プウウ~~~ン プウウ~~~ン 

「〇〇、そんなに怒らないでよ」
「これで怒るな、と言うのは無理があるだろ 常識的に考えて」

ここは、別段何も代わり映えしない俺の家
目の前で邪気のない笑みを浮かべてるのは先月から恋人同士の関係になったリグル・ナイトバグ
ここまでは特に何の問題はないのだが、蟲の羽音が思いっきり俺の家を取り囲んでるのはどうにもやりきれない
みんなも、耳元に蚊が飛んできた音を聞いたことがあるかと思う
あおれが家のどこにいても聞こえてくる、というのが分かりやすい例えだろう
耳障りというレベルの話ではない

「で、何でこんな事になったんだ? これだけの音に囲まれちゃ、言いたかないけど俺も我慢の限界があるぞ」

いや、ホントに察してくれ。ものすごくイライラしてくるんだよ、この音

「もう、このくらい我慢してよ。これは〇〇を守るための防御網なんだから」
「防御網?」

なんだそりゃ? 自慢じゃないが俺は何の能力も持たない、いたって平凡な一般人だ
しかも肉付きもそんなに良くないので、ルーミアに唯一「おいしくなさそう」と言われた人間として名を馳せたこともある
そんな俺を、何から守るってんだ?

「……この世界全ての女から、〇〇を隠す(守る)ための防御網 だよ」
「……はぁ?」
「〇〇が外に出る事も、他の女がここに来る事もできなくなれば、もう〇〇は私のもの
他の誰にも煩わされない、ここはもう不可侵のわたしの巣なんだよ」
「まて、ここは俺の家だ」
「違うよ。[わたしたち]の家だよ」

今まで見たことはなかったが、狂気 ってのはこういうことを言うのだろうか
それでも表情はにこにこ笑っているのが、余計に怖い

「〇〇にはわたしがいればいのに、他の女なんか邪魔なだけなのに、〇〇は優しいからいつも相手にしちゃう
だから、こうするのが〇〇にとってもわたしにとっても一番の幸せなの」
「……いや、それは間違ってる」
「どこが? これでもう〇〇は私だけを見ていられるんだよ。今までみたいに無駄な事をしなくていいんだよ

昨日は村で慧音と22分、湖でチルノたちに74分も遊びに付き合わされてた
一昨日はむりやり宴会に引っ張り出されて、私以外にもルーミア、チルノ、ミスティア、妖夢、幽々子、美鈴に
合計131分も話に付き合わされてた
三日前は……」
「待て、どうしてそんなに細かく知ってる。一昨日はともかく、昨日は俺達は会ってないはずだろ」
「……」

リグルが指を鳴らすと、俺の体から銀の煙のようなものが舞い上がった

「これ、何だ?」
「埃みたいに微細な蟲で、〇〇の全てを教えてくれる。本当は蟲目っていうけど、私はこの子をアイセクトって呼んでるの」

……なるほど、俺はずっと、リグルに捕らわれてたも同然だったわけか

「どうしたの、こんなに震えて?
あ、そっか。これからは二人だけの生活が始まるから、嬉しくて武者震いしちゃったんだよね」
「あ……え……」

……怖え 怖えぇよ! なんだよこれ! どうしてこうなった!?

「うわああああああ!!」

悲鳴をあげて、リグルから逃げようと扉を力任せに開ける。羽音がより強くなった

「冗談だろ? まだ、昼だろ?……なんで、太陽が見えないんだよ……」

ヴァアアーーン ヴァアアーーン…… 
攻撃音か警戒音か、まるで何年も油をさしていないモーターのような羽音が響き渡った

「いやぁ、これだけ攻撃用の蟲を集めるのはいくらわたしでも大変だったんだよ
病気を媒介するツェツェバエにアカイエカ、毒鱗粉を撒くジャイアントモスにモルフォ蝶
あとは攻撃も毒も持つ足長蜂、殺人蜂、首領蜂、緋蜂、熊蜂、雀蜂
それが数千匹づつ、太陽を覆い隠すくらいここに集まってる
そして、この子たちはここに近づこうとするわたし以外の女と、出ようとするものを容赦なく攻撃するの」
「……俺もか?」
「うん。だって、必要なものはわたしが集めてくるし、出る必要なんて無いもんね」
「……そう か」



それから今まで、俺はリグルに飼われている
しかし、そんな俺にも希望がないわけではない
真冬が到来したとき、この蟲はあいも変わらず元気に飛び回っているとは思えない
その時まで耐えれば、きっと助かるというか細い望みに俺は賭けている
ただその前に、俺の心が彼女に篭絡されなければ の話だが

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2011年03月04日 00:50