小ネタ その3 銭湯
幻想郷の生活水準では、各家庭に必ず風呂があるとは限らない。
水道という設備が整いきっていないので、裕福な家でなければ、
準備も片づけも容易でないからだ。
ならば一般的な家庭までの人々は身を清めるのにどうするか。
そこで活躍するのが銭湯という施設だ。
里に住む外来人も当然こちらを利用するのが常である。
例外は婿入りという形でどこか裕福な家に転がり込む者くらいのものか。
が、銭湯を利用する者の内、外来人のみで見た場合、
この例外が占める割合は、意外や意外に結構高い傾向にある。
それは何故か。
里で生活を始めた頃の外来人は、銭湯に行く余裕はあまりないので、
利用頻度は決して高くない。
が、生活に慣れてくれば、外来人だからこそ、多少貯蓄に回す分が減ってでも、
ほぼ毎日銭湯に訪れる様になる。
ここで外来人の仕事における特徴を1つ挙げるが、
十中八九以上の確率で、何かしらの妖怪達に関わる事になる、という点がある。
さて、とある外来人がいつもの様に仕事を終え、
染み付いた汗を流そうと鼻唄混じりに銭湯に向かっている。
いつもの様に番台に料金を払って入ろうとするが、珍しい事に番頭に止められてしまう。
首を傾げる彼を、番頭は何だかんだと理由をつけて、
普段は使われていない個室型の風呂場へ案内してしまう。
最初は訝しげな表情の彼も、個室を目にするや、そんな気持ちもふっとんでしまう。
外来人にとって慣れ親しんだ個室型の風呂場であり、それを自由に使って良いと言われれば、
多少強引であっても機嫌の1つも良くはなると言うものだ。
さて、いつも以上に湯船をまったりと満喫し、とりとめもない事をぼんやり考えていると、
突然女性の声が扉越しに聞こえてくる。誰かはわからないが何となく聞き覚えのある声だ。
その声は湯加減を訪ねている。
ここに連れてこられた外来人は、思い思いの言葉を返すが、
大抵の場合、直後の展開には着いていけないだろう。
突然風呂場の扉が開いたかと思えば、目の前にいつも仕事先で顔を合わせる妖怪の少女が、
一糸纏わぬ姿で入室してくるのだ。
顔を真っ赤にして多少もじもじとしているその少女は、
猫の尻尾を持っているかもしれないし、
真白い犬耳かもしれない、もしかしたら鼠や虎の耳があるかもしれない。
急な展開に言葉を失った彼を、入室した少女は背中を流すといって洗い場へと誘う。
そして、手ぬぐい等は使わず少女自身の身体を使って、彼の身体を清め始める。
幾分かの時が過ぎ、
少女と共に風呂場から出てきた彼が目にするのは、
不穏な空気を纏う少女の知り合い、当然こちらも妖怪達の姿だ。
少女が誰であろうと、そこに必ず共通して待機している女性がいる。
賢者と呼ばれる紫の服を纏う女怪だ。
彼女は、呆然とする彼に対し、静かに問いを投げかける。
こうなった以上、責任は取っていただけますよね、と。
晴れて2人は夫婦となり、彼は人間の里から少女の住む家に引っ越す事になるのだった。
幻想郷の銭湯
それは人外の女性達が、問答無用で、それでもあくまでも強制ではなく合意の形で、
意中の男をモノにするお見合い会場でもあるのだ。
ちなみに、現時点でも成功率は10割である。
-了-
最終更新:2015年06月06日 21:05