今年も色々あったなと思い出す。暮れのこの時期は気づくと一年を振り返ってしまっている。

神子と結婚して数年。
そんな中俺たちは新婚さんのように今年もいろんなところにふたりで遊びに行った。
今思い出しても楽しい思い出だ。

とはいえ、一年の思い出はいいことばかりではない。
……。まず、先に断わっておくが、神子は聡明な女性だ。分析能力とかずば抜けてる。
でも、時々変なスイッチが入ってしまうことがある。
俺のことを愛してくれているが故に嫉妬深くなったり疑い深くなってしまう時がある。

そういった面があって今年も大変だった。
近所の奥さんや買い物する店の娘さんに対して持ち前の分析能力を放棄してあらぬ疑いをかけたりしていた。
なんとか落ち着かせても家に連れ帰った後、俺を愛するが故の行動だと2時間以上熱弁することもあった。
まぁ、2時間神子からの愛の告白を毎回最後まで聞いてる俺も俺だが。バカップルですサーセン。

おっと。一年を振り返るのもいいが、やることやってしまわないと。


「これがお隣の奥さんで、これが店の売り子さん、そしてこれが慧音さん。よし、こんなもんか。最終確認完了。漏れとかないな」
「……あなた」
「うおわぁ!?神子か?いつの間に背後に……てか帰ってたのか気付かなかった、ごめん」
「いえ、気にしないで。ただいまも言っていませんし忍び寄りましたから」
「なんで!?心臓に悪いからやめてって……あの、なんでそんなに睨んでんの神子?」
「うふふふ。私の耳には家の外からでも聞こえましたよ。今回は物的証拠がありますからね。間違いということはないですよ……」


あれ?神子ったら変なスイッチがはいってるんだけど……。
なんで?心当たりがないんだけど。とりあえず落ち着かせないと。


「神子、とりあえず落ち着こう」
「うふふ。私という者がありながら他の女へのプレゼントを用意するなんて……あいつらがあなたを、○○をたぶらかすのですね。あの女共には制裁をしなければ。
……あなたにも誰があなたに相応しいか、奥さんがいるのに浮気をする人がどうなるか教え込まないといけませんね……でもまずは女共から……」
「神子!!とりあえず話を聞いて!」

とりあえず今にも家を飛び出しそうだった神子をなんとか制して話をする状態に持っていく。
分析能力放棄どころか話すら聞いてくれないところだった。
現状、「あの女共……」と小さく呟きながら杓を素振りしているのが大変気になるところではあるが話を聞いてくれるだけ良しとしよう。……聞いてくれてるのかコレ?


そして俺も俺で神子を分析。
今までの発言から神子がどう勘違いをしているかを予測する。

「神子、勘違いしているようだが、ここにあるものはお前が思っているような物じゃない」

現在この部屋には包装された品々が置かれている。
本日、各所を回って買い求めてきたものだ。


「何が違うんです。女性の気を引くためのプレゼントでしょう?」
「違う違う。これは御中元だ」
「……御中元?でも女性にばかり渡す気ですよね?聞こえた渡す相手の名は女性ばかりでした」
「正確には、お世話になった人に渡す御中元とは違うんだよね。これは今年一年、妻がご迷惑をおかけしました、ていう名目で皆さんに渡すものだよ」
「……え?あ……」

目をパチクリさせる神子。どうやら気付いた様子だ。
そう。確かに女性宛ばかりのものだ。それもそのはず、神子が今年勘違いによってご迷惑をおかけした皆さんへの贈り物だからだ。
要は神子の尻拭いというか、フォローだ。だから我に返った神子は申しわけなさそうな顔をする。
さらに今回は先程までの自身の狼狽を恥じるまで冷静になったようだ。先程も言ったが根は聡明なのだ。顔を真っ赤にしてもじもじしている。

それにしても、恥ずかしがる姿も可愛いな我が嫁は。
「ごめんさない、あなた私のせいでやることになった作業なのにとんだ勘違いを……」
「いいよいいよ」
「お手伝いします!」
「もう買い物も、念のための確認も終わっているんだよねー」
「で、でしたら!皆さんにお配りするのは私が!明日はあなたは休んでいてください」
「う~ん。俺自身皆さんに頭を下げて回りたいしな。というか、神子最近忙しいとか言ってなかった?俺だけでも大丈夫……」
「いえ、せめて一緒に配って回ります!それが筋というものです!」

ん?なんかやけに聞き分けが悪いな。


「神子」
「なんでしょう」
「本音は?」
「○○を女共の元に、ひとりで行かすのはイヤ」
「正直でよろしい」

まぁ、表面上変な態度をとらなければ大丈夫ということと、可能なら神子本人にも頭を下げさせた方がいいかなと思ったので明日はふたりで皆さんの元に足を運ぶこととなった。

「さて、じゃあ夕飯にするか」
「はい」


神子が落ち着いたところで夕食にする。
家事担当は俺である。

それにしても神子が落ち着いてよかった。
ふと思ったのだが、神子は仕事中も変なスイッチ入ったりしていないのか?
まぁ、俺がいなければ勘違いのしようもないのか。
しかし、気になるな。今度、屠自古さんか布都ちゃんにでも聞いてみよう。

……あれ?このふたりに最後にあったのはいつだったかな。ここ最近見かけてすらいないな。
なんかものすごく嫌な予感がするんだが。俺とも知り合いである女の子ふたりを最近見かけていないとか。神子、変なスイッチが入った末に手をだしてないよね?
正直恐くて確かめたくはないが、神子の夫としてスルーはできない。

「なぁ、神子」
「はい、なんでしょう。あ、今日も美味しいですよあなた。特にこのジャガイモが」
「それはよかった。……えっと神子、聞きたいことがあるんだけど」
「なんでしょうか」
「変なことを聞くようだけどさ、屠自古さんと布都ちゃんって生きてる?」
「本当におかしなことを聞きますね。屠自古は亡霊なので生きてはいませんよ」
「そういうことじゃなくて……ふたりとも元気?」
「元気ですよ」

さすがに杞憂だっだ様だ。
もし神子がふたりを手にかけていた場合、元気など嘘は言わずに、手にかけたということと俺の為のだということ、俺をどれだけ愛しているかということを誇らしげに語るだろうからな。
そんな神子が容易に想像できる。あれ?なんか目頭が熱くなってきたぞ。
まぁ、うん。ふたりが元気ならいいや。


「ふたりがどうかしたのですか?」
「いや、ここ最近見かけていないからどうしてるかなって……」
「見かけないのは○○の半径300メートルに近づくなと厳命しているからです」
「なにしてんの!?」
「そこら辺の女と違ってふたりは部下なので命令できますからね……○○に近づくなと言う筋合があるというものです」
「えー。なんでそんなことを……」
「あなた、初めて布都に会った時に可愛いとか褒めてたじゃないですか」
「え?そんなこと言ったかな?」

布都ちゃんはまぁ、可愛らしい子だしそういったかもしれない。もう随分前のことなので覚えていないが。
え?なに?神子は覚えてるの?

「布都……○○をそそのかすとは……許しません……」
「え、神子の中でそんな解釈になってんの?」
「それに屠自古……○○のことをカッコいいと言っていました。きっと私から○○を奪う気なんです」
「それは単純に上司の夫を褒めただけじゃないのかな!?」
「今までは○○に近づかなければ問題ないと思っていましたが、それでは甘いですね」
「神子?」
「あなた……」
「な、なに?」

神子が箸を置く。
え?待って、もしかして。

「ちょっと用事ができました。出かけてきます」
「待て待て待て待て待て!!どこへ行く気だ!?何をする気だ!?」

やばい。これはやばい。ここ数年でもトップクラスにやばい。スイッチの入り方がやばい。イメージとしては押したスイッチがめり込んで外れなくなった感じ。
このままでは布都ちゃんと屠自古さんの身が危ないのはもちろん、博麗神社と八雲家への贈り物が増えることになる。
せめて神子が異変を起こすのは年に1度に抑えたい。年に一度も起こさないのが理想ではあるが。




口論の末、なんとか神子の部下襲撃を思いとどまらせる。
ただ、先程の様に完全に落ち着かせることはできなかった。

「とりあえず、俺も悪かったよ。妻の前で別の女の子を褒めるなんて駄目だよな」
「当たり前です!」
「でもさ。襲撃とかやめよう。というかもっと冷静に状況を判断してほしいよ」
「何を言っているんですか、あなたを大切だと思うからこそです。他の女共からあなたを守る為です。
言っておきますが、あなたが思っているよりも私があなたを想う、愛する気持ちは強いですよ!何倍も何十倍も!それに私はあなたの妻です!ですから……」

これは熱弁2時間コースの様だ。
2時間後にはいつもの神子に戻るだろう。神子に愛の熱弁をされるにも嫌いじゃないし今日も付き合おう。





2時間後。

「な、長々とすみませんでした」
「いやいや。俺の方こそ愛しているよ神子」
「もう、あなたったら……ああ!!」
「どうした?」
「そ、そういえば私達、食事の途中で……」
「あ、夕飯完全に冷めてるねコレ」
「ごめんなさい、あなた!せっかく作ってもらった食事なのに」
「大丈夫だよ、ほら食べよう?」

慌てながら謝る神子。
やっぱあれだね。
顔赤らめてる神子可愛い。

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最終更新:2015年05月06日 21:08