肖像画の前で、少女がゆったりと安楽椅子に座り奇怪な文字で構成された書物を読んでいる。

「でな、パチェはすっごく独占欲が強い。どんくらい強いかと言えば紅魔館でも上位だと思う」

少しだけ眉を潜め、少女はその病的に白い指で魔導書のページを捲る。
動きがよどみないのは、男の声を聞き流しているからだろう。

「幾ら浮気なんてしてないって言ってもきかないし、危うくこぁを魔界送り寸前まで逝ったし」

男の声が、少しだけ低くなる。当時を思い出して頭が痛くなったのだろうか。

「結局、しばらくの間パチェ専用の人間椅子になったよ。
 偶に腰掛けタイプにもなったな。あれはパチェの柔らかいお尻をダイレクトに感じたからなかなか役得だった」

紅茶を軽くすすり、更にページを捲る。
相変わらず話は聞き流している様だが、少しストレスを感じているらしい。
紫の宝玉のような瞳は細められ、長い紫色の髪を煩わしそうに横に流している。

「しかしまぁ、そんな感じだったけど悪くはなかったよ。
 ドきついって言われそうな愛情表現だったし、何度か死にかけたり蘇生されたりしたこともある。
 だけどそれはそれでいいかなぁとか思えるんだ。他の連中や新しく外界から来た奴らに異常者呼ばわりされたけどな。
 確かにあんな常軌を逸した愛情を受け入れる方が異常かもしれないけど俺はパチュリーが好きなんだよ。
 一晩中しがみついてくるのを抱きしめ返したり、うっかり刺した後俺を抱えながら錯乱したりとかな」

ページを捲る音が止んだ。イラッとした目つきで肖像画を見上げるが声は止まらない。

「もー、あん時は愛を感じたね愛を!
 『え、嘘、やだ、ヤダァァァァそ、そんなし、死ぬ私が殺しいやあぁぁぁぁぁ!!
  お、お願い◯◯しっかりして死んじゃいや血、血が止まらないなんでイヤイヤイヤイヤぁ!!!
  だ、誰か血を止めて◯◯が死ぬ私が殺しちゃう駄目、死んじゃ嫌嘘止めてよお願いぃぃぃぃ!!!!!』とか最高だったね☆
  あのまま死んでも超ハッピーだったなぁ! でもパチェとの間にまだ子供出来てなかったし!
  パチェの泣き顔とかも笑った顔やレ◯プ目とおんなじ位好きなんだよマジで!!
  普段はツンとして気難しい猫の様に素っ気ないパチェが感情剥き出しとかそれだけでご飯三杯「煩い」」

栞を挟み込み、パタンと本を机の上に置いて少女はつぶやいた。
小さな声だったが男の声を止めるのには十分だったようだ。

「……だって暇だしさ。動けないからなぁ」
「だからって延々と惚気話聞かされる方にもなってよ。ここは読書室なんだから静かにしなさいって言われてるでしょ。
 全く……なんでよりにもよってここの肖像画に閉じ込めたんだか」
「そりゃー、この方が都合がいいからだわな。外出時だけじゃなく偶に意味もなく閉じ込められるし」

口と目線だけが動くごく平均的な日本人青年の肖像画を見上げ、少女は嘆息混じりにつぶやいた。

「ホント、よく母様も飽きないものだわ。ねぇ、お父様?」

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最終更新:2013年09月16日 02:42