霊夢/18スレ/245-246




博麗霊夢に男ができた。


その噂を聞きつけ、興味本位で博麗神社を訪れた者はさらに驚愕することとなった。
霊夢の相手はなんと妖怪だった。
椛や藍のような獣形の妖怪だが、その力は下級妖怪そのものだった。

最初のうちは大騒ぎだったが、どこぞの巫女の常識に囚われてはいけないんですね発言を皮きりに、
いつの間にかそれがいつもの光景となっていた。
そんなある日。


「遊びに来たわよー霊夢ー!」

「ああ、レミリアか」
「いらっしゃいレミリアさん」

従者も付けずに傘一本で博麗神社に遊びに来たレミリア・スカーレットを妖怪○○とその横に寄り添い、
彼の尻尾をモフモフしている霊夢が出迎える。

「今お茶をお出ししますね…って霊夢、尻尾離して。お客様にお茶をお出しできない」
「別にいいじゃない。客って言っても駄弁りに来てるだけでしょ」
「お気遣いなく○○。こういっちゃ悪いんだけど、日本茶は肌に合わないのよね」

ふたりにそう言われて○○は上げかけた腰を下ろす。

「今度は紅茶でも準備しておこうか…」
「あら、○○あなた紅茶を淹れられるの?」
「人里で外来人の人がてぃーぱっくってのを売っていたんですよ。それがあれば簡単に淹れられるらしいので」
「やめときなさい○○。こいつ紅茶に関しては絶対舌が肥えてるから」
「失礼ね」


そんなことを話しながらダラダラと時間は過ぎていく。

「あら、もうこんな時間?そろそろ帰らないと咲夜が心配するわ。
それにしても最後まで人前でイチャイチャしてくれちゃってまぁ…」
「あはは。すみません」
「なによ。羨ましいの?」
「羨ましいっていうか…なつかしいわね」
「なつかしい?」
「ええ、私にも昔、夫がいたのよ」
「なにそれ初耳よ」

レミリアは実際に懐かしむように遠くを見やる。

「咲夜にもまだ言ってないわ。霊夢の相手が普通の人間だったなら一生あなたにも言うこともなかったでしょうね。私の夫はね、人間だったのよ。
ずいぶん前に寿命で死んでしまったけどね。…そうね、異種族間夫婦の先輩からいくつかアドバイスしてあげるわ」
「なによ、偉そうに」
「まぁまぁ、霊夢」

霊夢はあまり真剣に聞く気はないようだったが、○○はレミリアの瞳に今まで彼女から感じたことのない真剣な想いを感じた。

「妖怪は精神に左右される生き物よ。そして人間より寿命が長いの。
必然的に妖怪側は寿命を迎えた人間と過ごした期間よりも死に別れた後、長い時を過ごすことになるの。
それは、精神に左右される妖怪にとっては辛いことなのよ。下手したら存在に関わるほどに」
「死に別れた後…」

いつの間にか霊夢も真剣に話を聞いていた。

「それに耐えるには…そうね。あなたたち、思い出をせいぜいいっぱい残しておきなさい。
最愛の人を失って心に開いた穴を、その人とのたくさんの思い出が埋めてくれるわ。私もそうだった。あいつとのたくさんの思い出のお蔭で立ち直れたわ」

レミリアは立ち上がり傘をさす。

「じゃあ、もう行くわ。あ、そうそうあとひとつ。経験上語れることがあったわ。
霊夢、あんた死ぬときは老衰で、笑いながら逝きなさい。それだけでも残された方はだいぶ楽になるわ」

そんな言葉を残してレミリアは帰って行った。


「さて、俺もそろそろ夕飯の支度をしないと。霊夢、いい加減尻尾を離してくれよ…霊夢?」
「精神…寿命…」
「霊夢、聞いてる?」
「え…あ、ごめん!ボーっとしてたわ」
「レミリアさんが言っていたことを考えていたの?人の話を真剣に聞くなんて珍しいね」
「なによ、悪かったわね。…ねぇ、○○」

霊夢が尻尾を離したので、台所に向かおうとする○○に霊夢が呼びかける。

「なに?霊夢」
「あなたも、私があなたを残して死んだら、辛い?」
「うん。辛いよ。想像しただけで苦しい。レミリアさんが言っていた存在に関わるかもっていうのも大げさな言い方じゃないかもしれないね」
「そう…そうよね…」

○○は答えると台所に向かう。
○○の霊夢への返答は心の底からの本音だった。


 「よし、完成!」

色鮮やかな夕食が完成した。
霊夢との同棲を始める際、八雲紫によって半強制的に八雲藍の元で花婿修行(内容は花嫁修業)をさせられ家事一般をマスターした。ついでに尻尾のブラッシング方も教わった。
なんでも家庭面で霊夢をサポートしなさい!とのことだった。こんな生活は野良妖怪だった時には夢にも思わなかった。

「霊夢~!夕飯できたよ!」


居間のちゃぶ台に夕食をならべ神社のどこかにいるであろう霊夢を呼ぶが反応がない。
いつもは呼ばなくても匂いにつられてやってくるというのに。
夕飯を作っている短時間で寝てしまったのだろうか。

異変発生時以外の霊夢はだらしなく、紫が霊夢の男だと聞いて○○に家事を叩き込んで家庭面をサポートさせるようにするのも納得のズボラ加減なのである。
5分もあればこんな時間にも爆睡は余裕だ。

今ならばまだ起こすのに成功し、正常の時間帯に、共に夕食を食べれるかもしれないと思い霊夢を探そうと家の中を歩きまくる○○。
適当な部屋にあたりをつけて襖を開ける。


「……え?」

そこには、信じられない光景が広がっていた。

畳の上、血の海の中に霊夢が横たわっていた。
その左胸を、霊夢が妖怪退治で使う針が貫いていた。
手の位置から、自らの心臓を貫いて、自殺を図ったことが見て取れたが、○○はそんな状況を冷静に見ている余裕はなかった。


「霊夢!?霊夢!おい、霊夢!!しっかり…そんな…」

霊夢を抱き起す○○。
その体からは致死量の血が出ており、その眼は光を失い、命を感じさせなかった。

「なんで…霊夢…置いてかないでくれ…れいむぅ!!!」

○○の悲痛な叫びが神社中に響く。
だが、その叫びに答えるものはなかった。






それから一週間が経った。
霊夢の葬儀はすでに終わっていた。


誰もいない博麗神社の中、○○は横になっていた。


次の博麗の巫女の準備ができてやってくるか、気持ちの整理がつくかのどちらかの間までならここにいても良いと紫は言ってくれた。

「霊夢…なんで…」

突然最愛の人に残された○○は辛く、今にも消滅してしまうんじゃないかと錯覚するほど弱り切っていた。

「妖怪の山に帰るか…」

ここにある霊夢との思い出はその量が中途半端すぎて、心の穴を埋めるどころか、逆に広げているような気がした。
せめてあと10年ぐらい一緒に暮らせていれば違ったかもしれない。


元々多くはなかった自分の私物をまとめて出発する。
トボトボと今にも倒れるんじゃないかと思える足取りで、神社の外へ、鳥居に向かって歩いて行く○○。

「ちょっと○○!どこに行く気よ?」

その耳に、幻聴ではないかと一瞬思ってしまった程、聞きたかった声が届く。

「え…?霊夢?」

そこには死んだはずの博麗霊夢がいた。

「そんな、だって…霊夢!…!どうしたんだその体!!」

混乱する○○。そこでふと霊夢の体に違和感を感じる。
下級とはいえ妖怪の○○はすぐに霊夢の体の異変に気付くことができた。
霊夢の体は霊体だった。それはそうだ。霊夢の肉体はすでに火葬されているハズだ。


「ああ、これ?」

当の本人である霊夢はたいして気にした様子はない。
混乱している○○の様子を見て面白がってすらいる。

「レミリアの話を聞いて思ったのよ。私と死に別れて、その後、長い時を生き続けるなんて辛いことを○○に味わってほしくないって。
そこでね、霊体になれば私でも○○を置き去りしないて思ったの。そこで死んだのよ。思い立ったら吉日って言うでしょ?即死んでやったわ」
「え…霊夢?死ん…え?」
「それに○○も、私が霊体になって容姿が固定されるなら、少しでも若い方がいいでしょ?」
「え…あ…うん。…うん?」
「誤算だったのは戻って来るのに1週間もかかっちゃったことね。まったく映姫の奴…妖夢や騒霊は幻想郷をウロウロしてんのに私が戻るのはダメってどういうことよ…」

混乱して立ち尽くしていた○○だが、兎にも角にも、霊夢が目の前にいるという現実を理解した途端、泣きながら霊夢に抱き着いた。

「霊夢…霊夢…!!」
「ちょっと○○!あなたなんて顔して…ってそうね。一週間でも辛い思いさせちゃったんだもんね。ごめんね○○」
「霊夢ー!!」
「おーよしよし。○○、これからはずっと一緒だよ?」








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最終更新:2019年02月09日 17:50