「っッ」
――目が覚めたら、右手の平に痛みを思い出した。
痛みがある、という事は、僕は生きているのか。僕は死んでいないのか。
そう思ったのも束の間、既に思考は別の事へ、自分の体勢はどうなっているのか、此処は何処か、現在は何時か、この三つ。
まず一つ目だが、とりあえず寝起きらしく歪む視界には頼らず、目を閉じたまま感覚だけで察すれば自分は仰向けで眠っていたらしく、つまり仰向けの体勢。
次に二つ目、念のためしばらく目を閉じている事に。もしかしたら隣に誰かいるかもしれない。先程漏れた声は寝相によるものだとしておく。なのでパス。
三つ目、今は何時か、それこそパスだ。僕には腹時計なんてない、あるのは腕時計、この状態を維持する限り時間は分からないだろう。
結果的に分かった事といえは、僕は生きている、仰向けの状態、この二つだけだ。
とりあえずしばらくこの体制のまま微動だにしないでおく、目を開けていきなりトラブルは御免だ。まずは音と匂いで情報収集。
「…………」
30分くらい、もしかしたら10分かもしれないし1時間かもしれない、そんな曖昧な過ぎらが、ずっと同じ体勢で射るとだんだん体が痛くなってくる。
とりあえず物騒な物音は聞こえてこないので寝返りをうつ事に。体勢を変えるとすごく楽になった。
「………」
寝返りをうって5分くらい。正直暇だ。
再び体勢を変える事に。今度は腕を額少し下に乗せる様に、自然に体勢を変えた。これで目を開けても覗かれでもしていない限りばれないだろう。
ゆっくりと目を開けると、真っ暗。わぁお。
どうやらいまは夜だったようだ、何にも見えねぇ。視線を右へ左へ泳がすが一切何も見えない。
しばらく時間がたったが以前真っ暗、目が慣れて来るはずなのに何も見えないという事は光の一切無い場所に居るのか。
「起きましたか?」
「ぃっ?!」
驚いた、同時にしまったと思った。声を出してしまった。
まさかずっと傍に居たのか?こんな長い時間も?それもと本当は10分も経っていなかったのか?
心臓が驚きによって鼓動を早める、ちょっと痛い。
とりあえず黙ると状況が危なくなるのも嫌なのでゆっくり起き上がろうとする、が。
「あぁ、そのままで結構ですよ?」
「……」
止められた、胸の辺りに何か重みを感じたが、同時にその場所に痛みも感じた。
そこで意識を失う前のことを思い出したが、全身に打撲切傷を作りながら崖の様な坂を転がりながらずり落ちて閉まったことに気付いた。あの時のか。
その事がきっかけになったのか、気にならなかった筈なのだが全身に痛みがじわじわとやってきた。痛い。
腕を下ろしてみたがやっぱり何も見えない。顔を見られるのが嫌なのか?
「おはようございます。」
「…おはよう」
小さく呟く唇にも痛み、あんまり喋りたくないが、この声の主は誰なのか、お喋りな奴だったら嫌だな。
とりあえず静かに話を聞いて状況を詳しく把握する事に専念しよう。
「…ここは」
「私の家ですよ。」
「……いまは」
「酉の刻ですね。」
「………くらい」
「夜中ですから当然ですね。」
……。
まるで次の言葉が分かっているかのように、定型文の如く返された。言葉に被せるかのように返してくるので思考が間に合わない。
とりあえず、ここは声の主の家、時間は…酉の刻ってどれくらいだったか。まぁ夜中だと言う事は把握できた。
明りが一切ないのは気になるところだが、今はむしろ助かる、自分がどんな無様な様を晒しているか、たとえ既に知られていても恥ずかしいものがある。
「…いつから」
「半刻前からですね。」
半刻…、どれくらいだっけ、まだ頭がぼんやりしているのか思考が半端に追いつかない。
とりあえずそう長い間傍にいた訳だはなかったようだ。定型文の様に返されるのはちょっと心に痛い。
「………」
「身体の調子はどうです?」
「全身めっさ痛い、特に心が」
「そうですか、身体は癒せても心は癒せませんよ?」
「冗談を受け流せる程度には大丈夫なようです」
「それはよかった」
………。
やっぱり言葉を被すようにしてくる、どうやらわざとの様だ。きっぱり会話を切られて心が切られるような痛み。
「……眠いので休んでも」
「いいですよ」
………。
苦手だ。
風のざわめく音で目が覚めた。どこかで鳥の鳴き声が囁いている。
朝なのか、それともまだ太陽が昇っていないだけなのか、いまだに真っ暗。自分の手も見えやしない。
「起きましたか?」
「ぃっ?!」
驚いた、同時に右手を力んでしまい凄烈な痛み。
デジャヴを感じたが無視する事に。
「…いつからそ」
「四半刻程。」
…言い返したいけど言葉が出てこない、なんだか無性に腹が立ってきたが何も出来ない。
出来る事といえば息を吸う事くらい、今更だが首の裏が痒い、すっげぇ痒い。
「ぐむむ…」
「どうされました?」
「首の後ろ掻いて」
「図々しいですね。」
「……すみません…」
何も返せない自分を殴りたい。
そう言えば今は何時だろうか?
「…いまは」
「午の刻ですね。」
「……朝?」
「いえ、もうお昼時ですね。」
「……すっげぇ、暗いんですけど」
「え?」
ここで、ようやく用意していた言葉が出てきた。相手の意表を突かれた言葉を聞けて満足、そして不安。
今の反応からすると相手は嘘を吐いておらず、同時に今がお昼時である事を示している。
僕は既に目を開けている、身体も動く、目の上には何も被されていない事は確認した。
んで、目の前すんごい真っ暗。やべえ、前見えねえ。
「いや、目の前が何にも見えないんです」
「本当に」
「冗談抜きで」
「…嘘を」
「何の意味が?」
「……これが見え」
「見えないっての」
やってやった、三回連続で言葉をかぶせてやった、同時に目が見えない事実に落胆した。
そして今驚愕の事実を知った、この声の人女だ、すっげぇ優しい声、でも言葉がいちいち腹立つ。個人的に。
「…………」
「…………」
「………本当だ、何も見えてないみたい…。」
「何かやっているんですか?」
「なにもやっていません。」
「………」
さて、どうしたものか、目の前が見えない=ここがどこだか分からない。
声の主の家だと言う事は分かっているがどんな構造か分からない、つまり三歩進んで大転倒もあり得る。
もっともこんな体で歩くつもりもあんまりないけど。
最終更新:2013年07月04日 10:47