※流血表現注意
博麗神社の宴会より数日後。
博麗霊夢は紅魔館の新人執事だという○○のことが気になっていた。
正直、男性とあんな普通に話したのはいつが最後だったか。
別に友人が皆無というわけではないが、霊夢だってたまには
魔理沙などの少女だけではなく男性とお喋りをしたくはなる。
だが基本的に妖怪のたまり場になっている博麗神社に参拝客はこない。
人里に買い物などに行っても妖怪以上に力を持っている霊夢と必要以上に関わろうとするものはいない。
慧音のように長年関係を持ってきたのなら別なのだろうが、その関係を持つためのきっかけを作れないでいた。
そんな中、現れた○○。
片づけを手伝ってくれ、共に茶を飲みながらこちらの質問に答えてくれた。
レミリア達との関係から見ても力を持つものと接することには馴れているようだ。
「どうも霊夢さん」
「うわぁ!?」
○○のことを考えながら神社内の掃除をしていた霊夢だったが、その○○に声をかけられて心臓が飛び出る思いだった。
○○は10円玉をお賽銭にして参拝をすませると霊夢の元にやって来て持っていた包みを渡してきた。
「あ、これつまらないものですが良かったら」
霊夢が確認してみるとそれは和菓子の様だった。
「なによこれ」
「先日とその前回の宴会にてお嬢様がご迷惑をおかけしたみたいですので。
あと、普段からよくお邪魔させてもらっているみたいですので」
幼少の頃、お世話になった人にはきちんと礼をするように親から言われていた○○は先日の宴会の迎えの指示を受けた際に博麗神社の場所を知ったので、後日に菓子でも持って挨拶しようと思っていた。
「さすがの咲夜さんもこういうことはしなさそうですし」
「そうね。咲夜どころか、宴会で騒ぎに来てたり異変の原因を起こした連中は誰もこういうことをしてくれなかったわ。
ねぇ、せっかくだからお茶でも飲んでいきなさいよ」
「せっかくなのでいただきます」
宴会の日の時の様に縁側に座って茶を飲むふたり。
○○の持ってきた茶菓子はすぐに○○に振る舞われていた。
「いやぁ、日本人はこういうところの方が落ち着きますよ。
紅魔館はなんというか、まさにゲームとか漫画に出てくるっていう感じで悪くはないんですが……」
「目にチカチカくるのよね」
「そうなんですよね。無駄に赤いから」
「ねぇ、○○」
「なんですか、霊夢さん」
「霊夢でいいわ。……ねぇ、話聞かせてくれない?」
「なんのです?外界の話ですか?」
「ううん、あなたの話」
「はぁ……」
○○は霊夢に自分についていろいろ話した。
ちなみに本日○○は休日である。もともと問題なく機能していた紅魔館に○○の命乞いとレミリアの気まぐれによって執事となった為、○○が週に二日ぐらい休んでも特に問題はなかった。
○○は休日の日には一日中読書することもあれば、フランの遊び相手になることもあった。
だが基本的にはもらった給料を持って実際に何かを毎回買うかどうかは別にして人里なり香霖堂に買い物に行くのが常だ。
今日は最初から霊夢に挨拶をしようと人里で和菓子を買って博麗神社に直行した。
そういえば、命乞いからの雑用としての扱いだった割には結構早い段階で称号が執事になり、給料をもらえるようになったなぁと○○はふと思った。
「じゃあ、私はこれで」
「あら……もう行くの?もっと、ゆっくりしていけばいいのに」
「いえ、紅魔館のみんなが心配しますので」
以前、暗くなるまでに紅魔館に帰れないことがあったが美鈴の横で心配した
パチュリーが待ってくれていたことがあった。
それが原因でその後パチュリーは体調を崩してしまっていた。それ以後○○は、紅魔館のみんなが心配するよりも前に帰ることにしていた。
「そう、でも……また一息つきたくなったらいつでも来ていいわ。お茶ぐらい出すわよ」
「わかりました、霊夢さ…霊夢。また遊びに来ます」
そういえば呼び捨てでいいと言われたなと、呼び方を直しつつ挨拶した○○は博麗神社を後にした。
「○○……」
残された霊夢は、切ない思いに襲われると共に、また○○が来るということに期待を膨らませていた。
○○はまっすぐ紅魔館に帰ろうと歩いていた。
その道は、普段あまり人が通らない道だった。
紅魔館から人里に、人里から紅魔館に用があるような者が通る道。
しかも、そういった者は基本力を持つもので飛んでいく道だった。
そんな人通りの少ない人の気配がないような道でも、それでも、遭遇する可能性は低いと聞いていた。
スペルカードルールと関係なく、人を喰らうために襲う低級な妖怪と遭遇するとは。
いるとしたらもっと、妖怪の山などのきちんとしたテリトリーの中だと聞いていた。
それでも、人食いの下級妖怪と遭遇してしまった○○。
命の危機を感じたたが、○○はパニックにはならなかった。
今日は執事服ではなく私服で外出しているが、そんな恰好とは関係なく○○が常日頃身に着けているアクセサリーなどはレミリアとパチュリーからもらった物。
それには、レミリアの血がしみついていたり、パチュリーの魔力が込められている。
この者は紅魔館の一員だと匂いに、魔力に敏感な妖怪に主張するように。
もっと、極端に妖怪へのメッセージを表現するなら、強力な力を持つ吸血鬼と魔女の所有物だと。
それに手を出すというのなら紅魔館の全勢力を持って報復すると。
この妖怪もきちんとそのメッセージに気付き○○から離れていった……。
その日の夕食の場で、そういえばと思い出し、○○は帰り道に妖怪遭遇したことを報告した。
何か危険な目に合ったら報告するようにと言われていたのだ。
ちなみに門番の美鈴は欠席中。
「あら、大丈夫だったの○○?」
「はい、お嬢様とパチュリー様の渡してくださったアイテムのお蔭で」
「万が一の為と渡していたけれど、遭遇するときはするものね」
怪我をしなかったと聞いて安心しているレミリア。
だが、パチュリーは不満顔だ。
「前からいってるけれど、○○は外出禁止でいいんじゃないかしら?」
「えっ、パチュリー様それは」
「パチェ、それはさすがに酷いんじゃないかし……ら?」
「お嬢様?なんで語尾が自信なさげになっているんですか?」
「だってねぇ……」
パチュリーはジト目で○○を睨んでくる。
「今回遭遇したのが、後々の報復を恐れるだけの理性がある下級妖怪だからよかったものの、そんなことすら考えもしない程の下級妖怪だったらどうする気だったのよ」
「そのレベルの下級妖怪って普通の人間でも武道なり剣術なりを修めていればなんとかなるじゃない」
「でも○○よ?」
「「「「あ~~~~」」」」
「ちょ、みんな!?」
食事の席にいるレミリア・咲夜・フラン・
小悪魔がパチュリーの言葉に納得した様にうなづく。
一息ついてレミリアが紅魔館の主としての顔つきになり、○○に声をかけてくる。
「……○○。これは主としての命令よ。護身術を修めなさい」
「わ、わかりました」
「じゃあ、明日から開始しなさい」
「えっ?明日は貴重な休日なんですけど」
「どうせ仕事の日も休憩時間・自由時間が多いんだから、二日ある休日の一つを修練の日にあてなさい」
「……わかりました」
正直レミリアにとっても、特に悪夢を見てから、○○が紅魔館の外に外出するのには心配があった。
○○自身が以前言っていたが、○○は武道どころか喧嘩すら外界にいたころからまともにしたことがない。
畑仕事などの力仕事もあまりしないので筋力も人里の男たちよりもないのである。
だが、だからといって紅魔館に閉じ込めてしまうというのも忍びなかった。
パチュリーは極力○○を外に出したくないようで、博麗神社に迎えに行かせたことで少し口論してしまったが。
とにかく幻想郷の中では一般人の中でもひ弱といえる○○が休日にフラフラ外出するのは不安であった。
もちろん、最低限の護身として自身の血がついたものを肌身離さず持つように言っているので下級妖怪に遭遇しても大丈夫だと思っていたが。
パチュリーの言う通り、紅魔館の住人だろうと襲う奴もいるかもしれない……。
なによりも、悪夢以来今の対策のままでは不安になってきているのも事実だった。
側から消えてほしくない、だけども○○のことを思うと紅魔館に閉じ込めるのも。
だから、護身術を修めさせるということを思いついた次の瞬間には実行の命を出していた。
翌日、美鈴は今日も元気に立ったまま門の前で寝ていた。
その美鈴の頭にナイフが突き刺さる。
「ぎゃあああああ!?なに?敵襲!?」
「門番がなにサボっているのよ美鈴」
「咲夜さん、酷いですよ!いきなりナイフだなんて」
「門番が寝ているのがいけないのよ」
「本当にすぐナイフを投げるんですから……ってあれ?○○さんじゃないですか!なんかぐったりしてません?」
咲夜の後ろには、やけにぐったりとした○○が付いてきていた。
「どうかしました?」
「実はね、昨日の夕食時に○○に護身術を習得させるって話になったのよ。それで、まずは妖精メイド達に相手してもらおうと思ったんだけど……」
少し時間がたって咲夜が様子を見に行くと、目的を忘れた妖精メイド達が○○で遊んでいる現場だった。
具体的にいうとすっぽんぽんで宙づりにされていた。
なんとか咲夜に助けてもらったが、はいていたパンツは行方不明になった。
「あはは。駄目ですよ咲夜さん。こういうのはまず弱い相手を宛がえばいいというわけじゃないですから」
「やっぱり詳しいわね。と、いうわけであなたに一任したいのよ美鈴。私はつきっきりで相手するわけにもいかないし。
門の前で稽古をつけていれば立ったまま寝てるよりは起きてる分門番の意味があるでしょう」
「酷いですよ咲夜さん~。まぁ、○○さんのことは私にお任せください!」
「任せたわね」
咲夜が屋敷に入っていくのを見送った○○は内心ほっとしていた。
もしかして咲夜が稽古をつけてくれるのではないかと心配していたのだ。
基本的に厳しい咲夜に護身術の稽古をつけてもらった場合、ボロボロになる気がしたのだ。
その点、美鈴は違う。よく気軽な会話をする相手だし、お互い咲夜が厳しいと愚痴を言い合った仲だ。
実は紅魔館の住民の中で一番初めに恐怖の感情を持たなくなったのは美鈴だった。
「よし、じゃあよろしく頼むよ美鈴!」
いつも通りに声をかけた○○だったが……
「○○さん、いや○○!なんですかその口の利き方は!」
「え?」
「私はあなたの師匠ですよ!師匠と呼びなさい!!」
「え?美鈴?」
「あなたに格闘術を叩き込んであげます。やるからには、ふざけずに、きっちりとしごきますよ。返事は!?」
「あ、これあかんやつや」
翌日。
いつもの時間に起きてこなかった○○の様子を見に来た咲夜に○○はベットの中から言った。
「咲夜さん、これ2日ある休みの片方は休憩にあてなきゃ体持たないです……」
「じゃあ、来週からはそうするのね。じゃあ、今日は仕事の日だから、これからお嬢様の部屋の掃除に行ってね」
「鬼ですかあなたは」
「口答えする気?」
「すみません、わかりました、ナイフしまってください」
それから2か月が経過した。
その日はここ2か月、毎週末の最初の方の休日に続けてきた美鈴との稽古は行われなかった。
理由としてはまず、本を借りに来た白黒魔法使いとの弾幕ごっこで美鈴が疲弊したというのが一つ。
そして、もうひとつはここ2か月は稽古し翌日は爆睡というサイクルの○○だったが、たまには2日間完全な自由の日があってもいいだろうという話になったのだった。
それなりに稽古の成果が出ているのも大きかったかもしれない。1日ぐらい外出しても今なら以前よりは安心できると。
最近は実践的な試合形式で美鈴と稽古を行っている。試合形式で戦えるほどには武道が身についていたのだ。
美鈴は宣言通りスパルタだった。
試合形式の稽古も、もちろん手加減をしてくれてはいたが、隙を見せてしまった場合はなかなかに重い一撃を撃ち込まれた。
そのせいで体中に痣ができていたが、○○は特に気にならなかった。
そもそも○○的には、やるからには真剣にやってはいたが、元々お守りのアイテムだけで十分だったのだ。
ただ、レミリアから命令があったことと皆が安心するだろうということで稽古を受けていた。
まぁ、今では自分が強くなっていく実感がありかなりのめりこんでいたが。
それゆえに体にできた痣も厳しい、効果のある稽古をしている証拠だと思っていたのだ。
とにもかくにも。
久々の稽古でも体力回復でもない休暇である。
「なんか入荷してるかな」
人里なり香霖堂なりで久々の買い物でもしようかと、○○はまずは人里に向かった。
レミリアは自室で咲夜と共にいた。
「○○、だいぶ強くなったわね」
「もとが弱すぎたためにそう感じるだけですよ」
「相変わらず○○には厳しいわね咲夜は」
「妖精メイドに弄ばれていた低たらくを見てしまってますから」
「ちなみに弾幕は撃てるようになりそうかしら?」
「そちらのほうは無理そうですね。このまま美鈴のもとで20年30年修業を続けてたらできるようになるかもしれませんが」
「そう。まぁ、人里に外出させるだけなら、もう心配はなさそうね……」
以前見た悪夢は、未だにレミリアの中で忘れられないものとなっていたが。
今の○○なら、そこまで気にすることはないと思えるほどには安心できていた。
「明日も○○は休日だけど、午後にお茶の相手はしてもらいたいわ。そう伝えておいて」
「かしこまりました、お嬢様」
ここ最近博麗霊夢の気分はよくなかった。
ひょんなことから縁を持った男の人。普通に会話をしてくれる男性。
気づいたら気にしていた彼と2か月もあっていない。
2回しか話したことがないはずなのに、あったばかりのはずなのに、まったく会えないくなったことが気になって仕方がなかった。
また遊びに来るといってくれたのに。
……相手からしたら社交辞令的な別れの挨拶だったのだろうか。
ただ、人里にちょいちょい行ってみたが、彼の姿を見ることはなかった。
彼の話だと週末はよく意味もなく人里にきたりしているらしいのだが。
避けられているのだろうか?でも何故?私が力を持つ人間だから?でもあの○○が?レミリアや咲夜とあんな親しげに話していたのに?
○○…○○、○○…!!
会えないでいるうちに霊夢の中で○○の存在が膨れ上がっていた。
今日もいないだろうなと思いつつも人里へ向かってみる。
自分を避けたりする連中が多いからあまり行きたくはないが○○が来ているかもしれない。
最近はそのまま紅魔館に行こうかとも考えてしまっている。でもレミリアが出迎えるだけで○○と話す時間は取れないだろう。
そんな感じで悶々としながら人里についた霊夢だったが、前方に○○を発見することができた。
○○は人里でフラフラと歩いていた。
「○○…!」
すると声をかけられたことに気付いた。
誰だろうと振り返るとそこにいたのは霊夢だった。
「あ、霊夢さん。どうも」
「霊夢でいいって言ったでしょ」
「ああ、そういえばそうでした」
「……久しぶりね。人里で見かけることすらなかった」
「そうですね。最近は忙しくて人里の方にもあまり行かないですよ」
「……また来てくれるって言ったのに」
「ああ……」
失念していたなぁと○○は思った。
そう言った日の夕食時に護衛術を学ぶという話になりそれから休日は美鈴と稽古をしていた為、その機会もなく2か月のうちに忘れてしまっていた。
霊夢に言われてやっと思い出した○○は罰の悪そうな顔になってしまう。
「じゃあ、これから覗っても?」
「……もういいわよ」
本当は来て欲しかったが、忘れていたらしい○○の反応を見て、霊夢は拗ねた子供のように自身の望んでいないほうに答えてしまった。
と、ここで霊夢はあることに気付く。
「ねぇ、その痣どうしたの?もしかして
フランドールに?」
「あ、これですか。違いますよ、フランちゃんは……いや、冷静に考えたら一個ぐらいフランちゃんの突進な気もしますが……。
これは基本的に美鈴との修練でできた怪我ですね」
「修練?」
「ええ。俺自身は不要な気もするんですが、お嬢様の命令でして。まぁ、最近は俺としましても……あれ、霊夢さん?」
「ごめんさい、もう帰るわ。今日は本当に来なくていいから」
「はぁ……」
突然帰っていく霊夢を見送りながら○○は首をかしげた。
なにか、依然あった時と霊夢の雰囲気が違うような気がしたのだ。
2か月の間になにかあったのだろうか?
特に帰る直前のその目は、あいてが力を持つものということと関係なくゾッとするものがあった気がした。
深夜。
霊夢は一睡もできなかった。
日中に見た○○の痣が気になってしょうがなかった。
自分と親しげに色々と話してくれた○○の体の痣が。
本人はああ言ってはいたが虐待されているのではないか?
最近人里にこなかったのは、博麗神社にあれ以来きてくれなかったのは外出しないことを強制されているからではないか?
あの、自分とも話してくれる○○という男性は紅魔館でも幸せになれるのか。
吸血鬼ではなく人間であり、同じ歩幅で人生をあるける自分といる方が幸せではないのか。
そういった考えが次から次へと思い浮かぶのだった……。
翌日。
週末の2連休二日目。
○○はそれなりに早く目を覚ました。
稽古前のサイクルでは休日はいつも正午近くまで寝るのだがこの日は早めに目が覚めてしまった。
遠く、ロビーの方から凄まじい音が聞こえてくる。
この物音で起きてしまったらしい。
レミリアとフランが姉妹喧嘩の弾幕ごっこでもしているのだろうか?
以前○○が声をかけたことですぐに収まって咲夜に助かったと言われたことがあったので様子だけでも見に行こうと騒ぎのする方に向かった。
現場は紅魔館のロビーだった。
「え……?」
そこでは咲夜とパチュリー、さらには小悪魔が血だらけで倒れていた。
そしてレミリアとフランが戦闘中。
だが、しかし姉妹喧嘩をしているというわけではなかった。
この姉妹はともに1人の相手と敵対しているのだった。
博麗霊夢と。
ロビーについてすぐこの光景を見て、何が起こっているのかわからず硬直してしまった。
昨晩の間にレミリアが何か異変を起こしたんだとしても、異変解決に博麗の巫女がきた。
そんな雰囲気とは思えなかった。
「○○?」
ここで、フランが○○がロビーに来たことに気付く。
「○○!」
フランはすぐに○○の元に向かおうとした。
○○のもとに駆け付けることを第一に。
だから、相対していた敵への注意がそれた。
そんな隙を見逃す博麗の巫女ではなかった。
フランが○○の元へたどり着く途中で霊夢によって放たれた弾幕で吹き飛ばされた。
「フランちゃん!!」
○○はこの状況と目の前でフランが吹き飛ばされて床に転がったことで軽いパニック状態になった。
そんな○○にレミリアが霊夢への注意を向けながらもジリジリと近づいてきた。
近づきながらも○○と霊夢の直線状に立つ。
「お嬢様……これは一体!?」
「いいから、ここから離れなさい」
「でも、フランちゃんや咲夜さんが……みんな血が出てる……」
パニック状態の○○はレミリアの指示に従えずにいた。
そもそも足が震えてうまく走れる気もしなかった。
レミリアはなんとか説得したがったが、霊夢の相手をしながら他人を説き伏せている余裕はなかった。
「○○……」
パニック状態だった○○は霊夢に声をかけられてそちらを振り向く。
「霊夢?なんでこんな……」
「待っててね今助け出すから」
「え?何を言って?」
霊夢の発言はさらに○○を混乱させた。
霊夢はこんな状況にもかかわらず○○に笑いかけてきた。
そんな○○に背を向け、霊夢と対峙しながらレミリアが言う。
「○○。霊夢の言うことは気にしない方がいいわ。あきらかに今のあいつはおかしいから。
ただ、あなた自身に危害を加える気はないみたいね。動けないんならせめてじっとしてなさい。
変にウロチョロしたら流れ弾を喰らうわよ」
そういうとレミリアは霊夢との戦闘を再開した。
その戦闘は雰囲気だけではなく明らかに○○の知っている弾幕ごっことは違っていた。
レミリアとフランの姉妹喧嘩の酷い時でさえここまでではない。
まるで死闘だった。
そして勝者は霊夢だった。
床に倒れたレミリアにさらに霊夢が近づく。
「レミリア、あなたがここの主よね。
つまり○○を縛っている元凶。あなたがいる限り○○は幸せになれないのよ。
助け出すの。もう怪我なんかさせない。だから消す」
そう言いいながら、近づきながら、針を取り出す霊夢。
ここで○○はレミリアを庇うようにしてその間に立つ。
「○○?なんで?そいつが元凶なのよ?
レミリアが消えればあなたは解放されるよ?」
場と、霊夢の言動でパニックだった○○、恐怖もあったがそれ以上に冷静さを欠く原因となる感情が湧きあがり始めていた。
「霊夢!なんでこんなことをするんだよ?」
「なんでって……あなたのためよ。助けに来たのよ」
「意味わかんねぇよ!俺を助けるってなんだよ!?そんな必要ねぇんだよ!」
「え……○○?」
霊夢の顔が青ざめていく。
○○は怒りの感情が湧きあがるのを感じた。
「ふざけんな!俺の家族を傷つけておいて何を意味のわからねえこと言ってんだよ!!」
倒れているレミリア・フラン・パチュリー・咲夜・小悪魔。
それに状況的に門の前で美鈴も倒れているだろう。
妖精メイドも何人かやられているかもしれない。
そのことを思うと、○○は後先考えずに怒鳴っていた!!
「○○……だって、ここで働いていたのは無理やりだったんでしょ!?」
「最初はな!!
だが、外界の既に両親が亡くなっている俺にとっては今では紅魔館のみんなが唯一の家族なんだよ!!
だからみんなを傷つけたお前を許さない!!出てけよ!二度と顔を見せるな!!」
そう○○が叫んだ直後、○○は吹き飛んだ。
胴体に、腹に凄まじい衝撃を受けたと認識する。
直後に背中に衝撃。吹き飛んだ先の床に激突したらしい。
ここで○○は、霊夢の弾幕を喰らったのだと理解した。
たったひとつの弾だったが、それだけで直前で無傷で、起きたばかりで体力のあった○○は指ひとつ動かせなくなった。
そんな○○に追い打ちとして針が刺さる。
同時に霊夢の叫び声が降りかかる。
「なんで?なんでそんなこと言うの?」
なんで前みたいに笑ってくれないの?楽しそうに話しかけてくれないの?
私あなたのことを助けに来たんだよ?なんでそんなこと言うの?なんで?」
言いながら、前進しながら、針を投げつけてくる。
○○の体から悲鳴ととみに血が噴き出る。
「なんでなんでなんでなんで!?」
叫びながら針を投げ続けていた霊夢だったが、突然針を投げるのをやめ、黙る。
そして少しの沈黙の後に静かに口をひらく。
「もういい。そんなこと言う○○なんていらない……」
言うとともに、強力な弾幕を放とうとする。
だが、狂乱状態でさらに弾幕に集中していた霊夢は、死力を振り絞って背後から襲い掛かるレミリアに気付かなかった。
吸血鬼渾身の拳が霊夢を殴り飛ばし、ロビーの壁にたたきつける。
壁から床に落ちた霊夢はピクリとも動かなかった。
「はぁ…はぁ…」
今すぐレミリアは○○の元に駆け寄りたかったが、霊夢から目を離すわけにはいかなかった。
案の定というか、霊夢の周りに変化が起こった。
倒れている霊夢の横にスキマが開き、八雲紫が現れた。
八雲紫。
幻想郷の管理者である。
博麗大結界を管理する博麗の巫女と異変を起こしたこともある紅魔館。
どちらの味方かと言えば博麗の巫女のはずだ。
「霊夢の為に……今度はあんたが○○に手を出す気?
そういうつもりなら私が相手になるわよ?」
「無理はしない方がいいわ。あなももう限界でしょうに。その状態で私の相手が務まるとでも?
……安心しなさい。私はこの件に関わるつもりはない。
霊夢が勝って心の拠り所を手にするならそれで良し。
霊夢が負けたのなら回収し、慧音に頼んで霊夢の歴史から彼を抹消する。それだけよ」
「そう……だったら、さっさと霊夢を連れて消えなさい」
「わかったわ。それでは、ご機嫌よう」
そういうと紫は霊夢を抱きかかえスキマの中に消えたのだった。
<続く>
最終更新:2014年07月21日 14:07