「具合はどうかしら、◯◯」
「ああ、問題ないよ幽々子。移植の手術を受けたことが無いから実感しづらいけど」
隣に座って庭園を眺めている自分の妻にそう返答する。
魂を一部融合させる。
正確に言えば、◯◯の魂に幽々子の魂のほんの一部を移植させる。
◯◯自身の人ならざる者への適性が無ければ、この仰天な試みは実行されなかっただろう。
常人にこんな真似をすれば、亡霊姫と呼ばれる幽々子の魂に◯◯の魂があっという間に侵食されてオシマイ。
◯◯の妖魔に対する適性があればこそ、出来た話しである。
もっとも、そのような体質だからこそ霊界に迷い出たり、幽々子に魅入られたりしたのだが。
彼女の執着と愛情は人間の身には過分であり、◯◯でなければそう遠からず壊れていただろうから。
その晩、幽々子は友人に誘われて神社の宴会に出向いた。
◯◯は一度連れて行かれた後、反省会の結論として宴会には出席禁止となった。
故に、世話役の妖夢と一緒に残るのである。
「◯◯様、今宵は私が務めさせて頂きます」
肌襦袢姿の、上気した面持ちの妖夢が布団の前で深々と頭を下げる。
妖夢もまた、◯◯に惹かれ女の情を深く深く抱いていた。
修練の邪魔になるからと短くしていた銀色の髪は背中に届くぐらい長くなり。
襦袢の間から見える胸の膨らみは、まだ小さいものの柔らかい曲線を描くようになっていた。
恋愛を知った女は変わるというものだろうか。それはそれでいいものかもしれない。
ただ、主人同様強烈さと妄愛といえる程の執着が無ければ……であるが。
そんな主従と愛し合えるこの◯◯という男も、ある意味普通ではないかもしれない。
「妖夢。気のせいかもしれないけど……魂魄が少し小さくなってないか」
求め、求められるままに情を熱く交わした後。
長くなった髪をなんとなく手櫛で漉いていた◯◯は何気なく聞いてみた。
枕元にふわふわ浮かんでいる、妖夢の魂魄。
それが、なんとなく、なレベルではあるが……小さくなっているような気がしたのだ。
「ああ、それですか。ええ、少し小さくなりましたね。でも、大丈夫です。これ以上は小さくなりませんから」
「ああ、やっぱり小さくなってたのか。でも、その抜けた分はどこに言ったんだ?」
◯◯の問いに、妖夢はどこか艶っぽい笑顔を浮かべた後
「私の、一番大事な人の大事な箇所の中に、ですよ」
といった。
「………いつの間に」
「幽々子様が貴方の中に入られた後、です……私も、◯◯さんとずっと繋がっていたいから」
つまり、今の◯◯の魂は、少量とは言え二人分の魂が余分に混合しているという事になる。
もし、二人が、あってはならないことだが幽々子と妖夢が◯◯を巡って鞘当を始めたりしたら……
「妖夢」
「はい?」
「喧嘩をせず、仲良くな?」
取り敢えず、◯◯は妖夢に釘を刺すことにした。
◯◯が本当の意味での霊界の住人となる、一ヶ月前の事である。
最終更新:2015年02月03日 11:42