無重力の開放
無重力の開放
不変不動の、無重力たる巫女がいた。
彼女は誰に対しても平等だった。差別せず見下さず公平に扱った。
逆に言えば、誰を贔屓にする事もなく、誰を敵視する事もなかった。
彼女の中では万人に区別なく、等しく同じ存在だった。
彼女はとある年に男を世話した。
外来人の青年◯◯だ。どこか優しげで料理が得意な平凡な男である。
能力も魔力も霊力も持ち得ない男であったが、1つだけ特異なところがあった。
霊夢の側にい続けられるという点である。男であれ、女であれ、彼女の側に長居はしなかった。
それは霊夢の気質と性質によるものであり、友誼が続いているのは
魔理沙と萃香ぐらいなもの。
性能としてはまるで見る所の無い青年がなぜ彼女の元で生活し続けれるのかと人妖問わず首をかしげた。
一度、どうして自分の元にとどまり続けるのかと霊夢本人に聞かれ、◯◯は照れた面持ちで答えた。
「霊夢の事が好きだからだよ。好きな女の子の側に居続けるのにこれ以上の理由は無いだろ?」
霊夢は眉1つ動かさず、「そうなの」とだけつぶやきそのまま去ったという。
それから暫くの後、◯◯は隙間妖怪から1つの提案をされる。
霊夢と契り、彼女との間に次代の巫女を作れと。
それを為せば幻想郷で生涯を終える事を許し、その分の食い扶持は用意すると伝えられた。
「霊夢の側に居たいのでしょ? 例え、あの子からの愛情や関心が無いとしても」
「ええ、それが僕の願いですから」
そしてその年の冬、霊夢は女になり。
翌年の春には懐妊が明らかになり、秋の半ばに珠のような女の赤子を産んだ。
藍に取り上げられ産着を着せられる我が子を、霊夢はなんの感慨も無いように見つめていたという。
それから暫くの間、◯◯は神社から引き離され紫が用意した里外れの一軒家で畑を耕して過ごす事になった。
紫から次代の巫女を育てる教育期間中は、なるべく男を遠ざけるようにとの意向が伝えられたからだ。
次代の巫女も幻想郷の守護者に相応しく『無重力』でなくてはならない。
不確定要素、特に女性に影響を与えかねない男性が居るのは不都合なのだろう。例え、それが実の父親でも。
産まれた我が子と僅かにしか接する事が出来ないのは悲しかったが、紫達の態度は問答無用だった。
そして何より霊夢の言葉もあり、泣く泣く◯◯は里へ降りて一人暮らしを始めた。
我が子には逢えなかったが、霊夢は時々里に降りてきて◯◯の家を訪ねてきた。
子供の話題は【掟の為】に話すことが叶わなかったが、他の取り留めのない事はよく話した。
霊夢は◯◯の家でも神社と全く変わらなかった。
縁側で茶をぼんやりと啜りながら、◯◯の相槌を素っ気なく打つだけ。
◯◯は細々と霊夢の世話を焼き、霊夢はそれを関心も無さそうな態度で淡々と甘受するのみ。
傍から見るものがいればこう言っただろう。本当にあの二人は夫婦なのか?と。
そして、12年が過ぎ。主要な人妖が見守る中博麗神社にて代替が行われた。
霊夢が引退し、次代の巫女が正式に博麗の巫女となった瞬間である。
その儀式を取材した射命丸文はこう記事に記している。
新しい巫女は先代の巫女にそっくりである。特に、その眼差しは瓜二つであると。
そしてその夜、里近くの山の山頂ではいまだに新任巫女を主賓とした宴が続いている頃。
やはり招待すらされなかった◯◯の家は寝静まっていた。否、寝静まっていた筈、だった。
「◯◯ぅぅっぅうぅぅ、◯◯ぅっぅぅぅぅぅぅ、ずっとぉ、ずっとこうしたかったァァァァァァァ!!」
燭台の灯りがうっすらと灯る◯◯の寝室。
全裸に剥かれ幾分窶れた◯◯の上で、同じく全裸の霊夢が彼に抱きつき喚き立てていた。
大人の美しさと妖艶さが加味された霊夢の形相は、かつての面持ちではない。
涙と鼻水と唾液と男の体液でベトベトになりつつ感情に満ち溢れていた。
歓喜、憤怒、悲哀、悦楽、まるで圧縮された感情が奔流の如く噴出されたかのようだ。
「ずっと、ずっとずっと一緒に居るんだから! もう私は博麗の巫女じゃない、巫女なんかじゃぁぁぁない!!
あの子に全て譲ったんたんだからタダの霊夢よ!! ◯◯の事で我慢する事はもう何も、なぁぁぁにも無い!!
この世界だって、紫だって、あの子すら、自由になった私と◯◯の邪魔はさせない、許さないんだから!!!」
徹底的に搾り取られたにも関わらず◯◯は、叫び続ける霊夢の髪を優しくなでた。
この苦しみを味あわせてしまったのは自分であるという自責。そして、それほどまでに自分を想ってくれたという至上の悦び。
◯◯も怖かったのだ。心の底から彼女が好きでも、彼女の心に自分が全く存在しないのではないかという恐怖が常に心の中に存在した。
◯◯はとても嬉しかった。霊夢が、これ程に、常軌を逸した勢いで自分を求め、愛してくれている事に。
「霊夢、僕の事愛してくれてありがとう。これからは、ずっと一緒だよ」
「うん、ずっと、ずっと一緒だよ。◯◯、これからは二人で生きていける……嬉しいよぉ」
二人は体を重ねあったまま、思いを偽らずに生きていける事を喜んだ。
例え、それが歪んでいても、二人の愛情は確かなものだったからだ。
そして、そんな二人を寝室の窓越しに、はるかな上空から見ている存在が居た。
「とうさま、かあさま、わたしは、どうなるの?」
少女の目は、ひたすらに父と母へと注がれていた。
感想
- ハッピーエンド? -- 名無しさん (2019-12-05 00:11:07)
最終更新:2019年12月05日 00:11