「ん…」


目を覚ます。
寝起きはいつもよりやや悪いといったところか。

時刻を確認する。
すでに昼過ぎを回っている。いつもより寝てしまった様だ。

「あれ?昨日いつ寝たっけ?」

○○は昨日ことを思い出そうとする。

妖怪になりかけていて。
文とパチェリーの図書館に行って。
具体的な原因はわからなくて。
小悪魔に呼ばれて本を読んで……。

「ん?その後どうしたっけ?てか、どんな本だったっけ?」

どれだけ思い出そうとしても思い出せなかったので○○は思い出そうとするのをやめた。
腹が減っていて辛いというのもあった。

「昨日の昼から何も食ってないのか…」

博麗神社に行く前、帰る為に辞めた仕事先の同僚達が開いてくれた送別会で食べたのが最後の食事だ。
仕事場に関しては、無断でいなくなったら迷惑だと思い、外界に帰ることを報告していた。
人里の守護者である慧音にも、世話になったということもあり、報告しようとも考えたがやめておいた。
同僚たちに止められ、外界に帰るのをやめようか迷ってしまったのは秘密だ。

「腹減った…」

食料は送別会で使い切った為、家にはない。
こちらの金銭はまだ、残っていたため外食しようと外に出る。
家の玄関の近くに文がいた。


「良く寝てましたね○○」
「文か。待ってたのか?」
「まぁ、そんなところです。今日も調査に行くんでしょう?」
「そうだけど、その前に飯だ飯」
「私もまだなんですよ。一緒に食べますか。良かったら奢りますよ?」
「お、助かるわ。てか、いつになったら帰れるんだろうな。生活費もつかな…」

そういうわけで食事処へ。
食事をとりながら今後の方針を話し合う。
どうやら文は、ことが解決するか、○○が諦めて妖怪になるまで付き合うらしい。

「いや、諦めないからな。どんな妖怪になるかもわからんのに諦めるわけないだろ」
「まぁ、そうでしょうね」
「せめて、龍とかならなー」
「そんな高尚な存在にはならないと思いますよ?」
「じゃあ天狗で妥協するか」
「なんで高尚な存在にならないと言った直後に天狗なんですか?天狗のことなめてます?」
「というわけで、調査だ。今日は阿求のとこで資料を見せてもらう」
「おい、スルーすんな」
「すいませーん、焼き鳥追加で」
「表出ろや人間」

食事をとった後、怒った文に引きづられるようにして食事処を後にする○○。

「ははは」
「何笑ってんのよ」

怒りのせいか素の口調になっている文。

「いや、帰ろうとした昨日は、こうやって文と馬鹿な会話をする日がまた来るとは思わなかったなって」
「私こそ、あなたが黙って帰ろうとするとは思わなかったわ」
「まだ言うか」
「当然よ」
「まぁ、そうだろうな」

そうこうするうちに阿求の屋敷につく。

「着きましたね」
「おう」

その頃には、文の口調は普段の敬語に戻っていた。
○○はまず、屋敷の使用人に阿求へ自身の来訪を伝えてもらう。
しばらくすると玄関口に阿求がパタパタとやって来た。

「○○さん、いらっしゃい」
「今日は体調よさそうだな阿求」
「ええ。今日はどうしたんです?」
「ちょっと資料を見せてほしくて。実はな、俺体内に妖力がたまっていてさ、妖怪になりかけているみたいなんだ」
「ええ!?大丈夫なんですか?…ああ、本当ですね」
「今んとこはなんとか」

帰ろうとしたことは喋らず、資料の内容にかかわる妖怪化のみを話す○○。
阿求は心配そうに、霊夢のように○○の顔を触って確認した。

「それにしても、よくわかりましたね。こうやって、認識しながら調べないと分からないような妖力なのに」
「え…まぁ、たまたまな」

○○がはぐらかそうとした次の瞬間だった。

「聞いてくださいよ。○○ったら知り合いに黙って外界に帰ろうとして、結界に弾かれたんですよ。その時の姿はまぁ、無様でしたね~」
「おいぃ!?文てめぇ!!」

文があっさりとバラした。

「○○さん、どういうことですか?」
「え、いや…これはだな」

目に光を失い、見つめてくる阿求に焦る○○だったが、そのうちその目に涙が溜まっていくことに気付いた。

「なんで…どうしてですか…なんで黙って…せめて、教えていただくぐらい…うわああん!!」

号泣であった。
○○の中で罪悪感がもの凄い勢いで膨らんだ。
パチュリーのように単純に怒ってくれた方が○○には精神的に楽だった。
○○を困らせようという軽い気持ちでバラした文もこれには困惑顔である。

「ちょ…阿求!?」
「うわああああああん!!酷いです…あんまりです…うわあああん!!」
「ごめん!俺が悪かった!!そのえっと…泣き止んでくれよ…機嫌直してくれ…。おい、か、体に障るぞ?」
「うわああああああん!!」
「阿求ー!!ちょ、どうしよう、頼むなんでもするから!!」
「……なんでもですか?…ヒック」

泣き叫ぶを止め、嗚咽を漏らしながら阿求が聞いてくる。

「あ…ああ!まぁ、『帰らないで』とかは本末転倒なんで無理だけど、そういうの以外だったら何でも阿求の言うことを聞くからさ!」
「えっぐ、それでは…私のする質問に、正直に答えてくれる…というのは?」
「OK、OK!答える答える!!」

なんとか泣き止んでもらおうと必死で宥める○○。
阿求の要望も即答で承諾した。

そして阿求と○○、ついでに文は屋敷の中へ。
部屋へ到着するころには、阿求はなんとか完全に泣き止んでいた。顔はまだだいぶ赤かったが。


「では質問させていただきます」
「おう、何でも来い」
「たくさん質問させていただくので覚悟してくださいね」
「覚悟の上だ」
「確認しますが、ちゃんと正直に答えてくださいね」

阿求に対しても信用ないなと苦笑いしながらも○○は答える。
「ああ。以前受けた文の新聞の取材では都合のいい嘘をついたが、これから阿求がする質問にはすべて正直に答えると誓うよ」
「では始めますね」
「ちょっと待ってください。今聞き流すことができない発言があった気がするんですけど」
「では最初の質問です」
「おう」
「…」
「○○さん。お風呂で最初に洗うのはどこですか?」
「ん?…ごめん阿求。もう一回言ってくれる?」
「はい、お風呂で最初にどこを洗いますか?」
「えっと…」

予想外の内容の質問に○○は困惑してしまった。
もしかして黙って帰ろうとしたことを怒った阿求が困らせる為にこんな質問したのではないかとも考えたが。

「…?どうしました、○○さん。まさか、体を洗わずにお湯につかってお終いですか?
それならそう言ってくれればよいですよ」

阿求はメモを手に持ち、好奇心旺盛な子供が不思議な現象を目にし、その正体を知りたがっているような純粋な好奇心にあふれる顔をしていた。
どうやらこの質問は本心から知りたいと思い聞いているようだ。

「そうだな、俺はまずが股間かな…」
「なるほどなるほど」

正直恥ずかしく、妥当に頭からと言おうとも思ったが先程正直に言うと誓っていたので正直に答えた。
阿求はその答えを真剣に書き込んでいる。

「ちなみになんでお前までメモってんの?」
「いえ、せっかくですので。とても自分では恥かしくて聞けない質問ですが、回答を知ることができるならメモっておこうかと」
「需要ないともうだけどな俺の風呂のことなんて…」

隣の文まで○○の回答をメモっていた。
尺然としないものの、考えても仕方がないのでスルーすることにした。

その後も初恋の人の特徴やら春画の所持状況など様々な質問を受けた。

「ズバリ!○○さんの女性の好みは?」
「うん?そうだな」

ここで○○は視線を文に向ける。

「え、○○?」

文は自身の動悸が高まっていくのを感じる。

(も、もしかして…私?)


「裏表がなくて、謙虚で、不特定多数の人が見る文書にはきちんと内容の裏を取れる人かな」
「喧嘩売ってんのか人間、表出ろや!!」
「ここで怒るってことは自覚が…あ、待て待て扇子しまえって、え、おいマジで!?」
「○○さん、それ正直に答えていませんよね?」
「ふざけてすみませんでした」

文と阿求のふたりに睨まれて正座で謝る○○だった。


その後も色々と阿求に質問された○○。質問の数が百を越えたあたりで質問は終わりとなった。

「つ…疲れた…」

質問に答えていただけだが、思いのほか回答を考えたり、恥かしさによる精神的疲労がたまっていた。

「すみません、大丈夫ですか?」
「問題ないよ。それで、次はこちらの用事を消化したいんだけど」
「はい、確か○○さんは妖怪になりかけているんですよね」
「そう。だから阿求んとこの過去の人間が妖怪になった、なりかけた際の記録を見せてほしいんだ」
「わかりました。ついてきてください」


阿求の資料によって過去の妖怪化についての知識を得ることができた。
基本的には妖力の供給を絶ち、体内の妖力が抜けきるのを待つのが人間に戻る方法の様だった。
普通に妖力がなんらかの拍子に溜まってしまっても、基本的には自然に抜けるらしい。
ただ、現在○○が、妖力が抜けている途中なのか、なんらかの原因で体内に溜まってしまっている途中なのかがわからないのが問題だった。

「○○さん、心当たりないんですか?」
「う~ん。妖力が溜まるようなことされたら気付くような気もするんだが…ってもうこんな時間か」

気が付けば、もうすぐ日が沈む時刻となっていた。

「そろそろ帰るか。阿求、今日はありがとうな。おい、文行くぞー」
「えっと、もう帰ってしまうんですか?」
「もうっていうか、だいぶ遅くなってるしな。じゃあ、また」
「○○さん…えっと…あ…がはぁ!!」

突然口から血を吐く阿求。
慌てる○○。

「お、おい阿求!大丈夫か!?」
「すみません、体調が精神状態に左右されることがあるんです。それで寂しくて体調が…がはっ!」
「わかった!今日はここに泊まるから!さびしくないからな!!」
「ありがとう…ござます…」
「た、確かこの屋敷内に主治医いたよな!?今呼んでくるから!だ、誰か!!」

慌ただしく部屋を飛び出していく○○。
対して文は部屋に座ったまま動こうともしない、その表情は呆れ顔だった。

「こんな演技で騙されるのは○○ぐらいですよ?」
「…○○さんを騙せればそれでいいですから」
「でも屋敷にいる医者を呼びに行きましたよ?すぐバレるのでは?」
「屋敷の者も話を合わせてくれますので」
「なるほど…血糊も含めていざという時の為に準備万端ということですか。それではもしかして先程の大泣きも…」
「あれは…お見苦しい所をお見せしました」

そう言うと阿求は赤面して顔を隠す。
どうやらあれはガチだったようだ。

「まぁ、それにしても大泣き時の○○の慌てぶりや今の体調に対する心配を見ていると、羨ましいですね。大切に思われてるというかなんというか。
○○は私に対しては基本馬鹿にしたような態度しか取りませんからね」
「そうですか?私はあなたと○○さんの関係が羨ましいです。
お互いに本当に心を許した相手と冗談を言い合っているようで。仲がいいんだなぁと、嫉妬してしてしまいます」
「そんなもんですかね」
「ええ。時に、射命丸さん。あなたはもうお帰りになってもいいんですよ?
○○さんのお手伝いをしてくれているとのことでしたから屋敷にあげたり、質問中も横にいることにとやかく言いませんでしたが、もうここでの情報収集は終わりましたよね?
あとは○○さんにプライベートでお泊りしていただくだけですので」
「…いいでしょう。私は帰らせてもらいますよ」
「あの…」
「今度は何です?」

庭から飛び立とうとした文を阿求が呼び止める。

「明日からも○○さんお手伝い、よろしくお願いいたします。私は、色々な所に行けないのであまり力になれませんから私の分まで」
「言われなくてもそのつもりです」
「妖怪化して人格が変わってしまったという例もありますし心配です。
ただ、もし○○さんが妖怪化しれ寿命が延びれば、転生後も巡り合える機会があるのではないかと、そう思ってしまってもいます。…あなたはどうなんです?
手伝っているということは心配で、人間のままでいて欲しいのですか?」
「……」

文は特にその問いに対して答えることなく飛び去って行った。
間もなく○○が屋敷の者を引き連れてドタドタと戻って来たので、阿求は寂しさからくる精神的不安定による体調悪化の演技を再開するのだった。


<続く>

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最終更新:2014年07月21日 13:44