あれから半年。
文は自室にて文々。新聞の製作を行っていた。
そんな時、玄関の戸をノックする音が聞こえる。
「誰よ、こんな時に。はいはいーい、今開けますよー…え?」
玄関を開けた先には、文が想いを寄せる、背に黒い羽を持った青年がいた。
文の家の居間で○○は腰を下ろし、黒い羽を所在なげに動かしている。
文はというと、台所にて茶をいれていた。
会話をしようと思えばできないことはない距離だったが、お互いになにも言葉を発することはなかった。ただただ気まずい空気が流れる。
○○が文に天狗にされて半年。こうして顔を合わすのも半年ぶりだった。
なんとか文はこの空気を何とかしようとあたりさわりのない、半年ぶりの会話としてかるいジャブをいれようと話題を探した。
チラチラと○○の方を見やり、ひとつ気になることを発見した。
「○○」
「ん、なんだ?」
「室内なんだから、その羽、しまったらどうです?」
「え?羽?しまうって…」
○○は室内にも関わらず烏天狗が高速で飛翔する際に使う羽を出したままのことを指摘されキョトンとしている。
そして現在羽をしまっている文の背中をジロジロと見てくる。少し間をおいてその眼が驚愕に見開かれる。
「え?この羽しまえんの!?」
「知らなかったんですか!?え?寝るときとか入浴時はどうしてるんです!?」
「この半年邪魔でしょうがなかった!!え?どうやんの?」
文が○○の側に来て背中に回る。そしてその背の羽に手をかける。
「どうするかって……まずこの羽を折りたたんでですね……」
「イダダダ!痛い痛い!!無理だろこれ折りたたむの無理だろコレ!ちょ…おま、待ってくれ」
「大丈夫ですって。馴れれば気持ちよくなりますから」
「そういうもんなの!?」
折りたたんだ羽を体内にしまうことに成功した○○と茶をいれた文が向かい合う。
「てるーかさ、文」
「なんです?」
「お前俺のこと見てるとか言っていた割には羽のこと知らなかったな」
「あれは、入浴中を覗いているとか、そういうのじゃないですよ。てか基本的に家の中は覗いてませんよ?
散歩中とか、仕事中です。それに、椛じゃありませんからいつも見ていることもできません。
いまも新聞をつくっていたからこちらに来ているのも知りませんでしたし。……まさかあなたのほうから来てくれるなんて思いませんでした。
私のことは怒っていて、恨んでいると思ってましたから」
「恨んではいねえよ。でも怒ってはいるな。
正直、もっと早く来ようと思っていたんだが、天狗になったことに対する気持ちの整理とか、お前相手に平常心でまともに話せるようになるほど落ち着くのに時間がかかった」
「そうですか……」
また気まずい空気が流れる。
文は少し、話題を変えようと○○を見つめていて思った、最近の○○の生活について話すことにした。
「人里を追い出されなくてよかったですね。以前していた仕事にも復職できたみたいですし」
「それに関しては、天狗になっても俺の性格が変わらなかったのが大きいのかな。
てか、あいつら、ひ弱な外来人の俺が天狗になって力仕事ができるようになったって喜んでやがるんだぜ?」
「あと……気になったんですが」
この話の流れで、文は気になっていたことを聞くことにした。
「どうして断ったんです?」
「え、何が?」
「3人からの求婚です」
「ああ、あれか」
○○が天狗としての生活を人里で初めて間もなくして
パチュリー・
小悪魔・阿求の3名から求婚を受けた。
「3人とも断ったが、パッチェさんの怒りはやばかったな」
「あのまま連れてかれて監禁されそうでしたね。さすがに助けに行こうかと思いました」
「烏天狗の飛翔能力がなければ自力での逃走はこんなんだったな。てか、天狗に成り立ちの割には俺飛ぶのうまくない?」
「この前木に突っ込んでいたあなたが?」
「う…。やっぱよく見てやがるな」
「それでなんで断ったんです?元は人間でしたから普通の人間が相手がいいんですか?
私の言えた義理ではないのですが、こちらに永住する以上、身を固めた方がいいですよ?」
「えっと…そうだな。理由なんだけどな……」
「はい」
「どうせ結婚するんなら俺のことを天狗にするぐらい好いてくれる奴と夫婦になろうかな、なーんて思ったりしてな」
「え?……それって……私とってことですか?」
「うん。そういうこと」
「だって……私、あんなことをして……怒ってるっていったじゃない」
「怒ってるよ。今でも。覚悟しとけよ?老後まで愚痴ってやるから」
「本当にいいの?」
「ああ、結婚してくれ文」
「うう…」
「文?」
「うわああああああん!!」
「文ぁ!?」
「ごめん、でも…嬉しくて…うわあああん!!」
「えっと…」
○○は困惑してしまったがすぐに文のことを抱きしめてやった。
それでも文が泣き止むまでには、相当な時間を必要とした。
外来人○○は天狗○○となった。
その後は文と結婚し、住処を文の家に移したが、人里の仕事場に毎日飛んでやってきた。
休日にはよく夫婦で人里の中をうろつく姿見られた。
<了>
以下オマケ的な後日談
その1
文「そういえば小悪魔さん。あの時○○にかけようとした術式ってどんなのだったんですか?」
小悪魔「あれですか?私の部屋に転移して腕と足が床と一体化します。ついでに私の許可無しには肺に酸素を送れなくなるというものです」
○○「なにそれ怖い」
その2
文「そういえば○○」
○○「なんだー?」
文「図書館では人間に戻ったら外界に帰る際は言うっていってましたけど、もし人間に戻れたらちゃんと言うつもりはあったんですか?」
○○「まっさかー!やっぱり皆に言って見送りとかされたら気持ち的に帰れなくなるからな。黙って帰る気だったよ」
パチュリー「そーなのかー」
小悪魔「そーなのかー」
阿求「そーなのかー」
○○「え?みんないつのまに?あ、違う、今のは…助けて文……ぎゃああああ!!」
文「いつまでたっても、天狗になっても、○○のそういうところは変わりませんねぇ……」
最終更新:2024年10月25日 22:52