命蓮寺から除夜の鐘の音は鳴り響かない
    何故か?それは去年の暮れにまで話はさかのぼる。

    106個目の鐘の音が鳴り響き。後二つかと、感慨にふけっていると。107個目の音が聞こえてきた。
    しかし、その107個目の音を聴いても。後ひとつかと言う気分にはならなかった。
    なぜならその音は、鐘の鳴る優しい音などではなかったから。
    まるで、雷でも落ちたかのような。鋭い音だったからだ。

    「なっ!?」
    驚いて○○は外に飛び出した。するとどうだ、鐘は跡形もなく消えていた。

    鐘をついていたのは聖だ。聖は大丈夫なのだろうか。
    滅茶苦茶になった辺りを見て。真っ先に、聖の安否が気に掛かった。
    履物のかかとをちゃんと入れずに。ただ彼女の安否を気遣い、一目散に鐘のあった場所に駆ける。

    鐘のあった場所には、聖が微動だにせずに棒立ちになっていた。
    その聖の後ろでは、一輪が法輪を手にした拳を地面に打ち付けて。星とナズーリンは何故か満足そうな顔をしていた。
    それ以外は、何も。
    ましてや鐘の在った痕跡など、言われてみれば多分これが鐘の残骸だと思しきものが地面にめり込んでいる。
    その程度の存在感しかなかった。

    「良かった!皆さん無事で……すいません、来るのが遅れて」
    きっと先の音を聴きつけて。皆、聖の安否を確認しに来たのだろうと。○○はそう思った。
    だから、最後に来てしまった事を恥じて、謝罪の言葉を口にしたのだが。

    「謝る必要など在りませんよ、○○」
    「そうだよ、○○。鐘をぶち壊したのは、私達なんだから」
    「正確には、提案したのは星とナズーリン。で、賛同した私が雲山の力を使ってぶち壊したのよ」

    星、一輪、そしてナズーリン。この三人から出てくる言葉の意味が。全く分からなかった。
    自分たちの手で壊した?一体何故?まるで理由が思いつかなかった。

    「聖さん……?三人は、一体何を言って……そして考えているんですか?」
    思わず○○は聖に問うた。
    しかし「有難う、三人とも。107個目でこれをやったのは本当に、象徴的だわ」
    聖から飛び出す言葉もまた。○○の理解の外に位置していた。

    「今ので踏ん切りがついたわ!」
    パァッと明るい顔をした聖。○○が最も好む聖の顔だが。
    「三人のお陰で、ようやく気付いたわ!○○と言う煩悩を消し去ることが。どれだけ不自然な事か!」
    今のこの状況では。とてもちぐはぐで。不自然な笑顔に見えて仕方がなかった。

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最終更新:2013年07月03日 12:09