スレタイssその10。テーマは第8夜。ネタが出るまで大変でした。


「送ってくれてありがと。ここからは一人で平気だから」
「分かった。また明日」
「うん、またね」
○○は恋人――てゐを見送ると、元来た道を引き返し始めた。
デート後にてゐを途中まで送っていくのは2人の間に自然と出来た約束だった。

その帰り道のことである。
○○が歩いていると、不意に誰かに声をかけられた。
「こんにちは。偶然ね」
姿を表したのは鈴仙だった。何の気配もなく突然現れたことに若干戸惑いつつ○○も返事をする。
「やぁ、鈴仙。里にでも行っていたのか?」
その問いに鈴仙は首を横に振る。
「ちょっと散歩に出ていたのよ。ところで……い、今1人? よかったら私とこれからお茶でもどう?」
「今からだと日が暮れてしまうぞ」
「それなら永遠亭は? 歓迎するわよ。何なら泊まっていっても構わないんだから」
「行ってもお前との時間は取れないぞ」
だって、行ったら行ったでてゐが離れないだろうから。
○○はそう続けようとしたが――止めた。
何故なら○○が何を言おうとしたか察したのであろう鈴仙は柳眉を逆立てていたからだ。
「そう、それなら仕方ないわね」
語気を強め不機嫌になった鈴仙はずんずんと歩き出してその場を去って行ってしまった。

鈴仙が自分に対し好意を抱いているのは気付いていた。
だが応えることはできない。自分にはてゐがいるから。
「ごめん。てゐを裏切れないんだ」
○○は姿の見えなくなった鈴仙に対しそっと呟いた。

鈴仙が奥歯を噛み砕かん勢いで歯軋りしながらその言葉を聞いていたことも知らずに。


それから数日後。
○○はいつものようにてゐとデートをしていた。
てゐはいつにも増して上機嫌な様子で○○の手を取り指を絡ませていた。
ルンルンと鼻歌まで歌っていることから相当嬉しいようだ。
「ずいぶんご機嫌だな」
「うん! 大好きな○○と一緒に居れて嬉しいの!」
そのストレートな言い方に○○まで頬を緩めてしまう。
「俺もお前と一緒で嬉しいよ」
「本当!? 私、幸せ……!」
もう何度も言っているような気もするけど、まだこういう反応してくれんだなぁ。
まるで付き合い始めて間もないようなてゐに対し○○はなんだか懐かしい気持ちを感じていた。

「ねぇ○○」
「何だ?」
「私の目、見て」
言われるがまま○○はてゐの正面に立ち、その瞳を捉える。
大きくて丸い目に見つめられると、心の奥底まで彼女が入り込んでくる気さえする。

「これからもずっと私のことだけ見ていてね。約束よ」

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最終更新:2014年10月30日 19:13