「ねぇ、○○」
「なんだ輝夜?」

いつも通り永遠亭に遊びに来ていた外来人の○○は改まった様子の輝夜に声をかけられた。

「出会った頃にあなたが言っていた夢をもう一度教えてくれない?」
「えっと……」

輝夜に頼まれるが、○○は口をすぐんでしまう。
出会ったころはすんなり言えたが、輝夜のことをよく知ったいまでは、あまり彼女の前では言いたくなかったから。

「私のことは気にしないで言って。私が頼んでいるんだから」
「ああ……そうだな。俺はここ幻想郷でもいいから結婚して、子供作って、孫に囲まれながらベットで天寿を全うしたい。
これ、以前も言ったけど夢なのか?普通な願望な気がするんだけど」
「立派な夢じゃない。そういえば聞いたわよ。人里の娘とお見合いするんですって?結構あなた好みの娘だったじゃない」
「情報はやいな」
「いい話じゃない。結婚して子供をもうけるチャンスよ」
「確かに、あの娘も幻想郷の暮らしになれない俺にいろいろよくしてくれて、まぁ、好きだよ。
でも……俺は、それよりも以前に輝夜、お前のことが……」
「はっきり言うと、私はあなたのことが好きよ?」
「え……」
「あなたが私のことを好いてくれていることも知っている。でも私はあなたと付き合う気も結婚する気もない」
「なんでだ?俺になにか至らない点でもあるか?」
「いいえ。私がダメなのよ。ほら、私は子供を産めないから」
「でも……俺は、お前の方が先に知り合って、先に好きになって、ずっと世話にもなっている……だから」
「言っておくけど、たとえこの縁談をあなたが断ったとしても私はあなたと結婚する気はないわ。
……お願い。大好きなあなたに幸せになってほしいの。だから普通の人と結婚して」
「そうか……悪い」
「悪いと思うんなら、そうね。子供ができたらその子を連れて永遠亭に遊びに来なさい。もちろん、奥さんが許したらだけど」
「ああ。約束する。子供も……孫も連れてく遊びに来るよ」
「じゃあ、私からも約束。あなととその子供たちは私が見守っていって、守っていってあげるわ」


それから4年後。

「痛い痛い痛い!!」
「こら、△△!!女の人の髪をひっぱるんじゃない!!」

永遠亭の庭にて、父親である○○に言われて△△と呼ばれた男の子は輝夜の髪をはなす。

「悪い輝夜、大丈夫か?」
「さ、さすが○○の子、やんちゃ坊主ね」
「それはどういう意味だ」
「それにしても、目元とかあなたそっくりね」
「やっぱりそうなのか?よく言われるんだよ」
「……○○にもこんな可愛らしいころがあったのよね。生命の神秘ね」
「どうせ今の俺は不愛想ですよ」
「そういえば奥さんの体調どう?」
「ああ、永琳さんにもらった薬のお蔭でもう全快だよ。ありがとうな輝夜」
「どういたしまして。それにしても、あなたも老けはじめて来たわね」
「ほっとけ」
「かぐ……や」
「ん?」
「ええ?……ねぇ、○○。今この子、私の名前を言わなかった?」
「ああ、言ってたな」
「やった!やった!!」
「なんでお前、俺が初めてパパと言われた時より喜んでんだよ?」



50年後。


「逝ったわ……」

永遠亭の一室で、○○が息を引き取ったのを確認した永琳は静かに言った。
○○の周りには、彼の子や孫が集まっていた。
その中に混じって輝夜の姿もあった。

「○○……」

子供たち同様に輝夜の目からも大粒の涙が流れていた。

「輝夜さん……」
「△△……」
「父は、あなたに感謝していました。
幻想郷に来た当初に世話になったことはもちろん、重い病気にならずに生きてこれたのもあなたのお蔭だと。あなたのお蔭で幸せな生涯を送れたといっていました」
「だったら、良かったわ……」
「ねぇ、パパー」
「□□……」

△△の娘である□□はまだ幼く現状を理解できていなかった。

「なんでパパもかぐやも泣いているの?じーじはなんで起きないの?」

そう言われて嗚咽を漏らしながら泣き崩れてしまい答えられない△△のかわりに輝夜はそっと彼女を抱きしめながら答える。

「あなたのお爺ちゃんは、○○はね。遠くに旅立ったのよ。体はここにあるけど、魂が、心が遠くに行ったの」
「わたし、じーじに会いたい。わたしもいきたい」
「まだ駄目よ。まだその時じゃないわ。いつか、その時が来て会えるから……今はこちら側で幸せになりなさい」
「わかった。……かぐやもいつかじーじに会いに行くの?」
「ううん。私は会いに行けないの……そのかわりあなたたちのことをずっと守っていくから。そう○○と約束したの」
「よくわからない」

そう言う□□を輝夜は痛くならないようにより一層強く抱きしめた。





20年後。

□□は結婚して出産した。
産む前からかなりのリスクがあったことはわかっていた。
それでも産みたいといった□□の意思を尊重し、永遠亭の総力をあげてサポートしたのだが……
出産後にすぐ気を失った□□は意識を取り戻すと同時に永琳に聞いた。

「永琳先生……私の子は……」
「……生まれた直後は息があったのだけど、少したったら突然……」
「そう……ですか。抱きたかったな。……あの、父さんと輝夜さんは?姿が見えませんが……」
「隣の部屋にいるわ。はぁ、正直な話、恥ずかしいことなんだけど、□□やあなたの旦那さんよりも輝夜の方が取り乱しているのよね。名づけ親だったことが大きかったのかしら?」

隣の部屋には△△と輝夜がいた。

「輝夜さん、あなたのせいじゃない。誰にもどうすることはできませんでしたよ」
「でも……私は○○と約束したの!○○の子供たちを守るって……でもあの子は、**は死んでしまった」

とはお腹の子の名付け親になってくれと△△と□□頼まれて輝夜が名づけた名前だった。


「リスクがあることを承知で産むことにしたのは□□です。あなたが責任を感じることはないです。
それに、本来は母体も危険だったのにも関わらず、□□が無事だったのは永遠亭の、輝夜さんのお蔭ですよ」
「でも守れなかった。何もできなかった。死んじゃった……約束にしたのに……○○……
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

△△が何を言っても輝夜はこの調子だった。



さらに月日は流れ15年後。


輝夜は永遠亭の敷地内にある墓の前にいた。
この墓には人里に住むある一族の墓だった。
墓ができてからそこまでたっていないので中に眠る数はまだ少ないが。
その一族は病死とは無縁だったから、それも数がいまだ少ないことに拍車をかけていた。

「あ、いたいた。やっぱりここにいたよ、かぐ姉」
「あら、××。いらっしゃい。遊びに来たの?」
「ああ、うん。そんなとこ」
「待っててね。今、お菓子を準備させるから」
「いや、今日はいいよ」
「そう……そういえば今日だったわね、**の命日は」
「あ……」

輝夜の隣で墓に手を合わせてお祈りをしたら輝夜が突然そんなことを言った。
××と呼ばれた彼は、内心で舌打ちをする。
ぶっちゃけ意識していなかった。というか忘れていた。偶然だった。
だが、自分の登場が彼女の嫌な記憶を思い出させてしまった。
××はもう帰ろうとも思ったが、あることを決心してここに来ていたため、ここで帰ったら決心が揺らいでそのままになりそうだったから残ることにした。

「**のこと……あなたのお姉さんのこと……ごめんなさいね」
「またその話?前にも言ったけどかぐ姉の責任じゃないんだろ?それどころか母さんは無事だったのは永遠亭のお蔭だっていうし。
そもそも、悪いと思ってたとしてもさ。俺にしてみたら俺が生まれる前に、生まれてすぐ死んでしまった姉のことを言われてもピンとこないっての」
「そうね……あなたのお爺さん、△△は元気?」
「一応ねー。若干ボケて来たけど」
「あなたは最近どう?ちゃんと勉強してる?」
「あのね、俺のこと何歳だと思ってんの?かぐ姉。寺子屋なんてとっくに卒業してるから」
「あら、○○は20歳過ぎぐらいまで学校に行ってたて言ってたわよ」
「その曾爺さんの話って外界の話だろ?」
「まぁ、そうなんだけど」
「……なぁ、かぐ姉」
「なに?」
「あのさ……永遠亭の薬や治療をタダで提供してくれるのは嬉しいよ。
でも、もうそれぐらいでいいと思うんだ。俺たちのことをそこまで気にしなくってもさ。必要以上に気負わなくても。
それに、そろそろ次の恋をしても、曾爺さんは許してくれると思うよ?
なんかさ、呪いにかかっている人みたいでさ、見てられないんだよ」
「いいのよ。私が自分で決めたことだから。あなたの一族を見守っていくことは。
あと、私の愛する男は後にも先にも○○だけ。今も愛しているもの。こちらは、たとえ何があっても変わらないわ。
だから、ごめんなさいね。あなたの想いには答えられない。あなたと恋仲にはなれないわ、××」
「な!?ちょ……何言って……えっと……」
「バレてないと思った?わかりやすすぎるのよ。思春期に男の子はまったく。今日も、実は告白しようとか思ってきたんじゃないの?
そういえば○○の私への好意もわかりやすかったわね。遺伝かしら?」
「よくわかるね、かぐ姉には敵わないよ」
「あなたがお菓子いらないとか、珍しいからねー。……こんな下手なフリ方しかできなくてごめんなさい。
あなたは、普通の人と結婚して、普通に子供を授かって、普通に幸せに暮らしなさい。
もちろん、どこぞの馬の骨ともわからないような娘との結婚は認めないわよ?」
「父さんも、母さんと結婚する時に爺さんに挨拶に行くのよりも、かぐ姉に挨拶しに行くときの方が緊張したって言ってたわ。
それにしても、やっぱり理解できないな。かぐ姉って曾爺さんのことが好きだったんだろ?なのに曾婆さんに譲るとか理解できないよ」
「理解しなくていいのよ。私のこの考えなんて理解しなくてね……あなたは自分の幸せのことを考えてなさい」
「今日はもう帰ろうかな」
「そう……本当にごめんね。下手なフリ方しかできなくて」
「やめてよ、何回も謝られると悲しくなる」
「わかったわ。……家まで送るわ」
「いや、それは……」

フラれた女性にフラれた当日に家まで送られて、耐えられるハートを××はしていなかった。
それを輝夜は××の表情から気付く。

「ごめんさい、気が回らなくて。待ってて、今鈴仙を連れてくるから。帰り道に慰めてもらって」
「今日は一人で帰りたいかな……」
「わかった。だったら、退魔の札を持っていきなさい。3枚ぐらい渡すから」
「前もらったのがまだ10枚もあるから大丈夫だよ。これだけあればもうそこら辺の妖怪は寄ってこないって」
「そう。じゃあ、またね。次はいつ来るの?」
「うん。またねかぐ姉。次は……この時期だと、もう次は永遠亭での新年会だね。親戚皆で遊びに来るよ」
「そうだったわね。永琳も鈴仙もてゐも、もちろん私も。みんなが来るのも楽しみにしてるわ」


永遠亭から帰っていく××を見送った後、輝夜は××の言葉を思い出す。

彼は自分が行動を呪いのようだと表現していたけれど、自分はそうは思わなかった。
いつでもやめられることを自分の意志で続けているのだから。


子供産めない蓬莱人の自分にできる○○の為の最良の行動は、こうやって彼と彼の子孫を見守っていくことだと思うから。
永久に彼の子孫たちを守っていくと決めたから。
永遠亭に遊びに来たのを出迎えて、一日中馬鹿な会話をしていたあの頃から愛し続けている○○の為に。





自分でもわかり辛くなったので補足

○○…外来人。輝夜とは相思相愛だった。
△△…○○の息子。
□□…△△の娘。○○の孫。

…□□の娘。○○の曾孫。輝夜が名付け親。生まれて間もなく亡くなる。

××…□□の息子。**の弟。○○の曾孫。輝夜のことが好き。

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最終更新:2024年05月21日 20:30