「さとりさん。これがあんたの愛し方かね?」
「ええ、そうよ◯◯さん。こうすれば私と◯◯さんの位置はかわらないから」
その屋敷の主の部屋は、広く改装されていた。
ステンドグラスから降り注ぐ光(鴉の妖力による発光)が、以前の倍の広さになった寝室を照らしている。
「だって、◯◯さんは外界に居た頃、全て位置の悪さで愛を失っている」
「……俺の心、奥までは読まないんじゃなかったっけか?」
「それについては謝罪します」
でも、我慢できなかったのです。
そう視線で訴える
さとりに、男は苦笑で返した。
例え外界の普通の女性でも、神秘が凝縮された世界の女妖でもその点では変わりがない。
何時だって男を自分の都合で振り回すのは女だ。
男を縛る、男を試す、男を裏切る。
己の感情で動くばかりでしかなく、それを抑える術を知らない。
そんな女に食われ、呑まれ、棄てられ、囲われ、捕らわれるのは何時だって莫迦な男だ。
例えばの話、自分のような。
そして、目の前にいる覚りのような。
彼女は聡明な女性の筈だった。過去の痛みにより、人間との距離を弁えた筈だった。
心を読み明かし、相手とどう付き合うか測れる筈の女性だった。
だが、男が軽く彼女の領域に踏み込んだだけでこの有り様だ。
館の主としての威厳も、人間を遥かに凌駕する妖怪としての畏怖も無い。
執着する男の扱いで取り乱し、嫉妬し、あっさりと踏み込んではいけない領域まで踏み込んでしまった愚かな女だけだ。
「私はかつてすれ違いで大きな痛みを覚え、このような受け身になってしまった。
でもそれはあなたも同じ。貴方も女性と悉くすれ違い、愛を失ってしまった。
どれも、僅かな掛け違えさえなければ伴侶になれたでしょう。死を迎えるまで共に在れた。
なのに、些細な過ちで強固なはずだった愛は簡単に崩れ落ちて、貴方も彼女達も別の道を歩まなくてはならなくなった」
さとりはどこか虚ろな、それでいて慈悲に満ちた笑顔を浮かべた。
「だったら、貴方が動かなければいいのです。すれ違わないように、こうして私の部屋の中にいればいい。
私には貴方を誰よりも理解できるだけの能力があります! 彼女達の様に貴方の事を見誤らない!!
動きさえしなければ、いずれ時間が全てを解決してくれます! いずれあなたにもそれだけの時間を与えてあげます、だから!!」
叫ぶさとりをよそに、◯◯はダブルベットへと寝っ転がった。
何時だって男を自分の都合で振り回すのは女だ。
男を縛る、男を試す、男を裏切る。
己の感情で動くばかりでしかなく、それを抑える術を知らない。
そんな女に食われ、呑まれ、棄てられ、囲われ、捕らわれるのは何時だって莫迦な男だ。
それは幻想の郷でも何もかわらない。
種族が異なっても、男と女の組み合わせになれば全て同じだ。
結局外界の時と同じ繰り返しになるのか、それとも別の結果になるのか?
少なくとも彼女は人間以上に力があって、人間以上に感情的だ。
喚きながらのしかかってきた彼女を逆に組み伏せ、その服の下に手を滑りこませる。
何かを言いかけたさとりの声が、途端に艶を帯びて跳ね上がった。
「莫迦なのは男か、それとも女か。さとり、心が読めるあんたなら分かるか?」
媚と色欲に満ちたさとりを見て男は返答を諦めた。
これは、一戦交えて満足させないとダメだ。話にすらならない。
スカートをめくり、白い太ももに手を滑らせながら男はつぶやいた。
「結局、男と女と2つに別れてれば、すれ違う事もあるってもんさ。
でも、さとりさん、あんた程の執念と執着があればあるいは―――」
さとりは上擦った叫び声を上げるだけだった。
しかし、食い入るように、◯◯を、◯◯だけを見ていた。
男は低く笑うと、第三の目の瞼を軽く撫でて閉じさせた。
これから楽しむ事に、心の中を除くのは無粋だから。
最終更新:2013年09月16日 02:08