わかさぎ姫/20スレ/782




私は今日も彼のために湖で綺麗な石を探す。

彼は、外来人でたまたま霧の湖のほとりを通りかかったときに私が拾い集めた石を見てそれを褒めてくれた。
嬉しくなって集めた石のいくつかを譲ってあげた。そのあと、とりとめもない話をした。
人魚のわたしのことを気味悪がらずに笑顔を向けてくれた。歌が上手だと褒めてくれた。とても楽しい時間だった。


しばらく日にちがたってから、また彼と会うことができた。
彼は私の譲った石を加工してとても綺麗な首飾りを私に送ってくれた。

「この前のお礼だよ。」

そういってやさしく笑いかけてくれた顔がいつまでたっても忘れられない。


彼がやってくる時間が近いことを日の高さをたよりに見当をつけていつもの場所へ向かうことにする。
彼はまた、私の集めた石のことを褒めてくれるだろうか?
手の一つでもつなげたらなどと考えながら泳いでいるとあっという間に到着した。
私は彼が来るのを待つ、彼が来るまでに今日はどんな話をしようとか考えるのも幸せだった。
気分が高揚してしまっていたのだろう。鼻歌を歌いながら彼のことをまっているとあぜ道の向こうに人影が見えた。
きっと彼に違いない!私はわくわくしながら彼のことを待つ。


ふと気付くと人影が二人分ある。彼ではなかったのだろうか?
近づいてくるにつれてはっきり分かる人影、片方はやはり彼だった。もう片方は人里によくいるような女性だった。
私は彼の隣りに女がいることに気付くと内心に暗いものが広がっていく。
なんで他の女なんて連れてくるの?なんで他の女に笑いかけているの?やっぱり人魚はだめなの?どうして?
彼が私に気付いて手を振りながら近づいてくる。私は彼のことを笑顔で迎えることはできなかった。
私がうつむいたままでいると、彼の隣りの女が私に話しかけてきたがその声はよく聞き取れなかった。いや聞きたくなかった。


私は無我夢中で彼を捕まえて逃げるように水の中へと引きずり込んだ。
彼に他の女といてほしくなかった。彼の隣りで彼の笑顔を向けられるのは私だ。頭の中はそれだけでいっぱいだった。
私と彼はずっと一緒だ、この湖の底には私たちふたりっきりだ。
彼はもう動かなくなってしまったけど、私は彼のためにこの霧の湖の綺麗な石を集め続ける







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最終更新:2020年09月20日 18:14