人里のとある茶屋はそれなりに混んでいたが、窓際の良い席は空いていた。
この店の暗黙の了解としてそれらの席は幻想郷の重鎮達の為の席だったのだが、俺はその席にすわる。
通常の席には並んでいる人がいるにも関わらずだ。

穣子と一緒にこの店に来るときはいつもそうだ。
俺はこいつの種族を知らないが案外重要な幻想郷に置いてポジションなのかもしれない。
というか人外なら店員が文句を言ってくる気がしないので別にただの妖怪かもしれない。


「というか堂々としていれば普通の人間の俺単体で座ってても何も言われなそうだな」
「うわっ、○○せこい」
「普通にこの席使えるお前に言われてもなー」

そんなことを話しながら店員に注文する。
注文した品を待っている間も穣子との雑談を続け、内容は俺の仕事のことに。


「へぇ、今年も豊作なんだ」
「ああ。豊穣神様のお蔭だ。豊穣神様々だな。」
「ふふ」
「いや、なんで豊穣神様を褒めて穣子が笑ってんだよ。俺が豊穣神様の顔どころか名前すらしらないのに知った風な口をきいてるから馬鹿にしてんのか?」

俺は代々畑仕事をする家系の息子だが、豊穣神様の顔も名前も知らない。
特に毎年収穫祭に呼ばれているらしいある豊穣神様は仕事仲間どころか同世代の奴らはみんな知っているらしいのだが、俺は何も知らない。

思えば親から収穫祭の日は外出禁止されたり、親・知人・友人に聞いてもはぐらかされるし、関連資料は俺が読めないようになっているし……。
なにこれ?人里単位でのいじめ?まぁ、生活自体には支障もないし、豊穣神様が関わらなければみんな普通だからいいけど。
ものスッゴイ気にしてはいるけどな!!気にしてること知っていいてにやにやしてんのか穣子は。
豊穣神様を褒め称えて穣子がニヤニヤする理由なんて他にないだろう。

「別にそんなんじゃないよ。私の名前にも"穣"の字があるから、褒められた気がした的な?」
「それぐらいでそんなニヤニヤするもんかよ。
言っとくが、顔も名前も知らないがな、俺は豊穣神様のことは本気崇めてるんだからな?名前も知らないからって適当な気持ちで崇めていないぞ」
「うふふ。じゃあ、豊穣神様になにか指示されたら言うことなんでも聞いちゃう感じ?」
「いやー、なんでもはどうだろ。両親を殺めろとか我が血肉となれとかだと躊躇しちゃうかなー」
「あんた豊穣神をなんだと思ってんの!?」

だからなんでお前が怒ってるんだよ?
といいたいところだが今の発言は確かに罰当たりだったか。友人に叱られてもしょうがない。


「今のは冗談として、基本いいなりだと思うぜ?人里の住民は、特に俺の家系は豊穣神様のお蔭で満足に食っていけてるんだからな」
「ふぅん」
「というか、正体不明と言えばお前もだろ?結局穣子の種族はなんなんだ?妖怪か?それともお前も神の一種?」
「案外人間かもよ?」
「ないわー。物心ついた頃からの付き合いだが容姿変わってねーもん」
「美容に気を使った結果かもよ?」
「完全な人間だったとしても、そんなんじゃ妖怪と呼べる存在だろ。まったく老化しないとか」
「老化って……私だったからよかったけど、他の女の子に今の表現はやめといた方がいいわよ。成長って言いなさいよ」
「昔は遊んでくれお姉さんだったのに今じゃ俺の方が背も高くなったからなー。不思議な感覚だわ」
「本当。あんなに可愛かった男の子が、こんな感じになって……」
「悪かったなこんな感じで」
「違う違う。褒めてるのよ。正直、今の距離感っていうの?対等に話し合ってる関係が心地良いのよ」
「いや、ニュアンス的に絶対馬鹿にしてた」
「ねぇ、○○。もし、私が神様だったらどうする?」
「どうするって言われてもな。別にそうだとしても今まで通りだろ。物心ついた時からタメ口の呼び捨て出し。
敬語に直すタイミングは完全に逃したし、お前の正体が神だろうが閻魔だろうが幻想郷の管理者だろうが今更態度を変えたりできねぇよ」
「よかった。私に敬語つかってくる○○とかなんか気持ち悪いもん」
「どういう意味だ。……そんなこというってことはやっぱり神かなんかなのか?」
「さて、どうかな~」


そんな会話をしながら運ばれてきた物を味わう。
子供の頃は子供的な遊びをしてもらっていたが、俺もいい年になって来た最近はこうしてなにかを食べに行ったり穣子の買い物に付き合ったりして遊んでいる。

正直、俺は現在の関係のままがいいなと思っている。
時たま、穣子が俺に好意があるような発言をすることがあるが、俺はその想いに答えられないだろう。
個人的には結婚する相手は人間がいいなと思っているからだ。
妖怪とかに対する偏見とかではなく同じ歩幅で人生を歩んでいけるようなのが理想なだけ。
別に穣子が相手では嫌だというわけではないけどな。でも理想があるならそれを追い求めたい。
俺の理想は以前からそれとなく穣子に言ってるから告白してきたりはしないだろう。
振った相手と遊びに行くとか気まず過ぎるからな。言っておいて正解だったと思っている。

さて、この店を出たら買い物だ。
穣子も普通の女の子と同じで買い物長いから付き合うこちらとしては結構大変だったりする。
まぁ、それも含めて楽しいからいいけど。

今日も一日楽しかったな。
やっぱり○○と一緒にいる時が一番楽しい。
本当、心地いい距離感で接してくれるんだから。
できればその距離間のまま友人から恋人に……夫婦にシフトしたいな。
○○の奴は私の想いに答えてくれる気はないみたいだけどね。残念。

でも、『穣子』からのお願いではなく崇めている『豊穣神様』からのお願いならどうかな?

うふふ。
早く○○のお嫁さんになりたいな。
もう我慢できなくなってきたよ。
だって○○ったら会うたびに男らしくなっていくんだもん。
成長期の男の子って凄いね。

神である私にとって十数年なんてあっという間のはずなのに。
あなたにあってから今日までがとても長く感じるよ。
本当はすぐ欲しいものを我慢するとこうなるんだね。

ネタばらしは、告白は、元服まで待とうかと思ってたけど、一年ぐらい早くなっても問題はないよね。
うふふ。
○○、崇めてる豊穣神が私って知ったらどんな顔するかな?
私の正体について、神というのも選択肢の中に入れてるみたいだけどその中の豊穣神とは夢にも思ってないみたいだね。
それでも、きっと正体をバラシても今まで通り接してくれるよね。
そう言ってたし、○○がそういう奴だってことは私が一番分かってる。
でも、でもでも。接し方は今まで通りでもさすがに私からの、豊穣神様からのお願いは断れなくなるよね?結婚してくれるよねー?うふふふふ。


思えば、初めて幼いあなたと会った時に私はもう一目惚れしてたのかもしれないね。
最初はたまたま近くにいた農家の子と遊んであげるぐらいのつもりだったのにな。

○○の両親に、いや、人里のみんなに私の正体が○○に知られることがないように指示して、その後も何度も遊んであげて。
大きくなってからも色々な所に遊びに行ったね。
今ではあなたは。

昔からの付き合いである『穣子』と気を許し合える関係である男性であり。
自身の生活に密接に関係する『豊穣神様』を崇める農家の男性。



うふふふ。素敵。
ただひとつ問題があるとすれば私の正体を○○に隠すようにみんなに指示した時に凶行って言葉を使って脅したせいかな。
ちょっと徹底され過ぎちゃったね。徹底自体はいいんだけど○○がとても気にしてる。
でも、あとちょっとで終わるからね○○。


そうだ。今年の収穫祭に○○を出席させよう。
そこでネタばらし。
そのまま結婚式としてしまおう。
うふふふ。楽しみ。

○○の驚く顔が早くみたいな。
○○と早く結婚したいな。

うふふふふ。

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最終更新:2014年10月29日 20:17