小間使い○○と博麗の巫女




この話は以前ロダにあげた「執事○○と紅い悪魔」の
後日談や外伝というか同じ世界観で本編後の話です。



小間使い○○と博麗の巫女


人里の慧音の家。
八雲紫が客人として訪れていた。

本題の前の雑談を終えると、慧音が切り出した。


「その後、霊夢の調子はどうだ?」
「ええ、あなたのお蔭で今は落ち着いているわ」
「そうか」
「ただ、彼のことはきっかけに過ぎないのよ。うっぷんというか、ストレスは貯まったままよ。霊夢には話し相手が必要なの」
「紫や魔理紗ではダメなのか?」
「話相手となる殿方が必要なのよ。霊夢も女の子だもの。
博麗の巫女である霊夢に対しても普通に接してくれる殿方が」

力を持つ人物ということを気にせず接してくれる外来人のある男性と話をし、その彼のことを想うあまり暴走してしまった霊夢。
慧音の能力でその彼の記憶を消し、現在精神的に安定はしているが、またいつその安定が崩れるかはわからないのが現状だった。

「というわけで、霊夢の話し相手になってくれそうな殿方に心当たりはないかしら?人里にいい人材いない?
男性ってだけではなくて、できれば霊夢と同じ人間がいいと思っているのよ」
「唐突だな。だが、話し相手ができたらまた暴走してしまうんじゃないのか?」
「前回のことはすれ違い的なことが原因なのよ。今回は殿方には定期的に霊夢の話し相手になってもらうわ」
「そうか。……心当たりがないことはないが」
「さっきお茶を出してくれた彼?そういえば私にお茶を出した時に特に怯えたりしてなかったわね。いいんじゃない?
でもあなた小間使いなんて雇ってた?」
「紹介しよう。今呼んでくる」

慧音はそう言うと一度席をたち、1人の青年を連れて戻って来た。


「こいつの名前は○○。こいつも外来人だ。
里で色々と問題を起こしてな。里の者たちから締め出されそうになっていたが、私の元で更生させることにしたんだ。
締め出されるどころか、あのままでは私刑にされそうな勢いだったからなさすがに見ていられなかった」
「里の連中に納得させてもらう為にけじめってことで頭突きしといてよく言うよな。むしろあんたの頭突きの方が致死率高くないか?」
「ん?なんか言ったか○○?」
「いえ何も」
「……大丈夫なの?彼……」
「大丈夫だ。もう○○は更生を終えてる」

紫は不安そうに慧音に聞くが、慧音は即答する。

「というわけで、もう私の手元に置かなくても○○は大丈夫だ。
この際、話し相手としてだけではなく霊夢の住み込みの世話役としたらどうだ?」
「おい、ちょっと待てなんの話だこれ!?」

少女説明中……


「そういうことか。ようは小間使いとして世話する相手があんたから巫女に代わるだけだろ?」
「そうだな」
「まぁ、どうせ外界にも人里にも居場所はねえし、俺はそれでかまわないぜ」
「OKのようね。では早速行くわよ」
「え、いきなり?ちょ……おま……」

紫と○○は慧音を残してスキマの中に消えた。



○○が霊夢の小間使いとなって数日。
力を持つ存在である霊夢に対しても普通に接することのできた○○は霊夢に受け入れられていた。
身の回りの世話を始め、霊夢が望んだ時に話し相手になってやっていた。
紫からはできる限り、霊夢からのお願いは叶えてやってほしいと言われていた。
だから、その様に振る舞っていたのだが……つねに話相手の男性が側にいた為、情緒不安定な状態にこそならなかったのだが。

「ほら、霊夢。あーん」
「あ~ん」

○○が唐揚げを箸でつまみ、霊夢の口に持ってい行く。
霊夢は運んでもらったものを咀嚼していく。
箸は一応霊夢の目の前には置いてはあるが、霊夢はもってすらいない。
自分で食べ物を口に運ぶ気がないかのようだ。
子供が親に食べさせてもらうかに様にただ○○から食べさせてもらっていた。


「うん、今日もおいしいわ○○」
「そりゃどうも」
「ねぇ、次は玉子焼きが食べたい」
「おうわかった。ほら」
「あ~ん」
「おふたりさん御機嫌よう!ゆかりんよ~」
「ちょ……紫!?」

○○が今度は玉子焼きを霊夢の口元に持って行った時だった。
いきなりスキマが開き紫が現れる。
他人の目の前ではさすがに恥ずかしいのか霊夢は自分で箸を使いだす。
口調も子供の様なものから普段の口調に戻っていた。
○○は苦笑しながら霊夢の口へ持っていく途中だった玉子焼きを自分の口へと運んだ。



「霊夢、悪いんだが食器の片付けの洗いを頼めるか?」
「うん、まかせて」

食後、○○に言われ霊夢が食器を持って部屋を出ていく。
残されたのは○○と紫だ。

「あなたが霊夢の小間使いのハズよね?」
「しょうがねぇだろ。話があるんだろ?できれば霊夢抜きでの。だったらこうするのが一番だ」
「そうね……それで、霊夢のあの状態なんだけど……説明してもらっていいかしら?
こっちもこっちの仕事があって24時間様子を見ていることはできないのよ」
「むしろ一日の何割見られてんのか気になるなおい……。
そうだな、最初は話し相手とか部屋の掃除とかを頼まれていたんだがな。
段々、膝まくらとか単純に頭を撫でたりする感じの要求が増えてきたんだ。
それで今ではあの様子だ。ふたりっきりの時は口調も幼くなっているな」
「なるほど。そういう感じなのね。……これは幼児退行ってやつね」
「それでどうする?良くない兆候だって思うなら、歯磨きや着替えとかは自分でやるようにいうが」

それはつまり、そういったことも今は霊夢にお願いされて○○が手伝っているということだ。
○○自身、聞いていた霊夢の状態と違うから面食らった。
てっきり恋人の様な関係になるかと思っていたが、これでは兄か父親になった気分だ。
歯磨きや食事は○○にやってもらうように頼むのに○○自身の食器洗いなどの仕事は手伝いたがるところも子供のようだった。

「そうね……これはこれで異常だけど、完全に人格が子供になったといわけではないし、特に幻想郷にも問題はない。
このまま望むようにしてあげてくれる?」
「了解」

○○の答えを聞くと紫はスキマの中に消えていった。
残された○○は霊夢から洗い物の仕事を引き継ごうと席をたった。



紫がそうしてくれといったこともあり○○はその後も霊夢のおねだりを叶えてやった。
そうしているうちに、口調や仕草、思考が子供っぽくなる頻度は増えていき、霊夢は○○とふたりっきりの間はほぼ幼児退行の様な状態になっていた。
○○としては、こんな状態で博麗の巫女としての仕事ができるのかと不安だった。
自分と離れたくないなどと言って異変解決に行かなくなったりなどしたら本末転倒ではないかと。
とうはいえ、ある程度紫も現状は把握しているだろうし(○○の思っている以上に様子を見られている時間は多いような気がしていた)○○が気にしてもしょうがないと途中で考えるのやめた。
なにより○○のそばにいる間に霊夢が見せる満たされたような表情をみているとこれでいいのかなと思えた。


特に○○となにか話をすることを好む霊夢とその日も○○は神社の縁側で会話をしていた。
話の内容が○○がここに来る直前のことになり、慧音のところで働き出したいきさつを話した時だった。
霊夢の雰囲気というかたたずまいが最近の中で一番大人帯びたのを○○は感じ取った。

「どうした……霊夢?」
「○○……慧音に頭突きをされたって……大丈夫だったの……それに、無理やり、過酷で、やりたくない仕事を強制されたりしなかった?」
(あ、マズいなこれ)

○○は内心舌打ちする。
霊夢の変なスイッチを入れてしまったらしい。
どうしようかと○○が考えているうちに霊夢はフラフラと立ち上がるとおぼつかない足取りで神社の外に向かおうとした。

「ちょっと待て霊夢!どこ行く気だ!!」
「待っててね。すぐに終わらせてくるから。○○を傷つける奴はすぐに消してくるから」

紫から話で聞いていた被害妄想ともいえる過保護さ加減を発揮している霊夢。
今にも人里に向かって飛び立ってしまいそうだ。
○○は焦って停止する。

「待て霊夢。話を聞け!一回こっち戻ってこい」
「でも……」
「俺の言うことが聞けないのか?」

子を叱る親のような調子で咎める。
すると霊夢はビクッと体を震わせたあと静止した。
そしてゆっくりと振り返ると○○の元まで戻って来た。

「よし、偉いぞ」

○○はホッとしながら戻って来た霊夢の頭を撫でて褒めてやる。
○○に褒められた霊夢は幸せそうな顔で撫でられていた。

その後○○は、慧音に対して、頭突きに関しては恨んでいない、仕事も無理なものを強制されたこともないと説明した。
むしろ、更生させてもらったりして感謝していること、霊夢を紹介してもらったのも慧音であることなどを話して慧音を襲撃しないことを約束させた。
約束したからには大丈夫だろうと大事にいたらず止められたことに安堵する○○。


子供の様に色々なことを○○に手伝ってもらっている今の霊夢だが、それを全部○○が自分でやれと言えばやるだろう。
それどころか○○が命令すれば逆に、霊夢が○○の小間使いの様になってしまうだろう。それほどまでに今の霊夢は○○の言うことならなんでも聞くようになっていた。
何でも言うことを聞くし、指示されたことを完遂したことで褒められるのを望んでいる。それこそ子が親の言うことを聞いて褒められたがっているかのように。
だからこそ、今の様に暴走を止めることもできた。


座りなおした霊夢とまた話をしようとしたその時、○○は何か嫌な物を感じた。
霊夢とは関係なく、遠くの空に。
霊力の類のない○○でも感じ取れる異常。日常とは違う何か。
紫や慧音から聞いていた異変という奴だろう。

「○○」

そちらの方に気を取られていると、霊夢に声をかけられた。
○○は霊夢の方に顔を向けて驚いた。

そこには、幼児退行し姿でも先程の大人びているが変なスイッチが入り、光のない目を見開いたままの姿でもない、博麗の巫女としての霊夢がいた。


「私……行かなくちゃ」
「そうか……いってらっしゃい」
「いってきます」


どう声をかけようかと悩み、結局ありきたりな挨拶しか言えなかったが、霊夢はそれでも満足した様子で飛び立っていった。
どうやら、その時がくれば霊夢は博麗の巫女としての仕事をこなすことはできるようだ。
○○はそんな霊夢が帰って来た時の為に、豪勢な夕飯を作る為に台所に向かった。



「そういや異変解決ってその日に終わるのか?」


作り終わってから、霊夢が今日中に帰ってこない場合もあり得るのではないかと思い唸る○○。
そんな○○の耳に霊夢の声が外から聞こえてきた。


「○○ー!ただいま!!」
「おお、おかえり!」

帰ってくるなり、いつもの幼くなった様子で○○に抱き着いてくる霊夢。
○○は抱きとめてやり、異変解決の労をねぎらって頭を撫でてやる。

「今日は異変解決で疲れたろうからな。いつもより夕飯を豪勢にしてあるぞ」
「本当!?やった!……ねぇ○○?」
「なんだ?何でも言ってみろ」
「あのね……今日は○○の元を離れて寂しかったから……今日は一緒に寝てくれない?」
「え?一緒に寝るって……」
「同じ布団で添い寝してほしいなって」
「添い寝?ああ、そっちか」
「そっち?一緒に寝るって他に何があるの?」
「……秘密だ。今のお前にはまだ早い」
「?」
「気にすんな。今夜は添い寝してやるから安心しろ。ほら、飯にするぞ。腹減ったろ?」
「うん」

思考を含めて幼児退行している今の霊夢には、男性である○○と一緒に寝るというのは、ただの添い寝といういう以外の発想がないらしい。
いつかは、この保護者の様な関係から一線を越えることはあるのかなと思いつつ。
○○はもしその時が来ても、こなくても、これからもこの少女の願いは叶えて行ってやろうと決意するのだった。

○○自身、霊夢に頼られたり甘えられることが嬉しかった。
心の底から誰かに必要とされるのが初めての○○にとって、霊夢の側は居心地が良かった。

そんな○○の脳裏に共依存という言葉が脳よぎったが、別にそれでもいいかと深く考えることをやめ、霊夢の口元へ食事を運ぶことに集中する。


「○○、大好き!」
「こら、食べ物噛みながらしゃべるな」
「はぁい」

そして霊夢はそんな○○に対して、いつからか毎日言うようになった台詞を今日も言うのだった。








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最終更新:2019年02月02日 16:38