朝。

○○は目を覚ましたが、完全に寝ぼけていた。
自身が包帯だらけなことも気付かずに考える。

(あれ?今日って仕事の日か?)

確か一昨日が休日1日目で昨日が休日2日目だったはず。
ということは、本日は仕事をする日なわけだが……。

(今何時だ?)

本日はまだ鳴った記憶のない目覚まし時計を確認すると既に11時だった。
完全に遅刻である。

「うわぁぁぁぁ!?やばい、咲夜さんに殺される!!」

1秒でも早く咲夜の元に行こうと急いで執事服に着替えようと立ち上がるが……

「いだだだだ!?なんだこれ!?」

立ち上がった瞬間、全身に痛みが走る。
結果として立っていられなくなった○○は床に倒れ痛みに悶絶することになった。

「○○?起きたの」

○○の悲鳴を聞きつけた咲夜が部屋に入ってくる。

「咲夜さん!!すぐに着替えますのでナイフだけは!ナイフだけはぁ!!」
「……あなたは私のことをなんだと思ってるの?怪我人に無理やり仕事をさせたりしないわ」
「怪我?」
「もしかして覚えていないの?」

ここで始めて○○は現状を冷静に分析することができた。

「そっか、俺、霊夢に……そうだ、お嬢様は?」
「大丈夫よ。安心しなさい。3日経った今ではもう傷は完全に塞がったようだから」
「3日?」
「あなた、3日間眠り続けていたのよ。
まぁ、パチュリー様が魔術で治療してくれなかったら命が危ない状況だったから、これでも早い方かしら」

美鈴との修練の成果ね。
と、咲夜は最後に付け加えた。
ここで○○は咲夜も体に包帯をしていることに気付いた。
というか、右腕に至ってたはギブスをしている。

「まぁ、あなたは当分休みなさい。これはお嬢様の命令でもあるから」

咲夜がそう言うと、○○は自分がいつの間にかベットの中で横になっていることに気付いた。
時間を止めてベッドに○○の体を戻したようだ。
片腕がギブスのはずなのにさすがだなぁと○○は感心した。

「というか、咲夜さんは普通に働く気ですか?あなたも重傷でしょうに」
「あなたとは鍛え方が違うのよ」
「さすがですねー」

本当のことをいうとそれもあるのだが、狂気におちいった霊夢に追撃を喰らいまくった○○と違い、咲夜は戦闘不能になった時点で放置されたというのも大きかった。
上司としての威厳を保つために言う気はなかったが。


そういうことがあって○○は怪我が治るまでの間は休みをもらい基本ベッドで過ごした。
その間、パチュリーと小悪魔が本を持ってきてくれたり、レミリアや咲夜が様子を見にきたり、美鈴がサボって話をしに来てくれたので暇を持て余すことはなかった。


2か月が過ぎ、ようやく○○の傷は完治するに至った。
とはいえその日はまだ仕事はしなくていいと言われていた。
そうなると○○は外に出たくなった。
2か月間紅魔館の中にいたので運動不足を解消したたかったり、外の空気が吸いたくなったのだ。
以前から行っている変わった物や外界の物を扱う店で品物を眺めるのも久々なのでしたかった。新しいものが入荷しているかもしれない。
そういうわけで外出する旨を咲夜に伝えたのだが……。

「あら、だめよ」

咲夜から外出の許可は下りなかった。

「え?なんでですか?霊夢はもう俺に関する記憶はないんでしょう?
人里で見かけても無視すれば問題ないですよ。まだ安静にしてろってことですか?」
「そういえば伝えていなかったわね。お嬢様からの命令よ。
今後、あなたが紅魔館の敷地外から出ることを禁じます。出たとしても美鈴の元までね」
「は!?ええ?どういうことですか?」
「聞こえなかった?お嬢様からの命令よ。あなたは理由など考えないで従っていればいいのよ」
「えええ!?」

咲夜と別れた後、○○はレミリアの元を訪れた。

「お嬢様、失礼します!」
「あら、○○。だいぶ元気になったみたいね。良かったわ。
咲夜から聞いていると思うけれど、まだ私の部屋の掃除の当番には戻らなくていいわ。
もう少しゆっくりしていなさい」
「いや、それも聞きましたけども!もっと衝撃的なことを聞きましたよ!俺外出禁止ってどういうことですか?」
「ああ、それね。咲夜ったら今日まで伝えていなかったの?」
「昨日以前に聞いていたらその時に来てます!なんで外出禁止なんですか?納得できません」
「……だってあなたすぐ死にかけるじゃない」
「いや、すぐって……確かに下級妖怪に遭遇したり、お嬢様達の弾幕ごっこの流れ弾で吹き飛んだりしたことはありますが。
実際に死にかけたのは今回が初めてですよ?そもそもその対策で美鈴と稽古していたんですから。
一般人にしては突出した戦闘技能と体力を得始めていますよ、俺」
「稽古ももう必要ないわ。美鈴と稽古して、美鈴の拳の当たり処が悪くて死なれても困るし」
「人類をなんだと思ってるんですか?そんな簡単に死にませんって」
「だって!パチェがいなかったら!魔術による処置がなかったら!あなた死んでいたのよ!?」
「お嬢様?」

レミリアが突然大きな声を出したことで、○○は彼女の様子がおかしいことに気付いた。

「お願いだから私の前からいなくならないで!ずっと側にいて!もう……傷つかないで……!!
もう、これ以上あなたが血だらけで倒れている姿を見たくないの!!」

レミリアのこの言葉には、先日の霊夢との一件だけではなく、彼女が以前に見た悪夢のことも含まれてはいたが。
○○にはそのことはわかるはずはなかった。
ただ今は「お願いよ……お願いよ」と命令ではなく外出しないことを懇願してくるレミリアに対して「わかりました」と答えるだけだった。
今のレミリアにはいつものような凛とした態度も力を持つ妖怪が放つ威圧感もなかった。
これ以上、今はこの件について聞くことは不可能だと思った○○は、答えた後に部屋をあとにした。
出ていく際にレミリアがこちらに手を伸ばしかけたので一瞬、先程レミリアが口にした「側にいて」というのは本当に隣に居続けてという意味かと思ってしまった。
最終的には紅魔館内にいれば問題ないという意味だと○○は判断した。


レミリアの部屋を出るとすぐ側に咲夜がいた。
○○のは自室に向かいながら咲夜と言葉をかわした。

「お嬢様、どうしちゃったんですか?」
「今回の一件であなたを失うこと、傷つくことを極端に恐れるようになってしまったみたいね」
「なんでまた……。正直、狼狽したお嬢様に焦ってわかりましたって言っちゃいましたけど、やっぱり納得できないです。
買い物とかするの好きなんで。外界から来た物とか集めたいんですよ」
「あら、これ以上お嬢様を悲しませるつもり?この私が黙っているとでも?」

一瞬威圧感を発した咲夜。
○○はナイフが来るかと思って頭をかばうがナイフは飛んでこない。

「安心しなさい。あなたへの教育の際にナイフを使うことは禁じられたわ。
というか、今までだってあなたには刺したことはないわよ。やったとしてもかすらせるぐらいだったじゃない」
「そういえばそうでしたね。ああ、あと美鈴との稽古もなくなりましたよ」
「とにかく外出はしないことね。
私が黙っているかどうかうんぬん以前に、あなたはあの状態のお嬢様をさらに追い詰められるの?」

そう言って咲夜は○○と別れた。ちょうど○○の部屋についていた。
自室のベットに倒れた○○はこれからについて考える。

納得はできなかった。今すぐにでも外出したい。
だが、そうすればレミリアは怒るというより悲しむかもしれない。
先程のレミリアの状態は見ていられなかった。
納得できないと言っただけであの様子なのだ。実際に出てしまったらどうなってしまうのか。
確かに咲夜の言った通り、○○にはこれ以上レミリアを追い詰めることは性格上できなかった。
また、○○が心配をかけてしまったというのもまた事実なのだ。

ここまで考えてふとあることを思い立った。
○○は今、自身が外出するかしないかで考えていたが。

「そもそもナイフ使われなくても、出ようとしたら咲夜さんに余裕で捕獲されるんじゃね?」

現時点では精神的にも物理的にも不可能な気がした。



咲夜は場合によっては、レミリアの為だと思えば、レミリアの命令だろうと反論する。
しかし、今回の命令に関しては特に異論はないようだ。
そもそも、ナイフが刺さっていないという件を除いても、○○が上司として怖がっていたとしても。
なんだかんだで部下想いということは伝わって来ていたので、レミリアほどじゃないにしても心配してくれているのかもしれない。

というわけであの後○○は、咲夜とは別にレミリアを説き伏せ、精神を安定させつつ外出許可を出させることが可能であろう人物、パチュリーの元を訪れていたのだが。

「もともと私はあなたの外出には反対だったのだけど」
「あ~……。そういえばそうでしたね」

そもそもパチュリー自体が以前から○○の身を案じて外出禁止を提案していたことを失念していた。

「今回も外出先であった霊夢に狙われたわけじゃない。ほら、見なさい。
だからさっさと外出禁止を命ずるべきだったのよ」
「しかしパチュリー様。さすがに紅魔館内のみの行動範囲は休日が暇というかなんというか……」
「本ならいくらでもあるわよ。あなた、読書好きでしょう?」
「そうですけど……やっぱり外にも出たいですよ。店行ったり、釣りしたり……せっかくDVDデッキとテレビをそろえたのにDVD持ってないんですよ!」

狼狽を見せるレミリアや、ナイフがないとはいえ威圧感を出す咲夜と違って、以前から反対しつつも今、表情を変えずに普通に話を聞いてくれるパチュリーは愚痴を言う相手としてはちょうどよかった。
2時間ほど愚痴り倒して○○は自室へと帰って行った。

「あれ?○○さんもう帰っちゃったんですか?」

○○が帰ってからほどなくして、パチュリーの使い魔の小悪魔が現れた。

「○○になにか用でもあったの?」
「はい。○○さんが興味を持っていた本があったんで○○さんが読める言語に訳してたんですよ」
「今度来た時にでも渡せばいいじゃない。外出禁止で本を読みに来る機会も増えるでしょうし」
「あーとうとう外出禁止の話を聞いたんですか。ところで今○○さんは本を読みに?」
「私にレミィを説得するように頼みに来たみたいね。まぁ、ダメだと解ったら延々と愚痴を聞かせられたけど」
「それは大変でしたね」
「別に大変とは思わなかったわ。愚痴ってすっきりすれば、無茶をして外に行こうとすることもないでしょうし」
「そうですね。……でも私はそううまくいかないと思いますよ?」
「どういうことよ?」
「環境が変われば、今まで気づかなかったことに気付いたりしますからね。
○○さんは優しいですからレミリア様に追及できなかったわけですが、優しいからこそ、『あれ』を知ってしまったら……」
「『あれ』ね……。私としてはその件に関してもレミィに賛成なのだけどね……」


図書館でふたりがそんな会話をしている時、廊下を移動中の○○は歩きながら考え事をしていた。
パチュリーに愚痴ったらそれなりにスッキリしたし、レミリアがあの様子なので外出禁止を撤回させることはとりあえず諦める。
今すべきことは仕事がなく、外出できない今日の暇をどう潰すかだ。
図書館に戻って本でも読もうか、美鈴と駄弁りに行こうかと色々考えていたのだが。

「ああ、そうだ!フランちゃんと遊ぼう!」

ここ2か月、思い返せば○○はフランと会ってもいなかった。
当分はベットで食事を取っていたし、自身の行動が○○の体に負担をかけると考えたのか、見舞いにも来ていなかった。
ほぼ体が回復した最近も食事の際にいなかったので顔を合わす機会がなかった。
そういうわけで、こちらも暇だし、久々に遊びに付き合おうと探したのだがフランの自室に彼女の姿はなかった?

「あれ?」

その後もなんとなくいそうな場所を探してみたのだが、見つからない。
○○はレミリアに聞いてみることにした。
だいぶ時間もたっているからレミリアも落ち着いているだろうと思ったし、もしかしたらフランがレミリアの部屋にいるのかと思ったから後回しにしつつも最後にはレミリアの部屋を訪れた。

「お嬢様失礼しまーす。ああ、ここにもいないか」
「○○?どうかしたの?」
「フランちゃんと遊んであげようと思ったんですけどどこにもいなくて。どこにいるか知りませんか?」
「ああ……フランなら閉じ込めたわ」
「え?なんでですか?癇癪でも起こしたんですか?」
「別に何かをしたというわけではないわ」
「じゃあなんで……」
「だって○○が危険じゃない」
「あの、仰っている意味がよくわかりません」
「フランったらいつもあなたに手加減もなく抱き着くじゃない。あれ、痣になったりしていたでしょう?」
「そう思うんなら、一回ビシッとしっかり注意していただければ問題ないと思いますよ?」
「それにあの子は情緒不安定な所があるし。能力だって危険だもの」
「待ってくださいよ!突撃の件はともかく、能力とかは実害を受けてませんよ!?」
「実害がでてからじゃ遅いじゃない」
「じゃあ、フランちゃんが俺にとって危険である可能性があるってだけでフランちゃんを閉じ込めたってことですか?」
「そうよ。別に80年ぐらいは吸血鬼の寿命で考えればそこまで問題じゃないわ」
「80年ってなんの数字ですか?」
「知る必要はないわ。この件に関しても決定事項よ。撤回する気はないわ」


不満こそあったがとりあえず当分は(説得が無理だろうということもあって)外出禁止に従おうと思っていた○○。
自分が心配をかけてしまったからというのもあったし、対象が自分自身のみであったのも大きかった。
だが、現在のレミリアの過保護ともいえる対応のせいで、フランの自由が奪われてしまった。
この事実は、フランの閉じ込めに対してどうすることもできない○○の心の中で大きな不満となった。
レミリアへの不満は、レミリアへの忠誠心や気遣いを揺るがすこととなった。
結果、○○の中でレミリアの外出禁止の命に対する反抗心が芽生えた。


外出禁止とフラン閉じ込め話を聞いた翌日ぐらいから○○は執事としての仕事に復帰した。
以前変更になったシフトであるレミリアの部屋の掃除が中心となった。
変更前からレミリアの部屋以外の仕事もそこそこあったのだが、今では心なしか減ったよう気がした。
空いた時間はパチュリーの元で本を読むか、新しい時間つぶしとして掃除中や茶の席以外もレミリアの元で会話することが多かった。


そうしてレミリアと接していて○○は霊夢襲撃後、レミリアに生じた変化に気付いた。
特に○○とレミリアが二人っきりの時。
今まで二人っきりの時は、基本的には威厳あるいつもの態度か、もしくは楽しめの会話の結果見せる歳相応の子供らしいテンションのどちらかだった。
ただ、今○○の目の前にいるレミリアは寂しがり屋の子供の様な状態だった。
口数は少ないものの、○○をベットに座らせてその背に寄りかかったりなど接触することも多くなった。
正直、体は小さく、子供っぽい感じになっているレミリアではあるが、普段の威厳と共に感じる女性として魅力。
そして、逆に現在の子供っぽい可愛さとのギャップなどから、密着状態のレミリアから異性を意識してしまいあまり落ち着かなかった。
それでも心配させてしまったレミリアを安心させる意味で、拒みはしなかった。
落ち着かないと同時に男性としてレミリアという美少女と密着状態なのは嬉しくもあったのも拒まない理由ではあるのだが。


その日はベットに座っている○○の膝にレミリアが頭を乗せ、膝枕のような体勢になっていた。

「あれ?お嬢様?」

外界のことについて話すときは基本的に○○の方が話しっぱなしになるのだが、話をしているうちにいつのまにかレミリアは寝息を立てて寝ていた。
○○はレミリアを抱きかかえて立ち上がると移動し、ベットの本物のまくらを使える位置にレミリアを寝かせて布団をかけ、レミリアの部屋を後にした。

今は仕事のない時間なのだが、話をしていたレミリアが寝てしまったので廊下を移動しながらこの後のことを考えていた。
午前中のうちに読書をしており、一冊ちょうど読み終わっていた。だから、今は、昼寝しているであろう美鈴でも起こして話でもするか。
その前に追加で手伝うような仕事が発生していないか咲夜に確認しようと思ってからあることに気が付く。
この時間帯は咲夜は紅魔館の掃除中でうまく遭遇できないことが多い。
広い紅魔館のあちこちで掃除をしているので咲夜の居場所を把握することができない。

逆に言えば、現在咲夜は○○の居場所を把握できていないということだ。
いつもこの時間はレミリアが○○がパチュリーの元にいようと、美鈴の元にいようと居場所を把握していたが、現在は彼女にしては珍しく普段の就寝時間以外で寝てしまった。
○○の外出を警戒して最近ずっと気をはっていて精神的な疲れがたまっていたのかもしれない。


「どうするかな……」

今なら、夕食の時間まで帰ればバレないだろう。
もし、途中でバレたとしても、外出をある程度たんのうできるだろう。
レミリアが自身の外出を嫌がっていることはわかる。
自分としては外出をしたい。
結局、○○の決断の最終の材料となったのは理不尽にフランを閉じ込めたレミリアに対する反抗心だった。


外出をおこなっていた時によく行っていた店に想いを馳せつつ○○は出発した。
だが、門を通り過ぎようとしたところで声をかけられ驚愕した。

「あれ?○○さん?どこに行くんですか?」


門番が門のところに居ておかしいところは何もない。
それでも、門番に声をかけられる。そんなことになるとは夢にも思っていなかった○○は驚愕してしまった。

「美鈴が……起きてる……!?そんな馬鹿な……」
「そんなに驚かなくてもいいじゃないですか」
「だってなぁ……」
「ネタを明かすと、○○さんの気を察知して起きたんですよ」
「やっぱり寝てたんじゃないか」
「まぁ、そうなんですけどね。……ところで○○さん?」
「ん?」

にこにこしている美鈴と会話しているはずなのに○○はゾクっとして鳥肌がたった。

「今、門を通り過ぎようとしてましたよね。私と話をしにきたのではなく」
「いや、あのだな美鈴……」
「もしかして……どこかに行こうとしてませんでした?
お嬢様から外出禁止に命は解除されていませんよね?」
「……あ!あんなとこに満漢全席が!!」
「え?どこですか?どこですか満漢全席?」

適当な嘘をついて美鈴の背後を指さし、逃走を図る○○。
だが……内心○○もわかっていたことだが、数秒後にはこちらを振り向いた美鈴に捕まっていた。

「やっぱりかー!!」
「○○さん!あんな嘘をつくなんて酷いじゃないですか!!」

口から涎を垂らしながら美鈴が叫ぶ。
それはそれでとても気にはなったが、他にも気になることがあった。

「おい美鈴。この捕獲の仕方はなんだ?」

お姫様抱っこの様な体勢だが、抱いている○○を苦しくはないけれど、身動きができない程に美鈴の体へと押し付けられている。
結果、美鈴の豊かな胸が○○の体に密着している。

「ああ、これですか?○○さんへの体への配慮と逃走防止の拘束のバランスがいいんですよ。
じゃあ、お嬢様のところに行きましょうか?」
「見逃してくれ!!」
「ダメですよ。私だって○○さんの外出は今では反対なんですから」


場所は変わってレミリアの部屋。
すでに美鈴は門へと帰った。
現在部屋にいるのは。

正座状態の○○。
悲しそうでいて怒りがこもった表情のレミリア。
怒気をはなつ咲夜。

「○○……なんで?外に出ちゃダメっていったじゃない……」

レミリアが聞く。
しかし、○○自身、フランを閉じ込めたことと自身が外出したことの論理的なつながりをうまく言葉にできなかった。
自制を振り切るきっかけとなったのは間違いないが、何故と聞かれるとうまく言葉にできない。関係ないといえば関係ない気が自分自身する。
○○がなんとか言葉にしようと必死になっていると、レミリアに抱き着かれた。

「側にいて……いなくならないで……」
「お嬢様……」

レミリアは抱き着いたまま、体を震わせてそう言った。
その様子はまるで、親に捨てられた子供のようだと○○は思った。
言いつけを破ったこととレミリアをこんな状態にしてしまったことに罪悪感を感じた。
もう、外出するわけにはいかないなと、○○は思った。
だが、しかし、ある一点だけは譲ることができなかった。

「お嬢様。言いつけを破ってしまい、申し訳ありませんでした。
今後は、許可ない限り紅魔館の敷地から出ないことを誓います。
ですから、せめてフランちゃんを閉じ込めるのだけはやめてあげてください」

フランを出すことの交渉を始めたとたん、咲夜から発せられるプレッシャーが増した。
○○自身、言いつけ破った身でありながら条件をだすなんていうのは身勝手だとは思う。
それでも、フランを閉じ込めるのだってレミリアの身勝手だと思うからこそ、口に出して言うことができた。

「ダメよ」

口に出すことはできても交渉はうまくいかなかった。

「○○?あなた反省しているの?何か罰を与えたほうがいいかしら?」

さらに咲夜からは先程のプレッシャーのままそんなことを言われてしまった。

「咲夜」
「わかっていますお嬢様。体罰の類はいたしません。
ですが、部下が命令を破ったのですから、なんらかの罰を与えないと。
反省させないとまた隙をみて紅魔館を抜け出そうとしますよ?」
「……そうね。反省はしてもらわないと」
「どこかに一時閉じ込めますか?」
「ダメよ……そんなのはかわいそう……」

大切にされていること自体は嬉しいのだが、そのかわいそうなことをフランに対して延々と行っていることについて小一時間問いただしたかった。
問いただしたかったのだが、精神状態が不安定なレミリアとそんなレミリアの代わりに命令違反をしたことで厳しくなっている今の咲夜相手にはできなかった。
それどころか、○○は交渉失敗後は反論すらできず、○○の処遇についてレミリアと咲夜が相談している間、成り行きを見守ることになった。




「で……どうしてこうなった」

現在○○は、レミリアのベットの足とつながっている首輪をしていた。
レミリアのベットは紅魔館の主の物というだけあってキングサイズである。
装飾部分の材質もあって重量もかなりの物であり、人間の○○では持ち上げることもかなわない。
よってそのベットの足とつなげられている○○はレミリアの部屋から移動できなかった。
移動できないとはいってもつなげられているリードはそこそこの長さがあり、部屋の中なら自由に移動できた。
部屋から出してもらえないことには変わりはないが、場所がレミリアが生活している部屋であり、監禁というよりは軟禁程度といったところか。
実際精神的な苦痛はほとんどなかった。
レミリアが寝た隙をついて逃げ出したので、監視だけではなく首輪によって行動を制限されてしまったのも文句が言えない気はした。

「これトイレ行きたくなったらどうしたら……」
「その場合は連れてってあげるからいいなさい。私がリードを持って」
「俺は犬ですか……」
「まぁ、つないでおくのは3日間ぐらいだから。反省してなさい」
「はぁ……」

今現在は、だいぶ落ち着きを取り戻したレミリア。
それでも、また外出しようとしたり、フランの監禁を解くように説得したりなど、異常に過保護になっているレミリアが○○が危険になる可能性があると思っていることをするとまた、不安定な精神状態になってしまうだろうことは容易に想像できた。
○○は行動を制限されたことで、フランのことを意識してしまい、フランが監禁されているという状態に焦りを感じ始めてた。
だが、『レミリアにフランの監禁を撤回させる』を達成するのはとても厳しいもの思えた。
今のレミリアを最後まで説得させる自信が○○にはなかった。


とりあえず夜まで打開策が見つからないままレミリアと話したり、パチュリーが持ってきてくれた本を読んで過ごした。
最近の生活とあまり変わらないにもかかわらず、フランのことが意識から離れず、落ち着かなかった。
そんな中、作戦とは呼べないようなあることを思い付き、実行することにした。
実行時は既に夕食後から少し時間がたったころだった。

「あの、お嬢様」
「なにかしら○○?」
「たまには、紅茶ではなくアルコールをご一緒させていただいてもよろしいですか?」
「あら、いいわよ。とっておきのワインでも開けましょうか」

そう、○○の思い付きとは酒の力を借りることだった。
とても現状では説得できる気がしない……それどころか、レミリアが不安定になることを気にし出している自分がいて説得すること自体に度胸がいる感じになってしまっていた。
そこで酒の勢いで、酒で気を強くすればなんとかならないかと考えたのだった。
アルコールは強い方ではないが、この際ワラにもすがる思いだった。
まずばふたりで酒を楽しみつつ、普段の様に雑談しつつ、段々と説得に移行していこうと考えていたのだが……。
アルコールが強くない人間が酒の力を借りるというのはリスクが伴った。




「……あれ?」

朝、目が覚め、昨日の夜の記憶が曖昧な○○。
既視感を感じつつ一瞬また霊夢が攻めてきてボロボロにされたのされたのかと思ったが、レミリアとワインを飲んでいたことを思い出す。

「マジかよ……酔いつぶれちまったのか」

ワインを飲み始めて早い段階で記憶がなくなっていた。
酒の力を借りようとして酔いつぶれたという事実を思い出した時にあることに気付いた。


「あれ?俺の部屋?てか首輪は?」

起きた自分の状態。
自分の部屋で、自分のベットでもちろん首輪もせずに。
確か3日間ぐらいは、レミリアのベットにつながれているハズではなかったのか。


(えー。まさか俺、我が身恋しさに?)

昨晩の自分が、フランの解放など放棄して、自分の解放を説得したのではないかと考え自己嫌悪に陥る○○。

(いや、待て……フランちゃんの解放がうまくいって、さらにその後に自分の解放すら成功させたのかも……いや、ないわー。都合よすぎるよな)

その後もいろいろ考えたが、結局自分で考えても真実に辿り着くことは不可能だと判断し、執事服に着替え(昨日ワインを飲んでいる時に来ていた執事服ではなく、寝間着で寝ていた)部屋をでる。
それとなーく聞くか、直球で聞くかはさておき。レミリア本人に昨日のことを確認してみる必要があると考えていた。
ドキドキしながらもレミリアの部屋に受かって廊下を歩いていると咲夜と遭遇した。

「あ、おはようございます咲夜さん」

と、いつも通り朝の挨拶をしたのだが……

「おはようございます。○○様」
「はい?」

咲夜から返ってきたのは、いつも通りの挨拶の返しではなかった。


<続く>

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最終更新:2020年10月03日 08:26