病みじゃないかもしれない、でも読んでくれたら嬉しい。





「おはよー!○○!」
「…あぁ、ルーミアかい?かなり早朝のはずなのによく来るねぇ」
「もっちろん!○○に会うためならこれくらいなんてことないよ!」
「そうかい?嬉しいことを言ってくれるなぁ…でも、心配はさせないでおくれよ?ルーミアに何かあっても…きっと僕は駆けつけられないからさ」
「…うん、ごめんね。○○」
「ははっ、おいでルーミア」

私は○○の真っ直ぐ伸ばした腕の中にすっぽりと納まる。
…温かい。それに、○○の匂いがする。凄い…幸せって感じがする。

「やっぱり、ルーミアは小さいなぁ。ちゃんと食べてるのかい?」
「もぅ、○○は体が大きいだけでしょ!○○よりちゃんと食べてるよ」
「う、それを言われると痛いなぁ」

○○は困ったように笑った。まったく、男の子なのにかわいいなぁ。
…ごめんね○○。実は嘘なの。私はもう一月以上何も食べてないよ。ううん、違うかな。何もお腹の足しになってないの。
○○と会った日から…もう人類は食べてないから。

「どうかしたかい?いきなり黙り込んじゃって」
「っ、な、なんでもない!○○のダメダメさに呆れてたの!」
「そ、そんなに追求しなくても…」
「するよ!だって…○○は…○○は…」
「ごめんねルーミア。心配かけちゃってさ」
「そうだよ、私なんかよりずっと○○の方が心配だよ…ぐす」

私は○○の胸に埋める。○○が私から離れて行ってしまう気がしたから。

「…ふぅ」

○○が優しく私を抱きしめる。そして、髪をそっと撫でる。

「大丈夫だよルーミア。僕は君のそばにずっと居るから…多分」
「○○…なんか最後ので信用できなくなってきたんだけど」
「おや、これはすまないな。はははっ」

○○は笑っている。顔は見えないが、これは確かなことだろう。
でも、本当は○○が一番よくわかっているはずなんだ。○○はもう長くはないって。

「ぐず…ごめんね○○。もう少しこのままで居させて…」
「…あぁ、いいよ。まだ…まだ時間はあるんだから」

それはまるで…自分自身に言い聞かせるみたいで…私はまた静かに涙を流した。



「……ミア、ルーミア」

はっ、となって顔を上げる。寝ちゃってた…みたい。

「ルーミア、ちょっと目瞑って」

なんだろう?私は目を瞑った。
……どうやら○○が袖で私の顔を拭いてくれているようだ。そんなに泣き跡酷かっ…!?

「○○!○○!目が見えたの!?」

私は両手で○○の顔を挟んで見やすいように固定する。やった!○○の目が治ったの!?…あれ?でも目が開いてない…。

「ル、ルーミア落ち着いて。違うんだ、さっき泣いていたから跡着いてるかなって…」
「そ、そーなのかー…えへへ、ごめんね○○。早とちりしちゃって」
「ううん、こっちこそごめん。紛らわしかったね」

二人の間に沈黙が入る。嫌なわけじゃないけど、○○が気まずそうにしているとなんだか悲しくなる。
…そうだよね。あの竹林の薬師ですらさじを投げたんだもん。急に治るわけないよね。

「…ところでルーミア、今の時間はどれくらいかわかるかい?」

○○が私に質問をしてきた。何時って、まだそんなに時間は…え?

「もう太陽があんなに…!?」
「…その反応だと、だいたい正午くらいかな?」

○○の言うとおりだ。太陽が高くまで上がっている。
なんで?だって、ついさっきまでは…も、もしかして。

「○、○○。私って…」
「うん、寝息が聞こえてたから熟睡してたのかな」
「ご、ごめんなさい!こんなに長い時間…体は、体は大丈夫なの!?」
「大丈夫だよ、落ち着いて。ね?それに、なんだか時間感覚が曖昧でさ。特に苦痛とかは感じなかったから気にしないでよ」

○○は大丈夫って言ってるけど…やってしまった。これじゃあ、○○の体を案じていた意味がまったくない。
心配しておいてむしろ逆のことをしてしまった。

「ルーミア?…とりあえずさ、そろそろだから」
「うん、本当にごめんね。それじゃあ…」

私は○○から離れて玄関に向かう。
扉を開けながら○○に振り替える。…見えていないのに、私がそこにいるであろう。と、こちらに微笑みかけてくれている。
私は…ただ、目が見えていない彼に笑顔を返すことしか出来なかった。



太陽の日差しが強いので、私は闇を創って身近にあった洞窟の中に座り込んだ。
…毎日の正午前後。○○の定期健診と介護の人が来る時間…らしい。私はその場にはいられないので、詳しくはわからない。
○○はきっともう長くはないのだろう。人間を喰い漁っていた時のことを思い出すなぁ、もう一か月は喰べてないけど…なんとなく、なんとなくで『この人間はもう長くない』とか『まだまだ凄く元気』っていう感じがわかっていた。
その中でも○○はすっごく不思議な感じがした。そこにいるけど、ここにいない。ここにいるけど、そこにいない。
そんな…あやふやな感じ。もう、イノチの終わりが近い人間ってこんな状態なんだなぁって。そう思った。

「○○…いなくなっちゃうの?…どうしてなの?」

洞窟に座り込み、膝に頭を埋めて言葉を発する。…そんなことはわかりきってる。死んじゃうから、それだけ。
生まれた頃から私がやっている行為、きっとこれからも死ぬまでやり続ける行為。…それは人が死ぬことに繋がってる。
でも…それでも○○は特別なんだと思いたい私がいる。理由はわかってる。それは、○○が私の特別だから。
…出会ったあの時から、その思いは変わらない。

「そうだよ…○○が私の特別なのは変わらないよ…」

それに○○は今生きてるんだから…もうこの心配は止めよう。
○○がいなくなっちゃった後にでも…じっくり…泣こう。

「あっ、もう空が…えへへ、私も時間の感覚が曖昧になってきちゃったのかな。それじゃあ、○○のところに行かないと」



コンコン、と扉を叩く。夜になるとなぜだか畏まっちゃうんだよね。私の時間なのに。

「どうぞ」

短く一言だけ返される。

「○○…朝はごめんね?それで…どうだったの?」
「あぁ、ルーミアかい?…うん、なんというか…その…もうダメ、らしいんだ」
「…え?」
「これまでも毎日見てもらってたんだけど、やっぱりって言うか…心臓にうつったらしいんだ。ははっ、普通は耳とか腕とかが先だろうに…こればっかりは仕方ないよね」
「そう…なんだ」
「おや?いつもの『そーなのかー』はどうしたんだい?ほらほら、そんなに暗くならないでさ。『常闇の妖怪』がもっと暗くなっちゃうよ?」
「え!?そんな…どうして!?」
「…その反応だと本当みたいだね」
「あ…」
「さっきまでいた人里の守護者っていう方がね、最近この辺りを妖怪がうろついてるって教えてくれたんだ。それで、特徴を聞いてみたんだけど…。なんせ目が見えないからさ、口癖だけ教えてもらったんだ。『そーなのかー』…なんだってさ」
「え、えと、○○あの、ごめんなさい。嘘つくつもりは無かったの。ただ、○○には知ってほしくなくて…」

私が言葉に詰まっていると、○○が両腕を伸ばしてきた。

「…おいでルーミア」

…無言で○○の腕の中に納まる。そして、いつものように髪を優しく撫でてくれる。

「大丈夫、たとえルーミアが妖怪だったとしても、僕は怖くないからさ」
「…でも、私は…人喰いなんだよ。今までも、いっぱい…いっぱい…」
「わかってる。でもさ、僕のことを気にかけてもう何日も口にしてないんだろう?」
「え…どうして?」

すんすん、とわざと音を立てるようにして私の髪の匂いをかいだ。

「こんなにも近くにいて血の香りがしないなんて、川で洗ったとしてもおかしいだろう?まして、毎日ここに来てくれてるんだから」
「…うん、○○にあった日から、時々ご飯を一緒に食べる以外は…なにも」
「優しいんだねルーミアは。こんな僕のために、そんな…そんなに我慢してくれるなんて…」

○○は泣いていた。なぜだかわからないけど、もう開くことのない瞼から涙が溢れていた。

「○○…どうかしたの?」
「…ううん、なんでもないよ。それよりも…さ、ルーミア。もう僕なんかのために我慢しなくていいんだよ」
「なんで?私は○○のためなら、これくらい…」
「言ったろ?僕はもう長くないんだ。…でも、ルーミアがよければ1つ…1つお願い事をしてもいいかい?酷く、自分勝手なお事願いを」
「○○…っ、うん。大丈夫。どんなことでも言って」
「それじゃあ…」


「僕が死んだら…君に喰べてほしい。…そして、僕を喰べるのを最後に君に僕と同じ世界を歩んでほしい」


「○○…それって…」
「ごめんね、すごい自分勝手なことなんだけど…僕が望んだ最期の唯一の願い事だったんだ。…いや、ごめん。最期に言ってみたかっただけだからさ、気にしないで」
「…ううん、○○。私、今すっごく幸せな気持ちだよ。凄く…嬉しいよ」
「…ありがとうルーミア。僕も凄く嬉しいよ」
「え、えへへへ」
「あはははっ」

私たちは涙を流して笑いあった。凄く、悲しい悲しい願い事。だけど、それは私が本当は望んでいたことなのだと思う。きっとこの瞬間、私と○○は結ばれたのだと思う。



それから程なくして、○○のイノチは終わりの時を迎えた。
いつものように朝日が顔を出す前の時間。私は空っぽになっていた○○の家の前に立っていた。
…○○がいない。それに中の家具も大きいもの以外無くなっている。

「…○○っ!」

私は急いで空中に浮遊した。そして、人里に向かって…いや、博麗神社に向かって進んだ。



「…来ると思ってたわ。巫女の勘がしたから」
「○○を返せ」
「…○○さんはあなたのものじゃないわ」
「○○を返せ!」
「…彼は、哀れな奇病に罹ってしまった幻想郷の…私の幻想郷の人間よ」
「返せぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!」

私は巫女の喉に向かって高速飛来する。○○の元に行く邪魔をするなら…ここで殺す!

「…」

しかし、体を横に反転させられ回避される。

「くっ…この!」
「…夢符「二重結界」!」

いつの間にか手にされていたスペルカードが宣言される。

「がっ!?あああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」

それと同時に私の体が結界によって強力に締め付けられた。
締め付けによって意識が点滅する。なんで?こんなスペルカードじゃなかったはず。

「ルーミア、聞こえているなら…本殿の方を見なさい」
「ぐっ、な…に…が…」

視界の端に映る神社に目をやる。そこには…○○が仰向けに倒れていた。

「…彼をこれから火葬するわ。妖怪なんぞに死体を荒らされないように。彼はこの理不尽な幻想郷が生み出してしまった犠牲者…弔いの邪魔をするならこのまま滅するわよ」

邪…魔?
…ふざけるな。ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるな!!!
邪魔をしているのはどっちだ!私は、私は○○を…!

「あ゛っ、があ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!!!」

体に強く、力を込める。…嫌な音がする。それでも構わない。ただ、全力で。

パリィィィィィィィイイイイイン!!!!!!!!!

ガラス板が思いっきり割れるような甲高い音が響いた。

「スペルカードを力ずくで!?」
「はぁ…はぁ…くっ、スペル…カード『光滅「ブラック・カーニバル」』!」

瞬間、突如として博麗神社を半球上の暗黒が覆う。

…こんなスペルカード、本来私は持っていない。ただ、余す力の限りで作った即席の目くらまし。
弾幕は一切使わず、美しさの欠片も無い、スペルカードルールを完全に無視したもの。きっと、すぐに太陽の光で消えてしまうような一時的な張りぼての産物。
でも、今の私にはこれ以上のものはないだろう。
…完全なる暗闇、だけど確か○○はこっちに。
疲れきった体に鞭を入れ、急いで○○の元に向かって飛ぶ。

「はぁっ、はぁっ、○○。○○」

いた。姿は見えないけれど、確かにここにいる。…○○、今願い事叶えるよ。
闇が少し薄れてきている。早くしないとっ

チュンッ

一瞬、私の体を一筋の光が通り抜けた。
…くらっ、と体が前のめりになり、そのまま○○の上に重なる。

「魔理沙…あんた来てたの?」
「あんだけ甲高い音が聞こえて、こんなバカでかいもんが出現すればな。…それで、今どんな状況だ?」
「…わかってるんでしょ。あんたがケリをつけたんだから」
「ああ、そうだな。…もう、何も出来ないだろうから終わるまで待とうぜ」
「…わかったわよ」

あぁ、後ろで何か話している…何を言っているのかわからないけど。
そ…うだ、○○の願い事…叶えなくちゃ…。

カプッ…

えへへ、ごめ…んね。もう、力が…入らない…よ…





太陽が顔を出し、暗黒の塊はさらさらと煙のように空に上り形を崩していく。
闇が晴れた神社の境内。一人の体が蒼白な青年と一人の幾歳もいかぬような容姿の胸に穴を開けた少女が唇を重なり合わせ、こちらの世界の幕を閉じていた。










「○○ー!」
「おっ、やぁルーミア。今日もかわいいなぁ」
「んっふふ~、ありがとぉ。○○もかっこいいよ!」
「はは、嬉しいねぇ。…ルーミア」
「ん~、な~に~?」
「…愛してる」
「そーなのかー?えへへー、私もー」

そして二人は歩む。何も無い…ただ二人の姿だけが鮮明に映る常闇の世界を。

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最終更新:2014年07月21日 14:41