「ぐえぇ!」
博麗神社に、鈍い悲鳴が響く。
そして神社の境中を外来人、○○が転がる。
「ちょっと霊夢さん!?弾かれたんですけど!?ちゃんと通れるようになってるのコレ!?」
「ちゃんと結界緩めてるわよ?おかしいわね」
博麗の巫女、博麗霊夢が倒れている○○の顔などをペタペタと触る。
「あの、霊夢さん?」
「いいから、ちょっと黙ってなさい」
そのまま、○○の体を触っていたかと思うと、何かを納得した様子になる霊夢。
「あんた、体内に妖力あるじゃないの。これじゃあ、結界は通れないわ」
「はっ?妖力?俺に!?」
「ってことで、外に帰りたいんなら妖力抜いてからまた来なさい」
そういうと霊夢は結界を元の状態に戻し、神社の建物の中へと入って行った。
残されたのは茫然とした○○と
「それにしてもなんですか、この低たらくは。せっかくこの私が直々に見送りに来てあげたというのに」
天狗、射命丸文だ。
「いや、勝手に来たんだろうが。俺お前のこと呼んでねえよ」
「そうですねー。誰には話さずに来たんですもんねー。
私は情報収集能力があったから偶然知ることができたからこそ、見送りに来れたわけですし」
「いや、だってさ。外界には帰りたいけど、幻想郷でのんびりしている間に何人も仲が良い奴ができちまって。
皆に総出で見送りなんてされたら帰る気なくなっちまうよ」
「じゃあ、もう残ればいいんじゃないですか?」
「そろそろネットがない環境に耐えられない」
「私達の存在は、ネット以下っていうわけですか?」
「はっはっは。もちろんその通りさ」
「えい☆」
文が○○を思いっきりひっぱたく。
「何すんだ!!」
「乙女心…いや、人間が天狗に舐めた口を、いや、それも関係なく他人に対して存在を否定するレベルのことを言うからです」
ネットが何かについては○○から以前に聞いてなんとなく理解している文が怒るのもしょうがなかった。
「今のは冗談にしてもさ、あっちには家族がいるし、友人がいるし。ネットだけわけってんじゃねえよ、環境が違うってのはいろいろキツイもんがある」
「でも、実質問題どうするんです?今のままじゃ帰れませんよ?」
「とりあえず、俺がどうしてこうなっちまったか調べてみるよ」
「では、お供してあげましょう」
「なんで上から目線なんだよ…正直必要ねえのにな」
ふたりは博麗神社を後にした。
○○は妖力をいつの間にか宿してしまっていた。
それはすなわち、人間から妖怪になりかけているということだ。
外界に帰るにしても帰らないにしても、どうしてこうなってしまっているのかを調べる必要があった。
最悪、狂暴な妖怪に成り果て、人を襲い、喰らった末に退治される。
その調査に文が付いてくると宣言した。○○は文とは幻想郷の住人の中では仲がいい方だ。
たまに酒を飲んだりするし、よく軽口を言い合ったり、口喧嘩する間柄だ。
外来人である○○にも、天狗がすごい存在であると認識している時期もあった。
だから、出会った当初は天狗様呼びで敬語だった。
だが、文との接しているうちにいつの間にかタメ口、呼び捨て、二人称もお前に代わっていた。
今では、うぬぼれることを「天狗になる」というのも納得するほど、特に畏怖も崇める気もない状態になっていた。
「それで、まずどこに行く気です?阿礼乙女のとこですか?よく話に行ってますよね」
「なんで知っているんだ?まぁ、最初はもうちょい遠くに行ってみようかなと思ってる」
「ん?里の守護者のとこですか?」
「うんにゃ。紅魔館の図書館。あそこも何回も利用させてもらってるからな。今回も調べごとさせてくれんだろ」
「なんだって!?」
「なんで素になってるのお前?」
普段は記者というか他人用の口調で会話している文だが、たまに素の口調になることがある。
もう慣れたことだし、場合によっては普段と違って質問した内容をはぐらかさずに答えてくれるので問題はない。
ただ、なにかの拍子に一瞬だけ素に戻るときがあり何がトリガーなのかわからずにいつもビビる。
「いえ、少し驚きまして。妖怪と交友関係あるのは知っていましたが、紅魔館ともお付き合いがあったんですね」
「まぁな。あそこ地味に外界の小説もあるんだよ。香霖堂にでも売ってたのかね。
最近は、何故か俺が読んでた漫画雑誌とかあるし。よく読みに行くんだよ」
「えっ?じゃあ、もう幻想郷永住でいいんじゃないですか?」
「なんでだよ。漫画あるからってそれはねえ。せめて毎週最新号を置いてたら話は別だけど。やっぱりそこそこ古いのしかねえな。
俺が知ってる奴が連載してる頃のがあるだけマシだが」
「外界の漫画ですか。…今度取材させてもらっていいですか?話を聞かせてくださいよ」
「う~ん。俺が好きなのはバトル系だけど、ここの連中、デフォで炎とか光線出すしなー、お前達には楽しめんのか?」
そんな雑談をしている間に紅魔館に到着。
いつもはいない文を同伴者と説明し、図書館に案内してもらう。
そして○○は
パチュリーに事情を話した。
「そう、皆に黙って帰ろうとしたら、体内に妖力があって結界を抜けることができなくて困っているわけね?」
「そうです、パッチェさん」
「私達に黙って帰ろうとしたら無理だったのね?」
「うん?なんで言い直したの今?」
「図書館を利用させてあげた大恩あるこの私に黙って帰ろうとしたわけね?」
「…あのパッチェさん、もしかして怒ってる?」
「もしかしなくても怒こっているわよ?」
パチュリーは○○をもの凄い眼光で睨みつけ、
いつまにか、その背後にいた
小悪魔もにっこりはしているもののパチュリーと同レベルのプレッシャーをはなっていた。
ちなみに普段、希望した本が見つからない時などに小悪魔が探してくれるので図書館を使用させてくれるパチュリー共々お世話になっている。
「これはもう、罰として魔法で私専用の椅子になってもらうしかないわね」
「え…嘘だろ?あ、目がマジだコレ」
「待ってください、パチュリー様!」
「おお、こあ言ってやってくれ」
「専用と仰いましたが、たまには私にも使わせてくださいよ」
「しょうがないわね」
「ちょっと待てや!…ちょ、マジで?こっち来んな!!」
「大丈夫よ。私は所有物は大切にするから。さぁ、○○…」
「助けて天狗様!」
○○は文の後ろに隠れる。
「相変わらず調子のいい人ですね…ちなみにその○○椅子は私も借りたりしていいんですか?」
「おい、寝返る気かてめぇ!」
「嫌よ。なんで私のお気に入りの家具を部外者にかさなきゃいけないのよ?」
「既にお気に入りの家具扱いすんなよ、俺は人間だ!」
「え?人間じゃなくなりかけてるからここに来たんじゃないんですか?」
「うん、こあ。そうなんだけど悲しくなるからそれを言わないで…。
ふたり共、勝手に帰ろうとしたことは謝るよ。ごめん。でも、文にも言ったけど、みんなのことが好きだからこそ、黙って去りたかったんだよ。
見送りなんてされたら帰れなくなる。別れが辛すぎる。下手したら俺泣くぜ?」
「○○さん…」
「わかったわよ。私としたことが冷静さを欠いていたようね。ただし、今回のことは貸よ?」
「ああ、わかった」
とりあえず椅子化の危機は去ったので文の背後から離れる○○。
「と、いうわけで人間の妖怪化関連の資料が欲しんだ」
「別に私としては○○が妖怪化しようが構わないのだけど」
「酷くねパチュリー!?」
「本を読む理性が残っていて、人格が変わってさえいなければ○○が人間だろうと妖怪だろうと関係ないわ」
「そういうもんか…てかそうなっても妖怪になったらここに来て本を読むのはむずかしいぞ?」
「あら、そうなの?」
「妖怪になったら、多分人里で今まで通り仕事をして暮らしていくなんてできないからな。本を読みに来る余裕なんてなくなると思うぜ?」
「そうなったら私が司書として雇ってあげるわよ?」
「いいですねー。私が先輩として手とり足とり教えてあげますよ」
「…考えとくよ。ただ、理性がなくなる可能性も十分ありえるからなー」
「まぁ、本を読みたいっていうなら貸すだけよ。ただ、約束しなさい。
妖力がなくなるのにここの本が役立とうが役立たなかっただろうが、妖力がなくなって外界に帰るときは絶対に私たちに言いなさい」
「ははは。もちろんですよー」
「…行動制限の魔法でもかけておこうかしら?」
「何故信じない!?」
「この期に及んでまだ自分に信用があると思っているんですか?」
文が呆れたように言う。
その後なんとか、特に魔法によるなにかをさせられることなく、小悪魔が集めて来てくれた本を読み始めることができた。
いつも読んでいる以外の本はやはり、○○はこの図書館から見つけ出す自信はない。
「人間の魔物化について載っている本で、○○さんが読める物になります」
「ありがとう。 、こあ。じゃあ早速」
そう言って○○は本を読みだす。
脇には手帳と鉛筆を置く。
「あれ?○○さん、持って帰らないんですか?」
「ここの本は貸し出してはいないから、読むなら図書館の中でらしいよ」
「そうですか」
「てか、お前…お供するんなら手伝えや。ほら、お前はこっちの本な」
そう言ってふたりは本から関連し、役に立つ記述をメモしていった。
パチュリーは○○の向い側に座り本を読んでいたが、その視線はチラチラと○○に向けられていた。
小悪魔も仕事があるはずだが、○○の側にいた。
○○たちは本を読むのに集中して特に気にした様子はない。
これは文が同伴している以外、○○がパチュリーの元に本や漫画を読みに来ているいつもと同じ状況だった。
「こんな所か」
○○はふたりで調べた成果を見ながら体を伸ばした。
人間の妖怪化。その原因についてはいくつもわかった。
吸血鬼に吸血鬼にするという目的で血を吸われる。
妖怪の死肉を喰らい続ける。
特殊な酒を飲む。
特殊な薬を飲む。
妖怪に妖力を注がれ続ける。
種を植え付けられる。
妖怪によって産みなおされる。
etc…
思いのほか色々な方法があることがわかったが、自分がどれに該当するのかがわからなかった。
妖力が体内にあるという○○の状況を見ると妖怪変化への中間地点がないのを候補から外せたぐらいか。
その後は、本日の調査を終了とばかりに、人里へ帰る必要が出てくる時間まで本を読んで過ごした。
文はといえば、せっかくなのでパチュリーに対して図書館のことについて取材を行っていた。
「ん?」
そんな中、少し離れた本棚の陰から小悪魔が手招きをしているのが見えた。
以前あったことのように○○が気に入りそうな本でも見つけてくれたのかと思い、席を立って近づく。
「どうした、こあ?面白い本でもあったか?それとも妖怪化について載ってる本がまだあったか?」
「まぁ、まずこの本を読んで見てくださいよ」
「ん?どれどれ…っておいこあ。この本、言ご…がぁ…?」
本に書かれている言語が、○○の読むことのできるものではないと、その読めもしない文章を見ながら指摘しようとした矢先だった。
眩暈がして視界がかすみ、○○は自身の意識が急速に刈り取られるのを感じた。
目の前の小悪魔が、獲物が罠にかかる瞬間の狩人の様な、狩りを成功させる前の肉食獣のような、それでいてなんとも悪魔らしい笑みを浮かべていることには気が付かなかった。
そして、手に持っている本が光を帯び始め、続いて、その光が○○の手に移って来たその直後。
小悪魔の視線から○○が消えていた。
実は術式的はこの後○○の体が転移するのは予定通りなのだが、まだその転移が起きるには早いはずだった。
「…あれ?」
持っていた人物を失った本が本の一瞬、空中に静止した後、重力に従って落下する。
「どういうことか、説明してくれますか?」
声が聞こえた方向を小悪魔が見ると、途中で本を話したとはいえ、結局意識を失ってしいぐったりしている○○を脇に抱えている文がいた。
「いえ、それよりも○○が意識を失っていますが、これは大丈夫なんでしょうね?」
文が小悪魔を睨みつける。
その鋭い眼光に小悪魔がひるむ脇で、パチュリーが先程まで○○が読んでいた本を拾って内容を確認している。
「大丈夫よ、安心しなさい。術式の準備段階の影響で意識を失っているだけよ」
「ならいいですけど。飼い犬のしつけはしっかりとしてもらいたいものですね」
「後でしっかりとお仕置きはしておくわ。悪いんだけど、彼のこと、家まで送ってもらえるかしら。
多分、今日はもう目を覚ますことはないと思うから」
「言われなくともそのつもりです。じゃあ、失礼しますよ」
文が○○を抱えながら図書館を後にし、小悪魔とパチュリーが残される。
「良かったんですか?パチュリー様。あんなこと言ってましたけど、○○さん、今度こそ何も言わずに外界に帰ってしまうかもしれませんよ」
「まだ早いわ。妖怪になって、長い間ここで暮らしてもらうのが私にとっては一番よ。でも、できれば魔術などで拘束せず、彼の意志で選んで欲しいわ」
「甘いですねー。私は、どんな手を使ってでも今すぐあの人を手に入れるべきだと思いますよ」
「私も、いざって時は強硬手段を取るわよ。○○のことは欲しいもの。愛おしいもの。でも、それとこれとは話は別よね?」
「え?パチュリー様?」
「あの術式…私のことも出し抜こうとしてたわね?小悪魔?」
「あ…あ、その、落ち着いてくださいパチュリー様…」
「天狗にも宣言したし、お仕置きしなければいけないわね?」
「ひいいいいいいい!!」
<続く>
最終更新:2014年07月21日 13:43