「お兄さーん!」
執事としての仕事を終え、後片付けを始めた◯◯が、声をした方を見やると、そこには中身が山を成すほど詰まった車を運ぶお燐が居た。
お燐がパタパタと◯◯に近づくと、あまりにも酷い死臭がして◯◯は思わず咽返る。
今日のお燐はとりわけ死臭がきつかった。
「あ、ごめんね~。
今日は強い死体が大漁だったから、匂いがキツイかも」
咽返りながらも、失礼だったと頭を下げて謝罪の態度を見せる◯◯を見て、お燐は笑いながら◯◯の背中をさすった。
「可愛いヤツ……♪
そうだ、今日仕事終わったらお兄さんの部屋に行っていい?」
勿論、と◯◯は頷く。
ペットの中でも親しみやすく人懐っこいお燐とお空は、○○にとって親友のような存在であったため、◯◯の仕事終わりにお互いの部屋に遊びに行く関係だった。
「やった♪
じゃ、またあとでね♪」
お燐は嬉しそうに車を中庭へと運んで行く。
◯◯はそれを苦笑いで見届けると、仕事の後片付けをさっさと終わらせるためにロビーへと向かった。
◯◯は気づいていない。
お燐やお空が、男である◯◯の部屋に入りこんでくる本当の目的を。
そして、先程お燐の運んでいた死体が、かつて◯◯を裏切り、嫌われ者が集う地底にへと追い込んだかつての仲間達の変わり果てた姿だということを。
人知れずお燐は呟く。
「お前達には感謝してるよ…
お兄さんがこっちに来る切っ掛けを作ってくれたんだからさ…
でも、お兄さんを悲しませたのはユルセナイ。
お空に死肉を髪の毛一本残さず喰らい尽くされた後、地獄の炎で永遠に炙られ続けるといいよ」
「うにゅう~~~!!」
自分の部屋に向かおうとしていた○○は、正面からタックルとともに強烈なハグを受けた。
強烈すぎるそのハグは、並みの人間だったらアバラ骨の5,6本は折れていたかもしれない。
「えへへ、お兄さん♪」
しかし妖怪並みに体が頑丈になった○○にとって、強烈なハグよりお空の胸を口に押し当てられ窒息させられることの方が苦しかった。
○○はお空の二の腕をバンバンとタップし、お空を引きはがす。
今日のお空も死臭が酷いが、死肉を喰らう地獄鴉のお空から死臭がするのは当然のことであり、先ほどのお燐とは違って我慢できるレベルだったので○○は触れないでおくことにした。
「ねえねえ、お兄さん。
私と一緒に遊びに行かない?」
お空の提案に首を振る○○。
今日はお燐が部屋に遊びに来ることになっていたのだ。
「うーん、そっか。
じゃあ私もお兄さんの部屋に遊びに行っていい?」
勿論、と笑顔で首を縦に振る○○。
「えへへ……やった!」
でも簡単に自分の部屋を片付けたいからと、○○は部屋の前でお空を待たせ、先に自分だけ部屋に入った。
「お空?
どうしたの、お兄さんの部屋の前で?」
「あ、お燐。
えっと……なんで待たされてるんだっけ?」
「鳥頭め……
まあ、几帳面なお兄さんのことだし、あたい達が来る前に部屋を片付けてるんだろうね」
「あ、そうそう。 確かそんなのだった」
「……ところでさ、お空。
『あいつら』は?」
「勿論……髪の毛一本残さず食べつくした後、怨霊を超高温の中に放り込んで閉じ込めたよ。
もう永遠に成仏出来ないだろうね」
「うふふ……上出来だよ、お空。
ふふっ、お兄さんを悲しませた罰さ」
「うん……
……私、お兄さんから『ご褒美』が欲しいな」
「駄目だよ。 あの事はお兄さんには黙ってた方が良い。
それに……ご褒美なら
さとり様から貰えるよ
あたいのコレみたいにね」
「……それ、何?」
「勝負下着♪
今日こそ鈍感なお兄さんをその気にさせてやるんだから♪」
補足:
○○は、友人を守るためにとある妖怪と取引をして自分の言葉を差し出し、強靭な肉体を手に入れた人間
(○○のセリフが無いのはその為)
あまりに強くなりすぎたため、人里の中で恐怖を買うようになり、
そこに目を付けた数人の人間(かつての友人含む)によって、人里に住みながら妖怪側に就いている裏切者のレッテルを張り付けられ、言葉が話せないので弁解が出来ず、
『地底の妖怪に苦しめて殺してもらうように』と地底に追いやられた
最終更新:2013年09月16日 01:51