苦労して大学に入った時、こんな生活が待っていると思わなかった。
美人二人がひっそりとオカルト研究のサークルを運営してると聞き、下心込みで様子を見に行ったのは正しかったのか。
大学最高の才媛にして異端と呼ばれている教授とちょっとした事で縁を持ち、助手と仲良くなったのは間違いだったのか。
四人の女性との縁。気がつけば僕は四人の側にしか居場所がなくなった。
大学に僕の居場所なんてない。嫌悪、軽蔑、嫉妬。授業に出る気力すら湧かなくなった。
そんな情けない僕を、四人は変わらず側に置こうとする。
先輩たちは風評なんぞどこ吹く風だった。
教授は凡俗の評価など知らぬといい、助手は気にするなだぜと一蹴した。
むしろ、僕が孤立すればする程、彼女たちの側から離れられなくなれば成る程笑みが深くなっていた様な気がする。

自然と、僕の存在はヒモか燕になった。先輩達の側に居る時はヒモ。教授たちの側に居る時は燕。
その立場に僕が納得していたかというと、全くしてなかった。考えれば考える程惨めになった。
そして大好きで敬愛している彼女達について、こんな負の感情を抱いてしまう事に深い罪悪感を覚えた。

「大丈夫よ◯◯。そんな深刻な顔をしなくてもいいの」
「そうよねメリー。あ、そうだ。どうせなら旅行行きましょうよ宇宙旅行。
 ロケットに乗って地球を見下ろして『見ろ、まるで人がゴミのようだ!』って叫べば憂鬱な気分なんて吹っ飛んじゃうわよ」

「他の教授どもが君が私の側に居ると邪魔になるから別れろと?
 …くだらない奴らね。ちゆり、そろそろヴァージョンアップした「可能性空間移動船」でまた冒険の旅に出るわよ。
 勿論、◯◯、貴方も同行して貰うからね」
「了解だぜ教授。ほらくだらない事なんて気にしてないで、さっさと今日の分の仕事を片付けろだぜ◯◯」

ごめんなさい先輩達、ごめんなさい教授、ちゆりさん。
あなた方のように、僕は強くなかった。世間体と狭まる自分の居場所に耐え切れなかった。
もう、耐え切れない。気がつけば僕は知らぬ電車に乗って地方に行き、森の中を進んでいた。
もう、駄目です。四人の愛を受け止めるのに、僕は脆弱過ぎたんだ。凡庸過ぎたんだ。
ごめんなさい。僕がもっと強ければ、みんなを幸せに出来たのかもしれないのに。
後悔と共に倒れそうになった僕の視界に、うねりを帯びた闇と、闇に浮かぶ瞳が大きく広がった。
あれ、これ、なんだか懐かしい、どこかで見たような―。

その日、◯◯という青年は現世にとって不要となり、世界の壁を渡り幻想の郷へと渡った。
忌み嫌われていた存在を大学の人々は努めて忘れようとし。
たったひと月も経たずにまるで◯◯という青年は初めから存在しないかのような扱いをされ排斥され忘却された。

しかし、世間が忘れようとも。◯◯が世界に不要とされようとも。
彼を愛した四人にとって、そんな事は本心からどうでもいい事だった。

「行くわよ蓮子」
「わかっているわメリー。この先に、◯◯が居る。早く、迎えに行かないと」
「「待っててね◯◯。今度は絶対に離さないから」」

人工的に作られた揺らぎを前に、執着と妄愛に満ちた笑みを二人は浮かべる。


「準備オーケーだぜ教授。可能性空間移動船、何時でも出られるぜ」
「ご苦労ちゆり、全くお馬鹿さんね◯◯。そんなにも私の気持ちを理解出来なかったとは。
 愚鈍で朴念仁な君には捕縛後私が特別に課外授業を受け持ってあげようじゃないか。
 男女が愛しあうのに俗世の価値観なんて不要だという意味。
 私の君に対する底知れない情愛と欲望とを、余すことなく教えてあげるわ。 光栄に思いなさい」

例え世界を渡ろうとも、◯◯と四人の女性の業は尽きず。
一人の客人を受け入れた幻想の郷に、嵐が吹き荒れる事となる。

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最終更新:2013年09月16日 02:29