スレタイSSその6。テーマは第12夜。
「○○さん、今日もありがとうございました!」
「ああ。また何かあったらいつでも来なよ」
「はい! 頼りにしてます!」
そう言って女性は何度も頭を下げながら帰って行った。
「○○……」
「おわっ!?」
突如背後から声をかけられ思わず飛び退いてしまう○○
慌てて声がした方へ顔を向けると、そこに居たのは慧音だった。
「いきなり何だよ」
「あれは誰だ? 見たことのない顔だったが」
少々恨めしそうな視線を送るがどこ吹く風。
しかしその言葉には若干驚きを覚えた。
里の重役である慧音なら、それに関することは何でも把握していると思っていたからだ。
「ほら、最近里に越してきた人だよ」
「ん、あぁ、そういえばそうだったな……」
○○に悟られないように、ごく僅かに眉を顰める慧音。
まるで嫌なことを思い出したと言わんばかりである。
「越してきたばかりで色々困ってるみたいでね。ちょっと前から相談に乗ってるんだ」
「そうか。それは感心だな」
言葉とは裏腹にその顔は曇っていたことに、この時○○は気付かなかった。
「ところで○○、この後何か予定はあるか?」
「え? いや何もないが」
「では家にお邪魔させてもらおう。話したいことがあるんだ」
○○は何も不審に思わず慧音を家に招いた。
彼女に宿る暗い欲望を知ることもなく。
それから後日。
件の女性が○○の家を訪ねてきた。
「すみませーん、○○さんはいらっしゃいますかー」
呼びかけに応じ戸口が引かれ住人が姿を表す。
だが出てきたのは○○ではなく、慧音だった。
「何か用か?」
何故○○の家から慧音が出てくるのか、訝しみながら女性は口を開く。
「あ、その……○○さんに相談に乗ってもらおうかと思いまして」
「○○は留守だ。また後日来ると良い」
きっぱりそう告げると、勢いよく戸が閉められる。
女性はしばしきょとんとしていたが、やがて諦めたようで、残念そうに帰って行った。
その後ろ姿を隙間から見ながら、慧音は満足そうに目を細めた。
居間に戻ると、読書をしていた○○が出迎える。
「お客さんか?」
「いや、家を間違えたようだ。新しく里に越して来た人かもしれんな」
「慧音が知らないなんて珍しいな」
「私にも分からないことぐらいあるさ」
「そうか。それもそうだな」
ははは、と楽しそうに2人は笑う。
何気ない「夫婦」の日常であった。
603の最後の会話が意味不明だった。
これで脳内補完して下さい。
居間に戻ると、読書をしていた○○が出迎える。
「お客さんか?」
「いや、家を間違えたようだ」
「珍しいな。ここは慧音の家でもあるのに」
里の住民が慧音の家と他人の家を間違えるだろうか、と○○は思う。
「間違いは誰にでもあるさ」
「それもそうか」
特に気にせず読書に戻る○○。
「ああ、○○が気にすることはないんだ。何も、な」
そう小さく呟き慧音はクスクスと笑っていた。
最終更新:2013年09月16日 02:47