ドM? いや、これはまさしく愛だ

紫様より命じられた仕事を全て済ませた私は、足取りも軽く自宅へとたどり着いた。
人間向けに改装した屋敷の玄関に入ると、私は靴を抜いた後に靴箱の上にあるものを手にする。
それは首輪。私が今の私である証拠。ご主人様の所有物である証。
自らの九尾の毛で編み上げた首輪を首に巻き付け、私はご主人様のものとしてそのお世話に精を出す。
この時間帯、ご主人様は書斎で仕事をなさっているので、お茶を淹れて帰宅の挨拶をする。
書斎の襖を開け三つ指を付き、深々と頭を下げ挨拶をする。
ご主人様も優しい笑顔を浮かべて返事を返してくださった。
最初はそんな事しなくてもいい等と言っておられたが解ってくださった。
ご主人様は私の願いを叶えてくださる。ここに住まう時も色々と無理を言ってしまったが全て応えてくださった。

何時もどおり、お風呂かお食事かそれとも私かと聞きお食事とおっしゃったので夕餉を作る。
この問で未だに私を指名してくれないのが少し悲しいが、伽の時はたっぷり可愛がってくださるので問題ない。
紫様の伝手で手に入れた外の世界の食材を使い、夕食を用意しご主人さまに召し上がっていただく。
ご主人様は美味しそうに海の魚の刺身を召し上がった。ご主人様の故郷は沿岸の都市だったという。
食べ終わった後で美味しかった、この家で食べられて良かったとおっしゃった。
以前故郷の味を語り、外の世界に意識が向いていると私が錯乱してしまった事を気遣っておられるのだろう。
本当に優しいご主人様だ。泣いてすがって幻想郷に留まるよう嘆願した私を受け入れてくださっただけの事はある。

「だからね藍、自傷とかはしてはダメだよ?」

ご主人の手が私の自慢の尾を優しく撫でる。
そうだ、私はご主人様の優しさと気遣いに報いるよう、一心不乱にご奉仕しなくてはいけない。
居もしない他の女に嫉妬してストレスで毛が抜けたり、不甲斐ない我が身への怒りで齧って怪我をするなど言語道断だ。
この尻尾が綺麗である事を、ご主人様は望んでおられる。
我が身が健やかでないとご主人様が悲しまれる。であればこそ、私は万全でなければならない。

「藍が健やかである為なら、このお屋敷でずっと暮らすのも悪くないさ」

ああ、ご主人様。私はそれでこそ心と身を全て捧げる事ができます。
だから、だからこそ。

私の一生は無限でご主人様の一生は(今は)有限。
こうして暮らす事が出来ても貴方様と離れるのが一番辛い事なのです。
どうか、私と暮らす一生の間そのことを忘れずにいてください。
ご主人様が藍に何を求めているのか、愚かな私がそれを理解するまでお待ち願いたいのです。貴方の願いなら全て叶えるのだから。
そして私を信頼して欲しいのです。貴方から信頼を与えられる事こそそれが私の幸せなのですから。
間違いを犯した私を叱責したり罰を与えても構いません。無視したり拒絶する事だけはしないでください。私が女として愛するのは貴方しか居ないのだから。
話しかけて欲しいのです。それが喜びでも怒りでも哀しみでも楽しみでも、ご主人様の言葉を私に届けて欲しいから。
ご主人様と出会ってからどう私に接したか、藍はそれを全て覚えています。それが藍の貴方への執着の全てだから
私を拒絶したり拒む前にご理解ください。私はあらゆる力で貴方を意のままにできるのに、決して貴方の意に沿わない事をしないと誓っている事を。
ご主人様、どうか私の真の願いを受け入れ、私と同じ時の長さを歩んでください。同じように年を取るにしても、貴方様の寿命はあまりにも短すぎます。
そして永劫の果ての最後のその時まで一緒にいてください。
例え死の終末を迎えてもご主人様と共にいる事が私の幸せなのだから。
死すら私の愛を崩せない事を忘れないで下さい。
ご主人様。私はあなたを愛しています。

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最終更新:2013年09月16日 02:44