたいなもんじゃ。」

「…あの子は、妖獣ですよね。」

「…ああ、親は○○に殺されたんじゃ。」

「………っ!?」

「その時のショックで記憶を失っておるが、気を失う前に“いつか殺してやる”とあいつに言ったそうじゃよ。
いきなり血塗れのあいつがあの子を抱えて飛び込んで来た時は、大層びっくりしたもんじゃ。
“いーからこのガキ引き取りやがれ”って無理矢理押し付けて来てのう……幼い頃の自分と、被って見えたのかもしれんの。」

「じゃあ、もしあの子が記憶を取り戻したら…。」

「……戦う事になるかもしれんの。
それを覚悟してでもあいつは、あの子を生かしたかったんじゃろうて。難儀な事じゃ。」




“ぞく…”




妖夢の身体を、いつかと同じ様にざわめきが駆け抜けて行った。

ざわざわとドス黒く蠢くその感情は、妖夢の心の内を酷く冷たい物に変えて行く。
何度か経験したその感情の正体は、殺意。
ちきりと音がして、その方に視線を向けると、彼女は無意識に自身の手が刀に手を掛けているのに気付く。



「おいジジイ、茶ぐれー出しやがれよ。」

「ふぉっふぉっ、急須に入っとるから勝手に飲まんかいクソガキ。」

「ったく、相変わらず胡瓜なんか混ぜてんのかよ。」



不意に視線を感じると、そこには先程の妖獣の子がいた。

子供特有の人見知りだろうか、邪気の無い目でじっと妖夢を見つめている。
しかしその瞳は金色であり、瞳孔は獣特有の縦に裂けたもの。

間違い無く、彼に親を殺された妖怪なのだ。
もし記憶を取り戻せば復讐として○○を襲い、骨すら残さず喰らい尽くすかもしれない存在なのだ。


ちきりと、また鍔が擦れる音が鳴る。


“今ここで、この子を斬ってしまえば…。”


妖夢の脳裏には、子供の首が飛ぶ情景が浮かぶ。
“そうだ、それで彼は守られる”と、自身の中でひたすらに声がする。
いつも通りに剣技を用いれば、きっと造作も無い事なのだ。

不意に、彼女の視界は影を増して行く。




「ねー。」

「………!?」



その時,子供が声を出した。
その瞬間妖夢は我に返り、自身の中にあった恐ろしい感情を自覚した。


“ああ、また私は…。”


柄から手を放し、努めて優しい笑顔を子供に向ける。
掌にはじっとりと汗が浮かんでいるが、今は気にせず、ただこの子の相手をすればいいと妖夢は考える事にした。



「ど、どうしたのかなー、僕?」


「……お姉ちゃんって、○○の彼女?」


「ぶふぉっ!!!!???」

「あー!?何するんじゃ折角の胡瓜茶を!!」



その瞬間、明後日の方から盛大に茶を噴き出す音が聴こえた。








「何ぃ!?○○に女だと?」

「オイマジか!?大体帰って来てんなら言えよ!」

壁の薄い長屋故か、騒ぎを聞き付けた他の住人達が一斉に工房へ雪崩れ込んで来た。
妖獣、鬼、或いは忌み嫌われた種族。
それらは皆妖怪ではあるが、皆一様に満面の笑みで彼を揉みくちゃにしている。

妖夢はその凄まじい騒ぎを、暫しぽかんとした様子で見つめていた。


「ほー、可愛い子じゃねえか。え、何?もうやる事やってんの?」

「だー!!待てお前ら!ちげーから!そんなんじゃねーから!」


“む。そんなムキになって否定しなくたって。ふふ、でも……”



○○の孤独な姿しか知らなかった妖夢は、輪の中にいる彼を見て微笑んでいた。
彼にも少しは暖かさを知れる場所があったのだと、そう感じて。


“出来るなら、私が彼にとって一番の…。”


そう願いながら、彼女はただその様を見つめ続けていた。










「ふー。ったく、あいつらネタを見付けたらいっつもああだ。」

「ふふ、きっと久しぶりに○○さんに会えて嬉しかったんですよ。」

「今はあのクソガキがいんだろーが、いつまでも小僧扱いしやがって。
さて、鉄甲もまだ掛かるみてーだし、ちょっと出るか。」



老人の工房を後にし、二人は暫し旧都を散策していた。

修行の記憶以外に、ここには彼の幼少期の思い出も多くある。
彼は妖夢を案内しながら、一つ一つ、そのエピソードを彼女に語っていた。

そうして歩く内、二人はある広場へと辿り着く。
そこは雑然とした旧都の中に、不自然にぽっかりと空いた様な場所。


「そろそろだな。」


彼が手にした懐中時計を確認した時、妖夢は気付かぬ内に気温が下がっていた事を感じる。
少々肌寒いが、風が無い為そこまで不快なものでは無い。

彼が不意に上空を見上げると、それに釣られて妖夢も上を見上げる。
そうして暫く地底の暗闇を見つめていた時、彼女の額に冷たいものが触れた。


「わ…すごい…。」


しんしんと降り始めたのは、真っ白な雪だった。

真っ暗な地底に降る、純白の雪。
白玉楼で目にするそれとは違う幻想的な光景に、妖夢は暫し言葉を忘れていた。


「…ここの広場は昔から、誰が言うでも無く何も建てられなかったんだと。
こうやって見惚れてる内に、誰もそんな気は持たなくなったんだろーよ。

ここに独りでいるとさ、真っ白になれる気がすんのさ。
血の赤も全部飛び越えて、何も無い真っ白によ。

……だけど何となくな、お前となら見ても良いかって思ったのさ。」


ぽつりと彼女の隣から聴こえたのは、酷くおぼろげな彼の呟きで。
ふと彼の掌を見ると、それは寒さからか震えていた。

長い髪に隠された横顔に、一瞬だけ光るものが見えた気がした。
妖夢はそれに気付いていたが、敢えてそれには触れない事にした。



「確かに、真っ白ですね。
…でも、血だって必要なものです。」



体温の低い妖夢の手が、かじかんでいた彼の手を取った。

冷たい手同士、最初は確かに冷えた感触はあったが。
やがて包み合われた手は血の巡りで熱を帯び、少しずつ暖かさを持ち始める。


「ほら、こうするとあったかいじゃないですか。
手のひらがあったかいのは、あなたの血がちゃんと巡ってるからですよ?
…私も、ちゃんとここにいます。」

「けっ…勝手にしろぃばーか。」



抱き合うでも、くちづけを交わすでも無く。
二人はただ手を取り合ったまま、真っ暗な雪空を見上げ続けていた。


やがて雪が止むまで。
いつまでも、いつまでも。














数日が経った、ある夜の事だった。


新調した防具を纏い、彼はある場所へと向かう為玄関を開けた。
懐には一枚の手紙があるが、それはいつもの依頼状では無い。

指定された場所へと辿り着くと、ゆらりと一つの人影が暗闇から現れる。
それは腰に刀を携えた、一人の剣士だった。


「…この手紙はてめえのか?柳の影から現れるたぁ、随分とまあ凝った演出がお好きなようで。」

「ふふ…始めてお目にかかりまする。
今宵は実に良い月夜、“貴殿の血も随分と騒がれている”事かと思いましてな。」

「へぇ…まぁ“随分と人を喰った”物言いな事で。
で、何の用だよ?こちとら暇じゃねえんだ。」

「ふふ…では単刀直入に申し上げましょう。
貴殿は、幻想郷への復讐に興味はお有りかな?」

「………!?」



瞬間、○○の目には確かに暗い影が浮かんだ。
剣士はそれを確かめると、舌舐めずりをして愉悦の貌を深める。

じっとりと、○○の心の奥底を舐め回すかの様に。


「私が見る限り、貴殿は“随分と進んでいらっしゃる”ようで。
…しかし嘆く事はありませぬ。それに身を任せれば貴殿にはより強い力が宿る事でしょう。

本当は首を斬り落としてやりたいとお思いでしょう?
あの人里の守護者も、妖怪の賢者も、ここに生けとし生ける者全て……或いは、あの忌まわしい魂魄の孫娘の首かな?

私と共に、来る気は有りませぬか?
貴殿と私であれば、この世界の全てに復讐する事は容易い…さあ、彼奴らに制裁を加えてやろうではありませぬか。」



剣士は導くかの様に、○○へと手を伸ばす。
妖怪の魅了の視線も交じったそれは、○○が奥底に抱える憎しみをあぶり出すかの様に、じりじりとそのな熱を増して行く。


「あぁ…。まあ憎らしいっちゃ憎らしいな。」


○○はにたりと笑いかけると、その剣士へと手を伸ばす。
そして握手を交わすかの様に見えたそれは。




“ごきゃ…”




剣士の手首を掴み、その骨を握り潰した。




「あがっ…!?」

「…悪くねえ提案だが、生憎俺ぁ労働意欲に欠ける若者って奴でよ。
なのに最近は他の妖怪の食い扶持横取りするバカが出てるせいで、依頼が殺到しまくり。お陰でぐーたらも寝酒も出来やしねえ。

ノコノコ現れてくれてありがとよ。
てめえをずっと探してたんだよ……先代!」

鋭い一閃が舞う。
しかしそれが剣士を切り裂くと、それはただの炎になって消えてしまった。


“くく…やはりお前も相当に進んでいるようだな…貴殿がその力から逃げられなくなった頃、またお会いするとしよう。”


後には何処からか響くその声と、不気味な笑い声があるだけだった。



「ちっ…逃げられたか。」


柳がざわめき、その風が彼の髪を巻き上げた。
夜闇に浮かぶ、彼のその瞳は。



確かに、人で無い者の赤を宿していた。






続く。

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最終更新:2013年07月02日 08:48