目の前に一人の女の子が現れた。・・・なんかデッカイ剣と盾を持ってて、耳と尻尾のオマケつきで。

「は、はい。なんでしょうか?」
「あなたは人間ですね?そして・・・あなたは聞かずともわかりますが・・・」
「うん、鬼だよ」

なにか機嫌が悪いのか、そっけなく答えている。

「そうですか、失礼しました。それでは・・・人間に警告します。この妖怪の山は天狗の領地です。これ以上踏み入るつもりなら・・・」
「待ちなよ。〇〇は私の同行者なんだ。私が許した」

おい待て待て、怒気が含まれつつないか・・・?

「鬼のあなたといえど、許可を下す権限は無いはずです。ここへの人間の立ち入りは許せません」
「何言ってるの?鬼の命令は絶対だよ?なんなら大天狗呼んできなよ」
「失礼ですが、大天狗様は多忙ですのでこんな人間一人の為にお呼びするわけにはいきません」
「だったら、」
「許可できません、それにあなたには何の制限も無いのですから、こんな人間一人なんかに・・・」

ビュッ、と音をたてて萃香が女の子の首を掴む。

「『こんな』?はは、あんたもしかして新人?それなら覚えときな。・・・鬼の友人を貶したらどうなるかを・・・!」
「がっ・・・かはっ・・・・・・」
「お、おい!待てよ萃香!俺は別にいいからそんなことしなくても!・・・・・・あっ・・・・・・」

萃香がこちらを向いた。ただそれだけ。ただそれだけのはずなのに・・・。
違う・・・俺が昨日今日見ていた萃香じゃない・・・これが・・・鬼?・・・本能が、俺の中の何かが告げる。『逃げろ!』

「あ・・・あぁ・・・ああああぁぁあああ・・・」
「どうしたの?〇〇?」

萃香が優しく微笑んでいる・・・でも、違う。俺は見た。視界に入る物を射抜くような眼光を・・・。

「す、萃香さん!?なんでここに!?ひ、ひとまず落ち着いて下さい!」

山の奥の方からもう同じ格好をした女の子が向かって来る。その子の盾には紅葉の絵が描かれていた。

「あんたは確か・・・椛・・・だっけ?」
「は、はい。千里眼で散策していたところ三人分の気配を感じまして・・・。と、とにかくその子を離してあげてください!」
「・・・ふぅん・・・はい」

先ほどまで首根っこを掴んでいた女の子を投げ渡す。

「まぁいいや。私たちはもう行くから、そいつには再教育しておきな」

そう言うと返事も聞かずこちらを向き、また優しく語りかける・・・。

「さ、行こ〇〇。いらない邪魔が入っちゃったけどもう大丈夫だよ。はい」
「い、いや・・・自分で立てるよ・・・」

萃香が差し出してくれた手を掴まず自分で立ち上がる。・・・萃香に触れるのが怖い。俺が萃香の逆鱗に触れれば一瞬も待たずに俺はこの世にいないだろう。・・・駄目だ。ここに居ては駄目だ。いつ俺があの子と同じ立場になるかわからない・・・この幻想郷から出なければ俺は・・・。
最終更新:2013年07月02日 08:50