OOはつくづく後悔した
なぜなら、10分程度で出口を見つけられるなんて考えが否定されたように、屋敷は広かったのだ
妙に長い廊下と紅いステンドガラス。そして、等間隔に設置されたドア。吸血鬼の館とは違った恐怖と、自ら作りだしたあまりにも少ない制限時間がOOの焦りを加速させていた
「(この後の『罰』を考えたら、あんまり長くは言えないもんなぁ…)」
心の中で考えながら、手当たり次第に玄関を目指す。足の歩みは止まることを知らず目的地へと急ぐ
探索開始から、およそ9分。OOは遂に見つけた
「あ、あった!!!出口だ!!!」
他とは比べ物にならないほど大きいドア。おそらくはここから先がこの屋敷から抜け出る唯一の道なのだろう
OOが安堵の気持ちでドアに触れようとした、その時
「時間ですよ。OOさん」
振り向くと、桃色の悪魔が立っていた
OOが目を覚ました所はまた、あの部屋だった
「やっと、起きてくれましたね」
運の悪いことにさとりまでいた
「なぁ、俺はちゃんとこの屋敷から抜け出るドアに時間以内についた。だからあんたにはもう用は無いんだが」
「あら、あの先がちゃんと外へと通じるドアだという確証は?開けてもいないのになぜ分かるんですか?」
「それは………」
「それに、解放の条件は『あなたが指定した時間以内に地霊殿から脱出すること』。あのときはまだあなたはこの建物なかに居ましたわ」
「そういうお前こそ、時間を弄ってたりしたんじゃないのか?」
「生憎、私はどこかのメイドと違って時は操れません。それに、最初にあなたに『私自身からの干渉はしない』って誓ったはずです」
「……」
「さ、そういう訳で議論はおしまい。早速罰を実行します」
そう言うとさとりはOOに近づく。そして、OOに生えた第三の目を開き、OOに抱きついた
「今から10分間。罰を実行しますので、あなたは絶対に離れてはいけませんよ」
「離れてはいけない、って」
抱きつくなんていつものことだろ
そう言おうとした矢先、OOは何かを感じとった
「(大好き)」
誰かの声だった
「(?俺とさとり以外、誰もいないのに声なんて…)」
考える内に声ははっきりと聞こえるようになる
「(な、何なんだ!?これは。そ、そこら中から聞こえてく……!?)」
「(大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き)」
言葉では言い表せない狂気。それがOOの心を瞬く間に支配した
さっきの思考を最後に、OOは気絶した
それからもOOはゲームを続け、さとりはOOに『罰』を与えた
OOの精神はさとりの想像よりも強く、さとりの精神攻撃を難なく耐えていた
しかし、それと同時に言葉では表現しにくい何かどす黒い気持ちもさとりはOOの心から感じとっていた
そして、何度目かの罰で、悲劇は起こる
「(もう嫌だ)」
さとりは驚いた。瞬時にOOの顔を見るが、心から聞こえた言葉とは裏腹に目はどこか遠くを見つめていた
「(おかしい。彼の心の中は既に私でいっぱいで物事を考える余裕なんてないはずなのに・・・)」
第三者の可能性も考えたが、さとりはこの屋敷には自分とOOに二人しか居ないことを思い出し、すぐさまこの考えを否定した
そうこうしている内にまた聞こえはじめる
「(もう嫌だ、帰りたい、消えてしまいたい、居なくなりたい)」
明らかにOOの負の一面が現れたものであった
さとりは、ただ傍観することしか出来なかった
次第にOOが無意識に、もしくは心の底からの本音のつもりで吐き出される負の一面は、さとりの精神を不安定なものへと変えていった。そして
「ああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
”大嫌いだ”、”お前など死んでしまえ”
さとりはOOが拒絶の反応を見せると、絶叫し、その場に倒れ込んでしまった
翌日。さとりはOOの鎖を外した
「どういう意味だ?」
「今日のゲームは特別です。罰も制限時間もありません。その代わり、今すぐスタートしないとあなたを本気で妖怪にします」
OOは少々驚きつつも部屋を後にした
うっすらと見えたさとりは、やはり歪んだ表情であった
OOは、いつも先へ進めなかった、あの大きな扉の前まで来ていた。おそらくはこの先が出口。そうでありたいと思う反面そうでないで欲しいという乱れた感情のまま、扉を開けた
目に入ってきたのは箱庭程度の小さな草原と、中央にぽつんと立てられた灰色の石であった
OOが石に近づくとそれは墓だった
「(あの扉の先にはこんなものが・・・)」
墓の表面に刻まれた文字を見る
”親愛なるペットの烏 ここに眠る”
”親愛なるペットの猫 ここに眠る”
OOは墓に手を合わせるとその場を後にし、先へと進んだ
もう一つの扉の先も、自分が居たところと似たような造りになっていた
しばらくの探索の内、また大きな扉を見つける。OOがそこを開けるとその先は書斎になっていた
おそらくはさとりの部屋だろうと思いつつ本棚に向かう
外国の本から日本の物までがきっちりと整理された状態で置かれており、持ち主の几帳面さをも伺わせる
机も上には一冊の本と文房具が置かれているだけだった
「こいつは・・・」
本はさとりの日記であった
OOは少々戸惑いながらも日記を開いた
そこに、全てが記されていることを願いながら
<続く>
最終更新:2015年06月13日 23:19