「3と1の狂気」

 私の名は○○。不幸を呼ぶ男だ。
 私が歩けば周りの草花が枯れる。里に買い物に行けば買い物先の看板娘さんが死んでしまう。仕事をすれば仕事仲間が事故に会う。
 結果私は孤独となった。それでいいと私は思っている。死ねるほど根性はない。だけども周りを不幸にしたくはない。私の周りに誰もいなくなれば、私は周りを不幸にしない。それは私に残された一つの幸せだ。
 そんな私に最近客が来るようになった。それも一人じゃない。三人だ。いや、三人という言い方は正しくないかもしれない。いや、人称なんて関係ないか。たとえ何人であろうとも私に近づくものは不幸になる。近づかないでほしい。
 しかし、その三人の客は足繁く私の元を訪れた。一向に不幸になった様子はない。この者たちの力が私のような矮小な人間の力を完全に上回っているからだろうか。わからない。わからないが、次第に私は三人に心を開きだした。
 その三人には共通点がある。一つ、女性である。二つ、人間ではない。三つ、至上の美しさである。そして四つ、その三人は必ず一人で来て、誰かが来る前に帰っていく。
 だから三人は鉢合わせたことがない。少なくとも私の前では。何となくだが、私はその三人のうち一人に会っている間、他の二人に小さな罪悪感が芽生えていた。だが、この三人は会ってはいけない。絶対に。一人ずつだからこそ均衡が保たれているんだという確信があった。
 ある日、その均衡は崩れた。三人が一斉に私の元に訪れた。
「○○、あなた私とともに来なさい。あなたの不幸の元凶、この二人よ。私と来れば助けてあげるわ」
 日傘を持った緑の髪の少女。風見幽香は鋭く怜悧に言った。
「○○ー、ダメよぉ騙されちゃ。元凶はこの二人。私はあなたをずっと守っていたのよぉ。私と一緒に来なさい」
 桜色の髪、死装束のような服を着た少女。西行寺幽々子は恐ろしい、この世のものとは思えない美しい笑顔で言った。
「○○、いけませんよ。この二人に従っちゃ。この二人はあなたを騙す災厄です。厄はすべて私が引き受けるわ。私と一緒に行きましょう」
 深緑の髪を前で束ねたゴスロリ服の少女。鍵山雛はコロコロと喉を鳴らして笑いながら言った。
「もう……いい」
 私は知っている。風見幽香が、私の歩いた後の草花を枯らし周りから人が遠ざかるようにしたことを。
 私は知っている。西行寺幽々子が、私が話した女性を片っ端から殺して周りから迫害されるようにしたことを。
 私は知っている。鍵山雛が、私の仕事先で不幸をばらまき私を完全に孤立させたことを。
「私は知っている。君たちが私を愛した故に狂ったことを」
 私は知らない。三人をどうすればいいのかを。
 私は知らない。この先どうすればいいのかを。
 私は知らない。私がこの後歩む運命のその先を。
「だから私は知りたい。三人が一人になった時。私の隣にいるのが誰で、私をどこへ連れて行くのか」
 その言葉を聞いた瞬間。三人は嬉々として殺し合った。すべては◯◯と己の愛を契る為。その姿に私は非常に興奮し、返り血を浴びながら私は笑っていた。

「さあ○○、終わったわ……行きましょう」
 最後に残った一人、私は彼女と狂気の踊りを踊り続けよう。

<了>

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最終更新:2013年09月16日 17:58