妻は身体が弱い事を気にしている。
実際、夫婦の営みをしている時に発作を起こす事は多い。
その度にごめんなさい、ごめんなさい、といつもの無愛想が嘘のような顔で謝ってくる。
やがて、私が自分以外の女に取られるのではないかと不安になったらしい。
司書である小悪魔を自分の愛人に宛がおうとしてきた。
私は反対した。妻以外の女を抱くのには抵抗があったし、小悪魔自身にも悪いのではないかと。
だが、自分が契約した悪魔であれば、自分の監視が行き届く範囲であれば問題ないと主張した。
結果、私は定期的に小悪魔を抱いている。
小悪魔は悪魔らしく、淫靡で妖艶だった。
彼女の自身の本性を鎮める行為であると思えば幾分気になるとの言葉は直ぐに嘘となった。
主従なのだろうか。小悪魔の男の好みも主に似ていたようだ。
彼女の目には、私に抱かれるという優越と独占欲が宿っていた。
私はしがみつき甘い声を挙げる小悪魔を抱き留めながら、ドアの隙間を見る。
そこには、目を見開いた妻が居た。小悪魔も気付いているのだろう、身体の動きと声を更に大きくした。
ぜぇー、ぜぇー。
口の端から泡を滴らせ、爪の間から血が出るほど、妻は扉の端を握り締めていた。
その晩、私はいつの間にか妻の部屋に居た。
妻は窓際のチェアに腰掛け、私と小悪魔は彼女のベットで愛し合っていた。
いや、それは愛し合うとは違うだろう。小悪魔が一方的に貪っているだけの事だ。
私は妻の方を必死に見やる。
妻は、虚空を見詰め、口の端から唾液を垂らしていた。
ただ、涙を流していた。涙に濡れた虚ろな目が、少しだけ動いて何かを必死に訴えてくる。
私は、急いで小悪魔の方を見た。
小悪魔は、目を細めて私を見下ろしていた。
軽く、癖のように咳をしながら。
『はじめから、こうすればよかったのよ』
最終更新:2013年11月20日 02:22