ちょい駄文投下
○○と言う男は愛して欲しかった。
誰かを愛することはあれど、それが自分に向けられることは無かった。
父と母はおらず、事務的な生活を送る孤児院では愛なぞ見受けられず、天外孤独な身では愛を感じる生活は送れなかった。
そんな○○が幻想郷に迷い込んでしまい、人里に保護されたのは偶然だったのだろうか。
人里で外来人の存在は色々と貴重である。
ある者は知識を、ある者は技術を、ある者はその才能を必要とされる。
外の世界に帰る者もいれば、永住する者もおり、中には権力者たる妖怪に好かれる。
○○もまた、その知識と技術を必要とされて日雇いの仕事をしに向かう。
途中、人里の守護者である半妖の美女に追われる男を見かけた。
なんでも守護者はその男に惚れてしまうが、男は外の世界に未練があり申し出を断っているらしい。
聞けば今日も弁当を用意したから食べてくれ、と言って迫ったところ男が逃げ出しただとか。
「・・・羨ましいものだ。」
○○は一言ボソリと言って仕事場への歩みを始める。
あんな美女に、あそこまで愛されるなんてことが、外の世界にあるだろうか。
愛されたい○○だから、とても眩しく、羨ましかった。
「おはようございます。」
「あぁ、○○か。おはよう。」
人里郊外にある竹林近くの小屋、最近はそこで炭を作る妹紅という女性の手伝いだった。
妹紅は美人だった、白い肌に白い髪、紅い眼は幻想的で美しく見えた。
もしこの女性が自分のことを、人里で見た守護者と同じように執着してくれたら自分はどうなるのか、と偶に思ったが所詮妄想と頭を振った。
「今日は良い肉が入ったんだ、○○は肝の類は苦手?」
「いえ、寧ろ好みですが・・・宜しいので?」
肉は希少価値が此処では高い、野生の猪なんかは妖怪が直ぐ食べてしまう。
「いつも頑張ってるからね、賄いということで食べていきなよ。」
そういうことでしたら、と○○は返事をする。
○○は気付かなかった、背中越しに妹紅がニヤリと笑ったのを。
妹紅は気付かなかった、○○が愛に飢えた獣であったことを。
半日後、偏愛と執着と狂愛を貪る二匹の獣がいたことは確かである
最終更新:2013年09月16日 02:50