本を捲る手に、パチュリーの手が重なる。
「スピードが合わない? もう少しゆっくりにしようか?」
「ううん、このままで良いわ。私がこうしたいだけ」
手荒れ1つ無い白い手と図書館の運営や手入れでゴツゴツとして傷だらけの私の手。
自分にはない美の要素を全て兼ね備えている彼女の手が私は好きだ。
だが、私以上にパチュリーは私の手を好んでいる。
「ええ、あなたの手が大好きよ○○。
この図書館を健やかに運営してくれる、本達を手ずから整えてくれるあなたの手が好き。
私が何時も座る席とテーブルを整え、私が最高の状態で本を読めるよう整えてくれる貴方の手が好き。
私が咳をしていると優しく背中をさすってくれて、喘息の薬をそっと飲ませてくれる。
淹れたての紅茶を運んできて差し出してくれる、戯れでクッキーを私の顔の前に差し出してくれる。
私が読書に疲れて転た寝をしていると、毛布を掛けて風邪を引かないようにしてくれる。
夜の時間の場合だと寝室まで運んでくれて、ベットへ静かに横たえてくれる。
その時に私が寝たふりをしていて求めると、私のパジャマを脱がしてくれる。
私の身体を優しく昂ぶらせ、私の意識が飛ぶまで私だけを求めてくれる。
…………そんな手が、あなたの手が、大好きよ」
それこそ、切り落として肌身離さず持ち歩きたい位に。
陶酔と澱んだ情愛が渦巻く紫の瞳は、本気でそう思っている事を如実に物語っていた。
彼女が本心からそう願えば、属性魔法が瞬時にこの手を腕から切り離すだろう。
「じゃあ、何故そうしないのかな?」
こんな事をわざわざ聞く私はきっと、パチュリーの事が好きでしょうがないのだろう。
「ずっと持ち歩けるのはいいけど、切り落とした手はもう動かないわ」
彼女の手がすっと持ち上がり、花瓶から出た水で私の手の模造を作り出す。
寸分違わぬ構造は、彼女が如何に私の手に執着してるかを物語っていた。
「あなたに繋がってるから、私はその手を愛せるわ。だから○○……ずっと私の傍で」
私はパチュリーの言葉が終わるのを待たず、その手を彼女の前に差し出す。
彼女を愛している事を示す為に働き続ける手を、パチュリーは手に取り優しくキスした。
「好きよ○○。ずっとキスしていたい位に」
「それじゃあ、仕事が出来なくなるな。パチュリーの世話も」
花瓶の水が、花瓶の中へと音を立てて戻る。
自らの頬に私の手を当て、愛おしむように擦りつけるパチュリー。
滑らかですべすべした感触。ああ、やはり切り落とさせる訳にはいかない。
彼女には、自分の意志で触れていたい。
その艶やかな紫の髪も、白い肌も、今は服に隠れている、私だけが知るパチュリーの神秘も。
だから、彼女の不興を承知の上で、やはり手はこのままの方が良いと告げる。
パチュリーはフフと微笑むと、背伸びをして私の唇に口付けてから言った。
「ならば、私の傍にずっと居なさい。その手は、永遠に私のモノよ。手の主である貴方も」
私はパチュリーの前に恭しく傅き。
その白い手を、私が大好きな手を取って口付けた。
最終更新:2013年07月04日 11:21