そして、少し時間が経ち、件の場所から離れた川沿い。

「さっきからどうしたの〇〇?あいつらに会った時から何か変だよ?」
「い、いや・・・なんでもない・・・全然大丈夫だよ」
「そう?ならいいけど・・・」

俺はあの時から萃香のことを直視出来ないでいる。本当は視界の端に入れるのも怖いのだが、流石にそれは不自然だと思い、やめている。

「な、なぁ萃香。そろそろ戻らないか?なんか寒くなってきちまって・・・」

!?しまった。言ってから後悔した。今の季節は夏だし、何より昨日萃香に対してそれを言っている。つまり・・・

「寒いの?どっちかというと暑いと思うんだけど・・・寒いなら仕方ないね。えいっ」
「うぁ・・・!」

萃香が抱き着いてくる。思ったことが現実になった。数刻前の俺なら笑って頭を撫でてやれてただろう・・・でも、今の俺は・・・。

「うっ、うわぁ!」

ドンッと、萃香を勢いよく突き飛ばした。自分でもよくわからない・・・いや、それは嘘になるだろう。ただ、体が反応したんだ。
やってしまった。と、俺は少しずつ後ずさりをする。萃香は少し離れた場所でしりもちをついて呆然としながらこちらを見上げている。

「!?・・・どうしたの?そんなに嫌だった?」
「い、いや。そういうわけじゃ・・・」
「ねぇ、やっぱり〇〇おかしいよ?・・・それに、なんで私を見てくれないの?」
「それは・・・」
「・・・・・・・・・・・・〇〇」

沈黙の後に名前を呼ばれる。・・・駄目だ。また本能が告げる。声色がなにか特別変わったわけではない。ただ、今萃香と目を合わせては駄目だ。それだけはわかる。

「・・・そうだね、一度帰ろう」

萃香が立ちあがり、俺の手を取る。また反射的に振りほどこうとするが・・・離れない。痛みは感じないがこちらがほどけない程度の力で握ってきている。
「離してくれ」と言おうとして萃香の方を見やる。もちろん目は合わせないようにした。した・・・が、萃香がかなり下からこちらを見上げていたせいで不意に目が合ってしまった。
ゾクッ、と寒気が走る。顔は笑っている、むしろ満面の笑顔だ。しかし・・・目に光がこもってなく・・・ドス黒く淀んでいた。怒気に包まれたあの瞳とは違う恐怖が全身を襲った。

「さ、帰ろう。〇〇」
「・・・・・・・・・え、ちょっ、ちょっと待てよ萃香。来た道はそっちじゃないだろ・・・・・・」
「何言ってるの?『帰る』んだから、こっちであってるよ。おかしなこと言うなぁ〇〇は」

・・・そう話す・・・萃香の瞳は・・・歪んでいて・・・・・・。
最終更新:2013年07月02日 08:53