男は言った
お前の、人間の愛情のレベルでこの郷の女を愛せるか、受け止められるのかと
「俺も女は色々見てきたさ。女ってのは男なんぞより遥かに業の深いいきものなんだぜ
偉そうなくせに卑屈で、わがままなくせに傷つき易く、怒れば豹変した様に泣き出す
陰口は言うのに言われればこの世の終わりのごとく嘆く
つまらないことから命を賭けてでもこちらを試す
昨日までは普通だったのに、明日は化けて女妖様になっている。何でも有りだ」
クククと喉を鳴らし、お土産代わりに持ち込んだ外来品のウィスキーをゴクゴクと呷った
「この郷は蟲毒みたいなもんだ。女と男の情念が交じり合い、ドロドロと結界の中に渦巻いている
愛されたいと渇望する女の要望に答えて、あの賢者は愛される為の男を投げ入れる
女は気に入った男を咥え込み離さない。そうしてぐるぐるグルグルと情は回る、回っていく永劫に……」
空になった瓶を、そっと縁石に置いて男は青年を見やった
「そんなものの、一部になりたいのかお前は?
一部になってでも、彼女を好きだと言えるか? 愛せるか?
向こうは愛せるだろう、それこそ、常軌を逸した感覚で
だが、人間と妖怪の感覚は隔絶してるんだよ……悲しい事にな
そのままじゃ、いずれ破綻して終わりだ。なら、どうするか……
答えの1つは、これだ」
男が外套をすっとめくると、青年はうめいて一歩後ずさった
男は自嘲に満ちた面持ちで、外套を元に戻した
「そうだ……愛しあうには、同じ土俵に立つしか無い
となれば、タダの人間が強大な妖怪のステージに引き上げられる、つまりはそういうことだ
さて、どうする? 今なら、まだ引き返せる。外に行けるぞ?
お前の愛情は、どれくらいのものなんだ?」
青年は落ち込んだ様子で、去っていった。留まるかは……五分以下だろう
「全く、罪作りな場所を作るよなあんたは。女ってのは何時もそうだ
男を囲って逃がさない為だけに世界すら作ってしまう。本当に欲深くてどうしようもない
付ける薬すらないってのはこの事だな」
「そんな薬要りませんわよ。治す気は更々ありませんから」
隙間から抱きついて来た女を、男は抱きとめ呆れたような口調で見やった
そう、何時だって男よりも遥かに女の方が欲深く、男を欲して止まないのだ
最終更新:2015年02月03日 11:10