ぬえに拉致監禁されました
ここはどこかの洞窟。
腕には手錠。足には足枷をはめられ、身動きが取れない。
そんな状態で俺は叫ぶ。
「犯人はこの中にいる!!」
「まぁ、ここにいるのはわたしだけだしね」
俺を拉致監禁した犯人であるぬえといつも通りのふざけた会話をかわす。
「ずいぶんと余裕ねあんた」
「犯人がお前な時点で安全は保障済みだからな」
俺とぬえは日ごろからよく会話をする。
ぬえが何かに拗ねて変な行動を取ることも多々あって今回のこともその一つだと思われる。
だとしても拉致監禁。俺はこいつに何かしただろうか。
まぁ、普段から馬鹿にしたりしてるから心当たりはたくさんある。すねたというより怒っているのかもしれない。
しかし、ここまでの行動をぬえが起こしたのは始めて。そこまでのことをした覚えはない。
「なぁ、今回のはなにが目的なんだ?」
思い切って本人に聞いてみる。
「ねぇ…あんたさ…」
こちらの質問には答えずに逆になにかを聞こうとするぬえ。
「いつか外界に帰る気ってのは本当?」
「…まぁ、そうだな」
「…行かないでよ」
正直に答える。
すると消え入りそうな声で懇願された。
…まさか、今回の拉致監禁はこれが原因なのだろうか?
さてどうしたものか。思考を巡らせてみた。
ぬえがなにかしらが原因で、すねて変な行動を起こすことは今までも何度もあった。
ぬえは強情で、自分から引き下がることはほとんどなかった。
その度に俺が折れてぬえがすねた原因であるなんらかを叶えてやっていた。
たとえば食べ物買ってやったり。
こいつが今回、俺が外界に帰るのが嫌ですねているのだとしたら俺が折れるということは帰還を諦めることを意味する。
しばし、いつかは帰ることを願っている外界のことを想う。
そして次に目の前の少女を見やる。
ぬえとは色々と馬鹿な会話をしてきた。喧嘩をすることもあった。
俺にとっては気心の知れた友人、悪友みたいなもんだ。
それと同時に。
実年齢はこいつの方が上だが、見た目が少女であったり、精神的にガキっぽかっりと俺の中で「近所のガキ」のような印象もある。
そんなこいつが、俺が外界に帰ると知って、こんな悲しそうな顔をし、こんな行動を起こすとは。
…俺は今回も折れることにした。
「わかったよ」
「え?」
「俺、外界に帰るのを諦めるよ」
「…本当?」
「ああ。本当だ」
「そう、よかった…」
安堵した表情のぬえ。これなら大丈夫だろ。
「じゃあ、この手錠と足枷を外してくれよ」
「あ、それとこれとは話が別だから」
「お前はなにをいっているのですか?」
いかんいかん。若干イラッとしてしまった。
ひねくれた性格をしているぬえとうまくやっていくコツはこいつのひねくれた言動を寛容な心で相手してやることだ。
たまにフラストレーションがたまってえらいことになるけど。
それにしても帰還防止が監禁の原因ではなかった…いや、それも含むが一番の理由ではないのだろう。
根気よく聞いていくしかないだろう。
「おいぬえ。じゃあ、俺を監禁した理由はなんなんだ?」
「あんたってさ、色々な娘と仲いいよね」
「うん?まぁな。ムラサともよく話すし、聖さんにも色々よくしてもらっているけど、それがどうかしたか?
そういえばこの前パルスィにも同じようなこと言われたな」
「……」
ぬえの機嫌が悪くなったのが表情から読み取れる。
こいつパルスィのこと嫌いだったっけ?
「もういい。この際、はっきり言ってやるわ」
「是非そうしてくれ」
ぬえはすぐには言わず。何かを決した顔で、けれど、顔を真っ赤にしながらモジモジさせている。
そして若干間が空いた後に口を開いた。
「あんたを他の女に取られたくないのよ!わたしの物にしたいのよ!!」
「えっと…」
俺は頭をフル稼働させて思考を巡らせる。
その結果ある考えが浮かぶ。
「もしかして、お前…俺のこと好きなの?」
「あんたこの状態でまだそんなこと聞くの!?」
マジか。マジかマジか。
こいつのことは悪友か近所のガキくらいにしか思ってなかったから向こうも大体そんな印象を抱いているもんだと思っていた。
しかし、こんなことを言われるとこちらとしてもそんな目で見てしまう。
こいつ結構かわいい顔しているもんな。
性格については気にならないし。うん、十分にありだな。そういう視点でも。
若干見た目(あと精神年齢)が俺と比べて幼い気もするがまぁ、許容範囲だろ。実際は向こうのが年上だし。
だが問題はその貧相な胸なわけで…
「あんた、失礼なこと考えてない?」
「ソンナコトナイデスヨ」
「あんたって嘘つくとき棒読み気味になるわよね」
睨まれた。いかん話題を変えねば。
「じゃあ、拉致監禁なんかせずに告白してくればいいだろうに」
「でも…わたし、ムラサと違って性格良くないし、聖みたいに綺麗じゃないし…」
告白する相手との会話じゃないような気がするが、ようするに自分に自身がないのか。
「なぁ、ぬえ。確かに俺は今までお前のことをそういった目で見れてなかったが、お前は十分にかわいいと思うぞ。
なんだかんだで俺の中で付き合う対象としてはありだ。」
「本当!?」
「ああ。だが欲を言えば、聖さんほどではないにしろ星さんぐらいは胸が欲しかった…イデェ!?」
ぬえが足枷で固定されていて動かない俺の左足の弁慶の泣き所を連続で蹴ってきていた。
「いたいいたい!!てめぇ、やめろ…あ、マジでダメだこれ、ごめんなさいぬえさん、やめてください!!」
謝り倒してなんとかやめてもらう。
てか、その手にもった能力で正体不明となっている得物は何?刀?ハンマー?それを今俺に対してどうするきだったんだこいつは…。
ようはこいつ、俺が好きになったが自分に自信がないから拉致監禁したってことか?
相変わらず意味不明な。
うーむ。俺は外界への帰還を諦めたわけで。だったら…
「お前の気持ちはわかったよぬえ。…じゃあ付き合うか」
「…え?」
「だから、お前のことは嫌いじゃないし。かわいいと思うよ。
こんなことするまでに俺のことを好いてくれたっていうのもまぁ、嬉しいし。
だからその、お前の物になってやるよ」
「…嬉しい」
ぬえは顔をほころばせて涙を流した。
なんだこんな表情もできるんじゃないか。こんな物見せられてたらこっちから好きになってたかもしれん。
「じゃあ、ぬえ。この手錠と足枷を外してくれ」
「あ、それとこれとは話が別だから」
反射的に顔面を殴ろうと飛びかかりかけたが、手錠と足枷のせいで動けなかった。
ちなみに以前ぬえが調子に乗りすぎている時に顔面をぶん殴ったことがある。
直後に逆ギレしたぬえに馬乗りにされてボコボコにされたけど。
精神年齢が下なのに戦闘能力が上とかどうすればいいんだよ。
妖怪に対して人間が不利すぎる。
奴が調子に乗ったからキレたら逆ギレでボコボコ。
俺が調子に乗ったら例え動けてもボコボコ。
理不尽だ。
…閑話休題。
「そうか、あれだな。お前、あんなこといってたが、実際は俺をからかってるだけなんだな?」
「恋する乙女になんてこというのよ!」
「相手を拉致監禁する恋する乙女なんかいるか」
「だってだってだって!あんたを他の女に渡したくないんだもん」
「だから付き合おうっていってるじゃないか」
「付き合い始めたからってそれで安心できるとは限らないじゃない」
「うん?どういうことだよ?」
「ムラサは性格いいけどあんたのこととなったらどうなるかわからないし。
聖はあんたを見る目だけ違うし。地底の橋姫はパルパルだし」
その後もぬえは二人の共通の知り合いの女の子の名を出して色々と文句を言っていた。
「みんながどうかしたのか?」
「あんたのその鈍さが心配の原因なのよ」
「よくわからんが、俺は浮気したりはしないぜ?」
「誰もあんたから進んで浮気するなんて思ってないわよ」
「じゃあ、なんなんだよ」
「例えば、もしあんた、聖から誘惑されたとしたら断われる?」
「………もちろんだ」
「何よその間は。即答しなさいよ、即答」
「うっ…」
実際、想像していいなと思ってしまった。不覚。
「いや、確かに即答はできなかったけどさ。付き合ってる女の子がいたら誘惑されてものらないって」
「誘惑ならまだいいわよ。強硬手段にでる奴とかもいるかもしれないでしょ」
まぁ、お前のも強硬手段なんだけどな。
それにしてもまいった。基本的にぬえがわがままを言いだしたらこちら側が折れるのが基本だ。
しかし今回のケースはこっちが折れるわけにはいかない。なんとか説得するしかない。
…こいつを説得するの、大変なんだよなぁ。
でも、ひねくれたところのあるぬえだが、根はいい奴だ。きちんと話せばわかってくれるはずだ。
「食事とか身の回りの世話はわたしがしてあげるから…」
「なぁ、ぬえ。お前こんなことしても、なんにもならないってわかってんだろ?」
「何よいきなり…」
「それに、俺の個人的な意見も言わせてもらうと、付き合ったんならデートとか行きたいしな」
「う~」
悩みだすぬえ。こいつも付き合ったんならやっぱりデートに行きたいんだろう。
そこらへんを攻めればなんとかなるかもしれない。
「ほら、祭りとか行こうぜ祭り。来週末に人里であるんだよ」
「うう~…○○とデート…お祭り…」
思いのほか早く説得はできそうだった。
数十分後。
とりあえず手錠と足枷ははずしてもらった。
立ち上がると動かなかったせいか足が痛い。ちがうな、これぬえに蹴られた弁慶の泣きどころだ。
「いい!?これからはわたしはあんたの家住むから!他の女は絶対に中に入れないこと!」
「あーはいはい了解」
「入れたらその女殺すから」
「…肝に銘じとくよ」
一応自由の身にはなったが、色々と制約が付きそうだった。
殺すってお前…まぁ、他の女の子を家に入れなければ問題ないだろう。
今まで通りあんまりな内容じゃなければ俺が折れていこう。
ひねくれた性格をしながらも根は素直なこの女の子と一緒に生きていくにはそれが一番だと思うから。
「じゃあ、これからよろしくなぬえ」
「…うん、こちらこそ」
最終更新:2013年10月22日 15:06